子どもの頃、基地作りに夢中になったことはありませんか。
基地で食べるおやつや基地でする遊びは、いつもよりおいしくて楽しくて、ドキドキしていたように思います。
2023年8月、福山市内海町に新しい「基地」ができました。
おいしいごはんや楽しいことがたっぷりと詰まった基地の名前は「UTSUMI BASE(ウツミベース)」です。
金曜日から日曜日は大人たちのために、月曜日と水曜日は子どもたちのためにと、その表情を変える基地の魅力に迫ります。
Curry&Cafe UTSUMI BASE(カリー&カフェ ウツミベース)
金曜日から日曜日のUTSUMI BASE(以下、ウツミベース)は大人のための場所。
優しい味のカリーと心躍るカフェメニューを楽しみに、次々とお客が訪れます。
みじん切りの玉ねぎをあめ色になるまで炒め、ブレンダーで細かくした野菜を合わせてくつくつと煮込んだスパイスカリーが、ウツミベースの看板メニューです。
ウツミベースカリー
店名を冠したカリーの中にゴロゴロと入っているのは、横島ファームの「うつみ潮風豚」です。
内海町の自然の中で健康に育てられているうつみ潮風豚は、あっさりとした甘さの脂と旨みたっぷりの肉が特徴。
一口目で、普段食べている豚肉とは一線を画していることがわかります。
ほろほろに煮込まれていながら旨さを内側に秘めた豚、形を失くして脇役に徹している野菜たちの甘み、そして優しく香るスパイスが三位一体となって押し寄せてきます。
潮風豚のカツカリー
No.1人気メニューは、ウツミベースカリーにうつみ潮風豚のもも肉のトンカツがプラスされたカツカリー。
カツをサクッと噛めば、口の中に幸せが広がります。
2種盛りカリー
ウツミベースカリーもキーマカリーも食べたい、という悩みを解決してくれるメニューです。
キーマカリーには、青姫とうがらしとうつみ潮風豚のミンチが使われています。
少しだけピリリとくる辛さが程よいアクセントで、交互に、あるいは混ぜながら2種類のカリーを味わえるのは大人ならではの特権かもしれません。
もちろんこのメニューに、さらに好きな具材をトッピングすることも可能。
1週間頑張った自分へのご褒美にもいいですね。
週替りスパイスカリー
週替わりで特別なスパイスカリーが登場します。
つまりたった3日間しか味わえない、貴重なメニューですね。
かぼちゃ、ナス、さつまいもなど、採れたての旬の素材を生かした、華のあるカリーに仕上がっています。
この間食べたあのカリーはもうないの?と残念がるお客さんも多いのだとか。
プリン
運ばれてきた瞬間、思わず声をあげてしまったこちらのプリン。
カラメルソースは別添で、好みの量に調整できるのもうれしい気遣いです。
カレーでお腹が一杯だと思っていても、滑らかでやわらかい味のプリンは、つるりとお腹に入ってしまうから不思議です。
キャラメルナッツアイス 黒みつ黒ごまきな粉
一見、シンプルな黒みつアイスですが、スプーンを入れるとライスパフやキャラメルナッツが出てきます。
さまざまな食感が楽しい、幸せなおやつです。
ブレンドコーヒー
ウツミベースオリジナルのブレンドコーヒーは、新涯町のKoi Coffee Roaster さんの手による少し深煎りの大人っぽい味です。
香りを嗅いだ瞬間に、ああそうだ、イメージの中のコーヒーってまさにこの香りだ、と思いました。
備前焼のカップは、コーヒーの味をさらにまろやかにする素晴らしいパートナーです。
しばらく無言のまま、味と香りに集中したくなるコーヒーに出会いました。
クラフトジンジャー
手作りのクラフトジンジャーにも、カリーと同じスパイスが使われています。
生姜とスパイスのやわらかな刺激が、疲れた身体にじわじわと沁みていくようでした。
心地よい空間に心癒され
ウツミベースの魅力は食べ物や飲み物だけではありません。
懐かしさと新しさが同居する、リノベーションした古民家も味わいのひとつです。
掘りごたつにソファなど、席は一つひとつ個性があります。
窓辺のおひとり用テーブルは、足踏みミシンが生まれ変わったものです。
窓から見えるのは幼い頃に祖父母の家で遊んだ記憶を呼び覚ましてくれるような、ていねいに手入れされた庭の景色。
一つひとつ違う表情のランプも、居心地の良さを作っている立役者ですね。
入り口のすぐ側と奥のテーブルには、委託販売コーナーもあります。
マクラメ編みアクセサリー、ハンドメイドアクセサリー、キャンドルの3人の個性がきらめく作品が並んでいます。
