介護離職、 発生企業の5割超で支援制度を利用せず  「休暇がとりにくい」が15%、 支援制度の定着が急務

「介護離職に関するアンケート」調査

介護支援制度の定着遅れが、介護離職を生んでいる。介護離職が深刻さを増すなか、介護離職者が離職前に介護休業や休暇を利用しなかった企業が5割超(54.5%)あることがわかった。
東京商工リサーチ(TSR)は企業を対象に、介護離職についてアンケート調査を実施した。厚生労働省は、育児・介護休業法の改正に向けて動き出したが、企業の約4割(38.0%)が「仕事」と「介護」の両立支援が十分でないと回答した。介護だけでなく、「休暇がとりにくい」との回答も15.6%あり、支援制度の周知と同時に、休暇取得に対する周囲の理解が進まないと、ますます介護離職が増える可能性が高い。

東京商工リサーチは10月、介護離職に関するアンケート調査を実施した。それによると今年8月までの1年間に介護離職者が発生した企業は10.1%で、このうち正社員が65.3%を占めた。仕事と介護の両立支援をマニュアルなどで明文化している企業は50.2%と半数だった。だが、介護離職者の54.5%は、過去1年間に介護休業や休暇などの制度を利用していなかった。

企業の約4割(38.0%)は、両立支援の取り組みが十分と考えていないが、代替要員の確保が難しいこともネックになっている。また、支援制度の浸透だけでなく、周囲への配慮からか休暇が取りにくいなどの回答も目立った。将来、介護離職者が増えると考える企業は64.5%に達した。
介護離職者は、業務経験が豊富な中堅以上が多く、企業にも退職の損失は大きい。介護離職を防ぐための支援制度の周知や拡充が遅れると、社会的にも損失が広がることが懸念される。

※ 本調査は、2023年10月2日~10日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,125社を集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。


Q1.貴社で、過去1年間(2022年9月~2023年8月)に介護を理由とした退職者(以下、介護離職者)は発生しましたか?(択一回答)

介護離職 企業の1割で発生
今年8月までの1年間に介護離職が「発生した」との回答は10.1%(4,972社中、504社)だった。一方、「発生していない」は89.8%(4,468社)だった。
規模別では、「発生した」は大企業が18.3%(599社中、110社)に対し、中小企業では9.0%(4,373社中、394社)で、大企業が9.3ポイント多く、従業員数の多い大企業ほど深刻だ。
業種別(中分類、母数10以上)の「発生した」比率では、バスやタクシーなど「道路旅客運送業」が40.0%(10社中、4社)で最も高かった。次いで、美容院やエステティック業などの「洗濯・理容・美容・浴場業」が35.7%(14社中、5社)、病院など「医療業」が33.3%(27社中、9社)と、労働集約型産業で個人対象の業種が上位に並んだ。
一方、「発生していない」比率が高かった業種は、「自動車整備業」(25社)、旅客海運など「水運業」(16社)、テーマパークやパチンコホールなど「娯楽業」(10社)、石油精製業など「石油製品・石炭製品製造業」が各100.0%だった。

Q2.過去1年間の介護離職者は何名ですか?(択一回答)

介護離職者数は規模に相関関係なし
過去1年間の介護離職者数は、1名が68.8%(401社中、276社)と約7割を占めた。次いで、2名が19.7%(79社)、3名が6.9%(28社)と続き、6名以上は0.7%(3社)だった。
規模別では、1名が大企業で65.0%(60社中、39社)、中小企業で69.5%(341社中、237社)で大きな差はなかった。

Q3.過去1年間の介護離職者は男性と女性のどちらが多いですか?(択一回答)

介護離職 男性が中心も、中小企業ほど女性が増える
過去1年間の介護離職者は、「男性の方が多い」が51.6%(426社中、220社)、「女性の方が多い」が37.0%(158社)、「同じぐらい」が11.2%(48社)で、「男性の方が多い」が「女性の方が多い」を14.6ポイント上回った。
規模別では、「女性の方が多い」は、大企業が29.8%(77社中、23社)、中小企業が38.6%(349社中、135社)で、中小企業ほど女性の介護離職が多かった。

Q4.過去1年間の介護離職者は「正社員」と「非正規社員(パート・アルバイト、派遣社員など)」のどちらが多いですか?(択一回答)

