サンアントニオ・スパーズ2023-24シーズン展望――スーパースパーズファン小谷氏が地元ジャーナリストを直撃

サンアントニオ・スパーズの熱烈なファンで、現在アメリカ在住の小谷太郎氏が、NBAスパーズの地元サンアントニオのテレビ局KENS5のスポーツキャスター、 ケイシー・ビエラ氏とタッグを組んでスパーズ動向を語り合う「スパーズ・ラウンドテーブル(座談会[※今回は二人による対談])」をスタート。今シーズンを通して随時実施予定とのことで、ここでは開幕直前に行われたその第1回目の内容をお伝えする(収録は北米東部時間10月23日)。「地元メディアの声を直接耳にすることはなかなかないと思うので、これを機にスパーズを身近に感じてもらえればと思っています」と小谷さん自身も楽しく取り組んでいる企画だが、ドラフト全体1位のビクター・ウェンバンヤマ加入など話題も豊富なスパーズの情報を、二人の会話でぜひ楽しんでいただきたい。

ウェンビー加入で戦い方の幅が広がったスパーズ

日本時間10月21日(北米時間20日)に行われたゴールデンステイト・ウォリアーズとのプレシーズン最終戦でのビクター・ウェンバンヤマ。身長224cmでダンク、ドライブ、3Pショット、ミドルレンジのプルアップ・ジャンパーなど驚くべき多彩さをもつ超人的プレーヤーだが、この試合でも3Pショット2本成功を含む19得点に4リバウンド、5ブロックの活躍で122-117の勝利に貢献した(Photo by Thearon W. Henderson/Getty Images)

小谷: プレシーズンが終わったね。昨シーズンのレギュラーシーズンはディフェンシブ・レーティングが119.6っていう悲しい数字で最下位。プレシーズンの数字はあまり正直ではないけど、5試合でリーグ8位の104.2まで改善でき、ディフェンスはアクティブで良かった。

フォワードのジェレミー・ソーハンにプレーを作らせる“ポイント・ソーハン”も良かった。彼の役割は、今はビクター・ウェンバンヤマとハイピック(高い位置でのピック&ロール)をすることではなくて、オフェンスをセットしてイニシエートさせる(起点となる)ことだからね。チームとしてプレシーズンで、平均29.6アシスト(リーグ3位)を記録していたのも印象的だったよ。

ビエラ: ディフェンスに対してのコミットメントはとても高いように感じた。去年のディフェンスは本当に酷かったから。ウェンバンヤマもあの身長と長さで、ただリム周辺で立っているだけではないのでインパクトも大きい。メディアデーでデビンヴァセルは、はっきりディフェンスが酷かったと話していたし、チームとしてもそれが問題だと認識しているように感じたよ。

“ポイント・ソーハン”は、NBA2Kの世界では試せたかもしれないけど、世間は本当にチームがこれにコミットするとは思っていなかったんじゃないかな。これもある種ウェンバンヤマがポジションレスでプレーできることの恩恵かもしれないよ。ソーハンもポイントカードをこなすと言いながら、身長203cmと大きい。これからもっとオーソドックスではないラインナップでプレーしてもおかしくない気がしているよ。

僕はコーチでないけれども、ウェンバンヤマのスキルを見ていると、例えばウェンバンヤマが3番、ザック・コリンズが4番、チャールズ・バッシーが5番でソーハンとデビン・バッセルなんていうラインナップがあってもおかしくない。ウェンバンヤマの存在がいろんな選択肢を生む可能性があるよね。

プレシーズンでもう一つ感じたことは、グレッグ・ポポビッチHCがオープンマインドであること。例えばソーハンをポイントカードで起用していることもそうだし、これまで以上にオープンなマインドセットでロスターに順応しようとしている姿勢が見られる。ウェンバンヤマがいることはとても贅沢なことだけども、“ポイント・ソーハン”が機能すればソーハンの存在もとても贅沢なものになるし、さらにオーソドックスではないラインナップが見られるかもしれない。

ジェレミー・ソーハン(写真/©NBA)

小谷: ウェンバンヤマの活躍は理屈抜きにすごいね。正直サマーリーグで見たときは、身体作りも含めてNBAに適応するのに少し時間が必要かなと思っていたけど、完全に間違っていた。プレシーズンでは、サイドステップからの3Pショットだったり、ファストブレイクでユーロステップからのダンクを決めたり、ビデオゲームみたいなことをそつなくこなしている。

ビエラ: プレシーズンのマイアミ・ヒート戦をアリーナで見て、そこで初めて肉眼でウェンバンヤマを見たよ。15分くらい試合に出て、5,6回シュートして、1ブロックを記録する程度でベンチに下がるかなと想定していたけど、僕が思っていた以上のプレーヤーだったし、世間が思っている以上だね。今の時点ですでに、ファンがあっけにとられてしまうようなことを毎試合できてしまう。

ただ、当然他チームは彼をスカウトして試合に臨むからプレースタイルは解析される。シーズン中どこかで彼が苦境に立たされることが出てくる。そういう場面で彼がどう対応して、適応するのかを見るのがとても楽しみだ。もしかしたらウェンバンヤマの引き出しからポポビッチHCも想像していなかったことが出て来るかもしれない。