子どもおうちごはん塾 UTSUMI BASE
月曜日と水曜日のウツミベースは、子どものための場所に変わります。
学童保育でも学習塾でもない、元気に活動するために必要な栄養を摂るために欠かせない「ごはん」と、内海町の自然に触れる「子どもおうちごはん塾」です。
畑の野菜を収穫したり、自分たちでごはんを作って食べたりしながら、子どもたちはいきいきと過ごしています。
夏休みには朝から子どもたちがやってきて、自然の中で遊び、ごはんを作って食べました。
ここで初めて包丁を持った、という子どももいます。
自分たちで竹を割って、そうめん流しをしたり、飯盒炊さんや釣りを楽しんだり。
普段できない体験を、子どもたちはこの塾で楽しんでいます。
利用できるのは、年長から小学校6年生までの子どもたちです。
1日単位で申し込めるので、興味がある人は気軽にお問い合わせください。
▼子どもおうちごはん塾の時間や料金などは、次のとおりです。
ウツミベース代表の岡本真明(おかもと まさあき)さんたちに、ウツミベースのこだわりについて、じっくりお話を聞きました。
ウツミベース代表たちにインタビュー
ウツミベース代表の岡本真明(おかもと まさあき)さん、妻の岡本雅美(おかもと まさみ)さん、スタッフの安原真由美(やすはら まゆみ)さんに、ウツミベースを始めた背景などを聞きました。
きっかけは新型コロナウイルス感染症だった
──はじめから大人のためのカフェと、子どものためのごはん塾とを並行して考えていたのですか。
真明(敬称略)──
はい。前職はサラリーマンだったのですが、新型コロナウイルス感染症の流行で売上が落ちこみ、希望退職を受け付けていたんです。
もともと定年前に会社をやめて自分で何かをやりたい、と漠然と考えていました。
計画よりも少し早いけれど始めるなら今なんじゃないか。
そう思って退職し、具体的なプランを考え始めました。
雅美(敬称略)──
同じ頃、私も悩んでいたんです。
放課後児童クラブの支援員をしていましたが、学校が休みになったり、再開しても子どもたちの利用を制限したりの状態でした。
子どもたちにとって楽しい場ってなんだろう?
安心や安全な場所も必要だけど、本当にこの環境でいいんだろうか?
同じ放課後児童クラブで出会った真由美さんとは、子どもたちも私たちも楽しめる場所を作るために何かしたいという話ばかりしていました。
夫の退職を機に、実は私たちもこんなことを考えていると伝え、2人で補助金や助成金の制度のことを調べながらどんな場所にしたいのかを考えていきました。
最初はただの妄想でしかありませんでしたが、少しずつ形が見えてきたんです。
──その結果が、子どもおうちごはん塾なのですね。
雅美──
ええ。今は共働きが増えて、保護者も忙しいですよね。
家で子どもに手伝いをさせたくても、自分でやったほうが速いから「手を出さないで」となってしまう。
子どもが家事を学ぶのも難しくなっているんです。
だから自分たちでごはんを作って食べ「生きる力」を学ぶ場所、として「塾」と名付けることにしました。
真明──
カフェをやりたい、そして子どもが生きる力を学ぶ塾をやりたい、その条件に合う物件をあれこれ見ていたのですが、なかなか難航していました。
けれども、不動産情報でこの物件を見つけ、見に来てみたらそこから話がトントンと進んで。
自然の遊び場というのもテーマにしていたので、海も山もある内海町は自分たちのやりたいことにぴったりの場所だったんです。
2023年の2月から築108年のこの古民家のリノベーションを始めました。
プロの手も借りましたが、自分たちでできることはしたかった。
庭の木を切ったり、天井を抜いて吹き抜けを作ったり、漆喰を塗ったり。
友達にも手伝ってもらって準備を整え、2023年8月18日にウツミベースをオープンしました。
──ウツミベースのロゴはカフェと塾で色違いですね。
雅美──
ええ。同じ場所でやっているけれど、わかりやすく区別するためにロゴの色を変えました。
デザインしたのは、東京に住んでいる兄とそのパートナーです。
福山にちなんだコウモリをロゴに使いたい、とオーダーしたんですね。
パートナーさんが内海町のことを調べてくれて、田島と横島が並んだようすがサングラスのように見えるからと、こんなステキなロゴを作ってくれました。
この星は、ウツミベースの場所を示しているんですよ。
ウツミベースに集う人たち
──2023年8月18日にオープンしてから2か月ほどですが、お客さんはどのような人が多いですか。