大企業ほど正社員の介護離職が多い
過去1年間の介護離職は、「正社員が多い」が65.3%(424社中、277社)、「非正規社員が多い」が26.4%(112社)、「同じぐらい」が8.2%(35社)で、「正社員が多い」が6割を超えた。
規模別では、「正社員が多い」は、大企業が70.6%(75社中、53社)に対し、中小企業は64.1%(349社中、224社)で、大企業が6.5ポイント上回った。
一方、「非正規社員が多い」は、大企業が17.3%(13社)に対し、中小企業は28.3%(99社)で、中小企業が11.0ポイント高く、事業規模と雇用形態で介護離職者は異なる傾向が出た。

Q5.過去1年間に発生した介護離職者のうち、介護休業(通算93日)・介護休暇(対象1人当たり年5日)のいずれかを利用していた人の割合はどの程度ですか?(0~10の整数で回答ください)

介護休業・介護休暇 介護離職者の5割超が利用せず
過去1年間の介護離職者で、対象となる家族1人につき通算93日まで休業できる「介護休業」と
付き添いなどで利用される「介護休暇」のいずれかの利用を聞いた。その結果、「(利用した従業員が)いない(0割)」が54.5%(220社中、120社)と、半数以上の企業で介護を目的にした休業、休暇の施策を利用していないことがわかった。
また、休業、休暇を取得した従業員のいる企業では、「1割」が15.0%(33社)、「10割」が14.5%(32社)と拮抗し、利用している企業でも取得についてニ極化がみられた。
規模別は、「いない」が大企業が36.8%(14社)に対し、中小企業は58.2%(106社)だった。「10割」は大企業が26.3%(10社)、中小企業が12.0%(22社)で、従業員数の多い大企業ほど中小企業より取得率が高く、代替人員がいるかどうかで取得率に差が出たようだ。

Q6.「仕事」と「介護」の両立支援に向け、貴社での取り組みや整備した制度は次のどれですか?(複数回答)

マニュアルなどで明文化が5割
仕事と介護の両立に向けた企業の取り組みを聞いた。
最多は、「就業規則や介護休業、休暇利用をマニュアルなどで明文化」が50.2%(4,898社中、2,461社)だった。次いで、「取り組みや整備した制度はない」が25.2%(1,237社)で、マニュアルなどを整備している企業と、していない企業が両極端の結果となった。
数は少ないが、「法定を超える介護休業、介護休暇制度」は5.3%(261社)、「介護に関する資金支援」は1.1%(58社)あった。
規模別では、「取り組みや整備した制度はない」が大企業8.1%(648社中、53社)に対し、中小企業は27.8%(4,250社中、1,184社)と大きな開きが出た。

Q7.「仕事」と「介護」の両立支援について、貴社の取り組みは十分だと思いますか?(択一回答)

取り組み十分とは思わないが約4割
仕事と介護の両立支援への企業の取り組みを聞いた。「そう思う」は18.4%(5,125社中、947社)と約2割にとどまり、「そう思わない」が38.0%(1,951社)と約4割が不十分と回答した。
また、「わからない」は43.4%(2,227社)で、仕事と介護の両立支援を模索している企業が多いことを示している。
規模別では、「そう思う」は大企業21.0%(679社中、143社)、中小企業18.0%(4,446社中、804社)と、取り組みの評価に大きな開きはなかった。

Q8.Q7で「そう思わない」と回答した方に伺います。その理由は次のどれですか?(複数回答)

代替要員を確保しにくいが6割
仕事と介護の両立支援への企業の取り組みが十分とは思わないと回答した企業に理由を尋ねた。
最多は、「代替要員を確保しにくい」が62.4%(1,913社中、1,194社)。次いで、「自社に前例が少ない」も51.9%(994社)と、前例踏襲に頼る企業も半数を超えた。
また、「介護休業制度が社員に浸透していない」は31.1%(596社)だった。支援制度を整備しても社員の利用が低く、仕組みなどの周知徹底が遅れている可能性もある。
「介護に関わらず、休暇が取りにくい」が15.6%(299社)、「職場の雰囲気(上司・同僚の意向)」が9.7%(187社)など、介護休業への意識改革が進んでいない企業も少なくない。
規模別では、「介護休業制度が社員に浸透していない」が大企業は47.1%(242社中、114社)、中小企業は28.8%(1,671社中、482社)と大企業ほど浸透していないとの回答が多かった。これは環境は整備されていても、運用側に課題がある可能性もある。