でも全体的にはタロウの意見に同意だね。彼のプレーはとんでもなくすごいよ。キャリアはまだ始まったばかりでも、彼はすでにグローバル・セレブリティだ。メディアデーでは、仕事を忘れて彼の写真を撮ってしまったこともあったよ。サンアントニオの街にとっても特別なときがやってきたんだ。

K.ジョンソンの新たな役割への対応、D.バッセルの活躍に注目

小谷: 今シーズン注目のプレーヤーの話をしようか。僕はケルドン・ジョンソン。昨シーズンの彼は、平均22.0得点を挙げてチームのリーディング・スコアラーだった。メディアデーではディフェンスに注力したいことを話していて、プレシーズンではそれは実行できたよ。オフェンス面ではウェンバンヤマとバッセルが一番得点を稼ぐ気がしていて、ポイントガードにソーハン起用となると、ジョンソンがボールに触れたりシュートする機会は減ってしまう。役割が昨シーズンから変わる過程の中で、彼がオフェンス面でインパクトを出し続けられるかに注目している。

昨シーズンの3P成功率は32.9%であまり高くなかったけど、その前のシーズンは39.8%。今シーズンはオープンな3Pショットを狙える機会はたくさん作れる。彼は走れるプレーヤーでもあり、昨シーズンはトランジションでのポゼッション数がチームトップの平均3.9だった。ディフェンスに加えて、3Pショットとトランジション、そこに得意のリムアタックを組み合わせて効率的・効果的に得点を稼げるか。そこが彼の貢献を図る指標になるかなと思っていて、僕は彼にはそれができると思っている。

ケルドン・ジョンソン(写真/©NBA)

ビエラ: 僕も彼がチームで一番役割が変化するプレーヤーだと感じている。彼が昨シーズン得点でチームトップだったことは、シュートの機会が多かったり、バッセルの長期欠場なども影響している。2シーズン前はデジャンテ・マレーがオフェンスの中心で、ジョンソンはキャッチ&シュートから効果的に得点を奪って自分の居場所を見つけた。今シーズンは当時の状況に近いんじゃないかな。

オフェンスでは恐らくサードオプションになるし、シーズンが経過していく中で、現実となるかは不明だけど彼はシックスマンの役割に移行することも考えられる。ソーハンのポイントガード起用が仮に失敗してしまった場合、トレ・ジョーンズがスタメンに加わる。誰がスタメンから外れるかと考えると、仲間外れ的になってしまうけれどもジョンソンになる。これは彼が悪いプレーヤーというわけではなくて、彼のスキルセットはシックスマンとして最大限に活用されるんだ。特にベンチから出場して得点源となれるプレーヤーは重要だと思うし、ジョンソンはそれができる。

今のロスターのコアと呼べる、契約も延長されて長期プランに入っていると考えられるプレーヤーの中で、ジョンソンが一番大きな変化を経験することになる。彼が変化をどう受け入れてプレーするかには、顕微鏡で物を見るように周囲も注目しているし、本人も確実に認識しているよ。

小谷: ケーシーの注目選手は?

ビエラ: 僕の注目選手はデビン・バッセル。昨シーズン僕らが彼に期待したのは、オフにどういうワークアウトをして、どこまでゲームの幅を広げられたのかだったけど、欠場が多くて残念ながらあまり彼のプレーを観ることができなかった。プレシーズンでは、流れるようなプレーで3Pショットも絶好調だった。彼がオフェンスでは2番目のオプションになる。ときと場合によっては1番目のオプションになるかもしれない。プレシーズンのヒート戦の後に、ポポビッチHCが「ウェンバンヤマには一つしかプレーデザインをしなかった」と語っていた。もしかしたら一番プレーコールされるのはバッセルになるかもしれない。僕の彼への期待値はとても高いよ。

デビン・バッセル(写真/©NBA)

さて、ここまで小谷氏によるサンアントニオ地元ジャーナリストとのスパーズ談義兼取材の要約を紹介した。スパーズはプレシーズンゲーム5試合を3勝2敗と勝ち越し、日本時間10月26日(北米時間25日)にホームのフロストバンク・センターで戦うダラス・マーベリックスとの一戦から、いよいよレギュラーシーズンに突入する予定だ。果たしてどのようなシーズンとなるか、まずは見どころの多い82試合となりそうなことが、小谷氏とビエラ氏の会話から感じられる。

小谷氏はこれまでたびたびサンアントニオを訪れ、スパーズの公式戦観戦だけでなく、市長との面会、地元メディアの番組出演などでホームファンの間でも知られる存在だ。実は今シーズン、日本でスパーズの人気を上昇させようと「Paint it Silver & Black!」と名付けたプロジェクトを自ら立ち上げた。その活動の一環として、今後もビエラ氏とのコラボレーションのほか現役プレーヤーやレジェンド、あるいは対戦相手への取材なども予定しているので、乞うご期待だ。

ケイシー・ビエラ氏(Casey Viera/KEN5)

小谷太郎氏(Taro Kotani)

© 日本文化出版株式会社