真明──
最初は友人や知人が来てくれていましたが、最近はInstagramを見たと言って来てくれる人が増えていますね。
その人たちがまたSNSで発信してくれるので、しだいに認知度が上がってきているようです。
自分もバイクや自転車が好きなので、ツーリングの途中に寄ってもらえるように、駐輪場は広く取りました。
そんなことも楽しんでもらえる要素になったのでしょうか、大人たちが「基地」として利用してくれるのを、うれしく思っています。
雅美──
近所の人も「ちょっとお茶ができるところができたのはいいわー」とか、「子どもの声が聞こえるね、楽しそうだねえ、やっぱりいいね」と喜んでくださっています。
これ使っていいよと道具を貸してくださったり、柵付きの畑を貸してくださったり。
この間植えたじゃがいもは、イノシシに食べられてしまったんです。
きちんと柵をしないといけないことを学びました。
──子どもたちにとって、岡本さんたちはどんな存在ですか。
雅美──
子どもたちは私たちを「おかちん」「まちゃさん」「まゆさん」と呼びます。
教える人と教わる人、という関係にはしたくなかったので、子どもたちには「大人の友達」という感覚でいてもらえたらいいですね。
自分たちが楽しめることを
──秘密基地のリーダーという感じですね!
真明──
自分たちが一番楽しんでいるんですよ。
実を言うと「ウツミベース」の名前は、所ジョージさんの「世田谷ベース」をリスペクトしています。
ベースって、「基地」の意味なんですね。
ここは自分たちの基地だし、子どもたちの基地だし、大人たちの基地でもある。
みんなの基地でありたいと思っています。
──カフェのメニューにも「楽しむ」というスタンスが現れているように感じます。週替わりメニューがあるのも、そのひとつでしょうか。
真由美(敬称略)──
そうです。そのときに採れたもの、地元の食材を生かしたものを食べてもらいたいので、次は何を出そうかなとワクワクしながらメニューを考えています。
以前、お国柄、豚肉を食べられないお客さまがいらしたことがあるんです。
ウツミベースには豚肉のカリーしかないので、デザートだけを食べて帰られたお客さまを見送りながら、豚肉以外のカリーもあったほうがいいなと思いました。
今週(2023年10月20日〜22日)は、初めてチキンのカリーを用意したんですよ。
今後は内海町の魚介類も使ってみたいですね。
新鮮な魚や海苔など、おいしいものがたくさんあるので!
雅美──
もちろん、うつみ潮風豚のカリーは定番メニューとして出していきます。
地元のお肉だというのもありますが、何より本当にこだわりを持って育てているから、味が違うんです。
横島ファームの社長さんに「私たちこういうことをやりたいので、お肉を分けてもらえませんか」とお願いしたら、自分たちも内海町を盛り上げたい、ぜひ使ってくださいと快諾してくださいました。
──うつみ潮風豚のファンも多そうですね。スイーツも楽しくいただきました。あのプリンは本当にかわいくて心臓を打ち抜かれた気分でした。
真由美──
ありがとうございます。
スイーツも自分たちが食べたいもの、食べて楽しいと思うもの、を基準に考えているのでそう言ってもらえるとうれしいです。
──ウツミベースの歴史は始まったばかりですが、これからさらにやってみたいことはありますか。
真明──
そうですね。2023年9月末にサボテンの寄植え教室をやったのですが、とても好評でした。
12月には、委託販売している作家のひとりであるMoonbowさんのキャンドルワークショップを予定しています。
オープン前後はやることがいろいろあってなかなか手が回りませんでしたが、少し落ち着いてきたので、今後はこの場所をもっと有効に使いたいと考えているところです。
レンタルスペースとして貸し出したり、ワークショップの企画をしたりしていきたいですね。
ウツミベースはみんなの基地
みんなのための新しい基地として誕生したウツミベース。
内海の豊かな自然の中でごはんを作って食べる楽しさを感じ、生きる力を身につけていく子どもたちが、これからどのように成長するのかを考えると心が躍ります。
大人のかたは、古民家の温かさと魅力いっぱいのカフェメニューで、週末のゆったりとしたひとときを楽しんではいかがでしょうか。
「ウツミベースはみんなの基地」
その言葉を反芻しながらの帰り道は、身体も心も軽くなっているように感じました。