【MLB】 レンジャーズはなぜ“見えない魔球”を打てたのか 第7戦でハビアーをKOしたアプローチとは

写真:ハビアーから先制弾を放ったレンジャーズ・シーガー

日本時間24日に行われたア・リーグチャンピオンシップシリーズ第7戦は、レンジャーズ打線の爆発によって呆気なく幕を閉じた。

アストロズの先発クリスチャン・ハビアーはわずか0.1回3失点でマウンドを降りた。プレーオフでは歴代最高の被打率.071を誇り、絶対的な信頼を寄せられる投手だったハビアーは、今年のプレーオフでも2戦2勝。シリーズ第3戦でも、レンジャーズ打線を5.2回2失点3安打に封じていた。

ハビアーの無双の源は、“インビジボール”の異名を取る魔球・4シームだった。球速こそ平凡だが、抜群のホップ方向への変化量、低めのリリースポイントから高めに集める制球力が合わさることによって、打者からは見えなくなるほどに浮き上がる。

第3戦でもハビアーはこの4シームを64%の割合で投じ、7つの空振りを奪っていた。しかし、第7戦では7回のスイングを誘って空振りは1個、コリー・シーガーへの先制被弾を含む4本のハードヒットを喰らっていた。

この日のハビアーは全23球中15球をこの4シームに頼っていたが、あえなく打ち込まれた。レンジャーズにはこの“魔球”を攻略する秘策があったという。

FOXの試合中継の中で紹介されていたのは、レンジャーズの打撃コーチであるドニー・エッカーが送ったアドバイス。エッカーはレンジャーズの打者たちに「ボール3個分高く来ると思ってスイングしろ」というゲームプランを伝えていた。

『ジ・アスレチック』のエノ・サリス氏によれば、浮き上がるような4シームに対するこのアプローチは、レンジャーズのマーカス・セミエンが実施していたものだという。

セミエン(当時アスレチックス)は2018年のプレーオフを前にマシンで打撃練習をしていたところ、苦手としていた4シームへの対処法を思いついた。いつもよりボールの上を叩けば良い、そのひらめきを即座に試合で実践すると、アロルディス・チャップマン(当時ヤンキース)の4シームを捉えることができた。

セミエンはそれを続く2019年にも実践すると、高めの4シームへの対応はみるみるうちに改善。2019年はア・リーグMVP投票3位に食い込むブレイクイヤーとなり、その後はリーグ屈指の二遊間の選手に成長した。

しかし、高めの4シームを上から叩くというアプローチには、低めの変化球への対応が脆くなるという弱点がある。

セミエンは「低めの変化球は見逃せばいい」と語っているが、キレのある低めの変化球を見切るのは簡単なことではない。しかし、レンジャーズは最もそれに長けたチームだ。

レンジャーズ打線のボール球スイング率はメジャー最高の25.5%。最も選球眼が良いチームがこのレンジャーズなのだ。

そして、ハビアーは投球のほとんどを4シームに頼り、残りの3割ほどがスライダーというスタイル。このアプローチを取るにはうってつけの投手だったというわけだ。

魔球攻略のための秘策が完璧にハマり、12年ぶりのワールドシリーズへの切符を手にしたレンジャーズ。レイズ、オリオールズ、アストロズの投手陣を打ち砕いてきた自慢の打線に死角はない。

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