「後継者難」倒産 上半期最多の222件 代表者の高齢化で、「体調不良」が急増

2023年度上半期(4-9月)の「後継者難」倒産

2023年度上半期(4-9月)の後継者不在に起因する「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は、年度上半期では最多の222件(前年同期比8.2%増)だった。企業倒産は、コロナ禍の資金繰り支援効果の希薄化で、2022年度同期から2年連続で増加し、「後継者難」倒産はコロナ禍前の2019年度同期を底に、4年連続で前年同期を上回った。

要因別では、最多が代表者の「死亡」の97件(前年同期比18.4%減)。次いで、「体調不良」が88件(同54.3%増)で、「死亡」と「体調不良」が合計185件(同5.1%増)と、「後継者難」倒産の8割(83.3%)を占めた。代表者の高齢化が進むなか、後継者の育成や事業承継が進んでいないことを示している。
産業別では、最多がサービス業他の62件(前年同期比21.5%増)。次いで、建設業57件(同39.0%増)、製造業30件(同16.6%減)と続く。
資本金別では、1千万円未満が138件(前年同期比9.5%増、構成比62.1%)と、小・零細企業が主体となっている。

金融機関は企業の経営再建にあたって、後継者の有無を重視している。ただ、中小・零細企業は業績や資金面だけでなく、人的リソースの制約が大きく、事業承継の準備が遅れがちだ。また、代表者が高齢なほど業績が悪化する傾向にあり、事業再構築への抜本的な改革が難しく、自治体や金融機関を含む周囲の支援が急がれる。

※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2023年度上半期(4-9月)の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。


「後継者難」倒産 年度上半期では最多の222件

2023年度上半期(4-9月)の「後継者難」倒産は222件(前年同期比8.2%増)で、年度上半期では4年連続で前年同期を上回り、最多を更新した。
コロナ禍での支援策が奏功し、年度上半期の企業倒産はコロナ禍の2020年度同期、2021年度同期と2年連続で減少した。
一方、「後継者難」倒産は、2019年度同期の124件を底に、2020年度同期から4年連続で前年同期を上回って推移した。2023年度同期の「後継者難」倒産では、代表者の「体調不良」を要因とした倒産は、コロナ禍前の2019年度同期から急増(42→88件)している。代表者の高齢化が進み、コロナ禍で先行きの見通しが立たず、事業承継の準備が後回しとなっている。
後継者の有無は、事業継続の重要な課題でもあり、今後の推移が注目される。

【要因別】「体調不良」が1.5倍に急増

要因別件数は、最多が代表者の「死亡」の97件(前年同期比18.4%減)で、4年ぶりに前年同期を下回り、年度上半期では3年ぶり100件割れとなった。
次いで、「体調不良」が88件(同54.3%増)と前年同期の1.5倍に急増。2年連続で前年同期を上回り、2013年以降の年度上半期では過去最多になった。
「死亡」と「体調不良」の合計は185件(同5.1%増)で、4年連続で前年同期を上回った。構成比は83.3%(前年同期85.8%)だった。
このほか、「高齢」が25件(前年同期比8.6%増)で、5年連続で前年同期を上回った。
代表者の高齢化が年々進んでいる。ただ、業績低迷が続く中小・零細企業では、後継者の育成や事業承継の準備まで手が回っていない。そのため、代表者が亡くなったり、病気などの体調不良となった場合、事業を引き継ぐことができず、事業継続に支障をきたす。

【産業別】増加5産業、減少5産業

産業別件数は、10産業のうち、5産業が増加した。
最多がサービス業他の62件(前年同期比21.5%増)で、年度上半期では3年連続で前年同期を上回り、初めて60件台に乗せた。
次いで、建設業が57件(同39.0%増)で4年連続、小売業が26件(同18.1%増)で3年ぶり、不動産業が7件(同40.0%増)が2年ぶり、金融・保険業が2件(前年同期1件)が2年連続で、それぞれ前年同期を上回った。
建設業と小売業、金融・保険業の3産業は、調査を開始した2013年以降、年度上半期では最多を記録した。
一方、農・林・漁・鉱業2件(前年同期比60.0%減)と運輸業5件(同37.5%減)、情報通信業4件(同20.0%減)が2年ぶり、製造業30件(同16.6%減)と卸売業27件(同12.9%減)が4年ぶりに、それぞれ前年同期を下回った。

業種別件数では、木造建築工事業が10件(前年同期2件)、一般管工事業が9件(同6件)、建築工事業が7件(同6件)と、建設業で倒産件数が多い。建設業では、一人親方も多く、代表者の死亡や体調不良などが事業継続に直結しやすい。このほか、食堂,レストラン7件(同ゼロ)、不動産代理業・仲介業と酒場,ビヤホールが各4件(同1件)、内装工事業(同2件)、生鮮魚介卸売業(同1件)、婦人服小売業(同ゼロ)、時計・眼鏡・光学機械小売業(同ゼロ)、配達飲食サービス業(同2件)が各3件などで、前年同期を上回った。

【形態別】9割以上が消滅型の破産

形態別は、破産が210件(前年同期比8.8%増)で、年度上半期では4年連続で前年同期を上回った。構成比は94.5%(前年同期94.1%)で、3年連続で90%台で推移。
中小・零細企業では、人的リソースが乏しく、代表者が営業から経理まで経営全般を担当しているケースが少なくない。そのため、代表者に不測の事態が発生した場合、代わりに業務を遂行できる人材もなく、事業継続を諦め、債務整理のため破産を選択している。

【資本金別】1千万円未満の構成比が6割

資本金別は、「1千万円未満」が138件(前年同期比9.5%増)で、年度上半期では4年連続で前年同期を上回った。また、構成比は62.1%(前年同期61.4%)だった。
このほか、「1千万円以上5千万円未満」が80件(前年同期比12.6%増)で、2年ぶりに前年同期を上回った。一方、「5千万円以上1億円未満」が4件(同42.8%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。また、「1億円以上」は、4年ぶりに発生がなかった。

【負債額別】1億円未満の構成比が過去最高の78.3%

負債額別は、「1億円未満」が174件(前年同期比37.0%増)で、年度上半期では2年ぶりに前年同期を上回った。構成比は78.3%(前年同期61.9%)で、過去最高になった。
このほか、「1億円以上5億円未満」43件(前年同期比37.6%減)と「5億円以上10億円未満」5件(同37.5%減)が、4年ぶりに前年同期を下回った。「10億円以上」が、2015年度同期以来、8年ぶりに発生がなかった。

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