Q9.介護離職者数は将来的にどうなっていくと思いますか?(択一回答)

増えると思うが6割超
介護離職者が将来的に増えるか、減るか、変わらないかを尋ねた。「増えると思う」は64.5%(5,120社中、3,303社)と6割超に達した。一方、「減ると思う」は1.8%(93社)にとどまり、「変わらないと思う」が33.6%(1,724社)だった。大半の企業が将来的に介護離職者が増えると考えている。
規模別では、「増えると思う」が大企業69.7%(678社中、473社)、中小企業63.7%(4,442社中、2,830社)と大企業が6.0ポイント高かった。また、「減ると思う」は、大企業が2.0%(14社)、中小企業が1.7%(79社)と大きな差はなかった。

Q10.介護休業は、現在最長で年93日取得が可能です。93日という期間についてどう思われますか?(択一回答)

短いが約4割
最長、年93日取得可能な介護休業の期間について、「短い」は38.6%(3,166社中、1,224社)と約4割を占めた。一方、「長い」は29.9%(949社)、「ちょうど良い」が31.3%(993社)と拮抗している。
規模別では、「短い」が大企業58.6%(445社中、261社)、中小企業35.3%(2,721社中、963社)と大企業が23.3ポイント高く、大企業ほど介護休業の期間が短いと考えているようだ。

Q11. Q10で「短い」と回答された方に伺います。その理由は次のどれですか?(複数回答)

介護の「終わり」の予測が難しいが9割超
Q10の回答理由を尋ねた。最多の回答は、「介護の「終わり」の予測が難しいため」が91.2%(1,218社中、1,112社)と9割超を占めた。次いで、「施設の空きが少なく、復職までに時間を要する可能性があるため」が50.9%(620社)と半数を占め、期間を理由にする回答が多かった。
対して、「共働き世帯が増えているため」が33.5%(409社)、「能力を持つ社員の離職が会社の損失につながるため」も23.7%(289社)あった。
介護する社員も、社員が所属する企業も、介護の重みを知るだけに期間に関する思いは複雑なことがわかる。

Q12.経営者の方に伺います。ご自身がどなたかの介護をする必要に迫られた場合、どのようなご決断をされますか?(択一回答)

廃業や承継、会社売却が計4割超
経営者が、自身の親族などの介護が必要となった場合、「介護と両立の道を探る」が53.4%(3,032社中、1,619社)と半数が経営を続ける意向を示した。しかし、経営を退く回答の「親族外の後継者に委ねる」は17.5%(531社)、「親族の後継者に委ねる」は16.2%(493社)、「会社を売却」は6.8%(208社)、「廃業する」は2.3%(72社)で、合計43.0%(1,304社)が経営から退くと回答した。
規模別では、「介護と両立の道を探る」が大企業52.2%(153社中、80社)、中小企業53.4%(2,879社中、1,539社)とほぼ並ぶ。経営から退くとの回答は、大企業42.4%(153社中、65社)、中小企業43.0%(2,879社中、1,239社)と、ここでも差は出なかった。


介護離職の問題が深刻化するなか、老人福祉・介護事業者の倒産も高水準で推移している。
特に、ヘルパー不足に悩む訪問介護事業の倒産は2023年1-9月で47件に達し、過去最多ペースと厳しい経営環境が続く。介護事業は公定価格のため、物価高などの価格転嫁ができず、賃上げも他の産業と比べて伸び率が低い。介護事業者の不安定な経営が続くと、求める介護を受けられない介護難民の増加も懸念される。
厚生労働省は介護休業について、制度の特設サイトやリーフレットなどで支援制度の周知を進めている。しかし、人手不足で代替要員の確保が難しく、休暇が取りにくい雰囲気も残り、今回のアンケートでは介護離職者の発生企業の5割超で介護休業や休暇の利用が進まず、課題が山積している。
介護離職は、貴重な人材の退職を招くだけに企業への影響も大きい。介護休業制度の周知徹底は当然だが、介護は待ったなしで、企業と当事者に突き付けられた問題は重い。介護休業への支援制度が根付かなければ、介護離職は社会全体の問題に広がりかねず、早急な取り組みが必要だ。

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