ロバート・ロドリゲスが“ヒッチコック愛”炸裂の最新作『ドミノ』を語る!「『アリータ2』はキャメロンも撮る気満々だよ(笑)」

ロバート・ロドリゲス監督 『ドミノ』© 2023 Hypnotic Film Holdings LLC. All Rights Reserved.

『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996年)から『シン・シティ』(2005年)、『マチェーテ』(2010年)、そして『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)や『マンダロリアン』(2019年~)まで、常にジャンル映画ファンのハートを掴んできた名監督ロバート・ロドリゲス。『スパイキッズ』シリーズ(2001年~)など作風の幅広さにも定評のあるロドリゲス監督が、長年あたためていたという脚本をついに映像化した。

ベン・アフレックを主演に迎えた最新作『ドミノ』は“催眠”をテーマに、ある刑事と謎の組織とのスリリングな攻防を描いたトリッキーなSFサスペンス&ミステリー。このたび本作の日本公開を前に、ロドリゲス監督がインタビューに応えてくれた。数十年前の脚本を今なぜ映像化したのか? そして“催眠”というテーマの理由とは……?

「制作のきっかけは…ヒッチコックのファンだったから」

―“超能力者を中心に据えたシリアスなストーリー”はロドリゲス監督作では初めてだと思いますが、今作の制作に至った経緯は?

もともと(アルフレッド・)ヒッチコックのファンだったんだけど、彼の作品って思ってもいないような比喩なんかが多くて、作品名はワンワードのものが多いよね。ちょうど20年くらい前に『めまい』(1958年)がリマスターされて、アメリカでも改めてその価値についてディスカッションされたんだ。この作品のタイトル(『ドミノ』/原題:ヒプノティック)もワンワードだし、ミステリーだし、予想もできないことがいろいろと起こる。

もしヒッチコックがもう10年生きていて、ワンワードなタイトルの作品を作ったとしたら、どんなものだっただろう?ってなんとなく自問したんだけど、そこですぐに出てきたのが「ヒプノティック」だった。そう考えたとき、“まったく捕まえられない敵”という存在を示している、と考えたんだ。クルマとか口座とかが盗まれたとしても、こっちには敵が“見せたいもの”しか見えていないんだから当然、気づけないよね。そういった完全犯罪的なキャラクターたちがいて、でもそれに気づいて追う刑事がいたらどうか? そして世界には“ヒプノティックス”が全体の2パーセントくらいいて……みたいなことから考えはじめたんだ。

オープニングの銀行のシーンや、ベンがハサミを持つシーンなどは20年前、いちばん最初のブレインストーミングの時点で出していたアイデアだ。まだ脚本は書いていなかったんだけどね。だから「最初のきっかけは?」と問われたら、それは「ヒッチコックのファンだったから」だね。

「自分の見ているものが“本当なのか?”と分からなくなってしまう時代は過去になかった」

―すでに2002年には脚本のベースは出来あがっていたそうですが、常に映画化したいと考えていたのでしょうか? また「ヒプノティック(催眠)」という題材が2020年代に、どのように響くと考えましたか? いま映画化に踏み切った理由を教えてください。

最初にアイデアを出してから、間接的にずっと作業はしていたんだ。最初の12年間でストーリー自体は変わっていったんだけど、さっき言った銀行のシーンなんかは、ほぼそのまま全部残っていた。後半~エンディングに関しては、僕自身がもう少し人生というものを経験しなければ書けなかったんだと思う。なぜならこの映画のテーマが帰結するところは、やはり家族/家族の絆なんだ。そこに達するのに、当時はまだ僕の人生経験が足りなかったんだろうね。だから2015~2017年くらいのバージョンの脚本は、ほぼ撮影稿に近いものだったよ。

不安に関しては一切なかったね。むしろ当時より今の方が、この映画のテーマに通じるものがあると思うよ。だって今この時代ほど、自分の見ているものが「本当なのか?」と分からなくなってしまっている時代はなかったわけで(笑)。まあ、この脚本に関しては、ずっと興味を引き立たせてくれたからこれだけ長く続けることができたし、近年はオリジナル脚本の作品を作るのが難しいんだよね、とにかく“IPもの(※原作あり)”ばかりで。そんな中で、自分だけのオリジナルアイデアの企画が生まれたならば、それはもう映画作家としては作らざるを得ないんだ、どうしたってね。

「僕の過去作に出てきたセリフや小道具などをチラ見せしているんだ。その理由は…」

―本作の製作のきっかけはヒッチコックとのことですが、映画化したいと思った大きな要因は?

僕は映画を撮ることが大好きなんだけど、昔から手品も好きなんだ。披露したときにみんなが驚いてくれる感じが良いよね。この映画は、ある意味「映画作りについての映画」でもあって、ただし最初に観たときにはそうとは思われない、そんな映画なんだと思うよ(笑)。

映画を作る/観てもらうという行為は、ある種「催眠をかけている」のと同じことだと思う。しかも、映画の場合はみんなチケットを買ってくれるから、「催眠にかかりたい」と思って来てくれているし、脚本があって役者が演じていることも分かっているけれど、作品の世界を信じて怖がったり笑ったりしてくれて、気に入れば周囲にクチコミで広げてくれたり、人によっては壁にキャラクターのポスターを貼って崇拝したり、なんてことすらある(笑)。

僕にとっては「これは映画作りについての映画ですよ」と言わなくても作れることも大きな魅力の一つだったし、観客のみんなが登場人物たちと同じように様々なサプライズに遭って、同じように催眠下に置かれる状況、それを味わってもらえるんじゃないかってことも魅力的だったね。

―現実のように見える世界を想像力や特殊能力を駆使して描き変えるというコンセプトや、完成した本作を観ると、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(2010年)やMCUの『ドクター・ストレンジ』(2016年)など、様々な映画を想起させるところがありました。本作の世界観に影響を与えた作品は?

やはり何と言ってもヒッチコック作品に一番インスピレーションを受けているね。あと実は、視覚的にもセリフ的にも僕の過去作、たとえば『デスペラード』(1995年)と同じジョークが出てきたり、他の過去作に出てきた舞台設定などをチラ見せしたりもしているよ。

なぜかと言うと、それに気づいた人が「これって、もしかして虚構の世界なのでは?」と考え始めるヒントにもなっているんだ。つまり、この虚構世界をプログラミングした催眠術師が映画好きで、だからセリフや小道具などに“ポップカルチャーのデジャブ”が散りばめられているっていう、そんな世界観なんだよね(笑)。

「キャメロンともしょっちゅう『アリータ2』の話をしているよ」

―最近、日本や韓国でも特殊能力をテーマにした映画やドラマが増えています。監督のお気に入りの「超能力/特殊能力」作品を教えてください。

デヴィッド・クローネンバーグの『スキャナーズ』(1981年)は大好きだね。当時ポスターを見て、この映画は一体なんなんだ!? と思ったよ(笑)。

映画は自由な創作の場を与えてくれるし設定にルールもない。やっぱり制限がないということは、造り手にとってはすごく魅力的なことなんだ。みんな映画館では席に座って作品を観るけれど、それはある意味、観客を“捕らえた”状態になるわけで、しかも映画にはルールも物理法則も関係なく、つまり何でもアリ。観客を虜にできて、そのうえ自由だなんて、すごく魅力的なことだ。だから“ワクワクさせてくれるような作品”が好きだね。

―主演のベン・アフレックとの仕事について教えてください。

ベンは最高だったよ。ヒッチコック映画はスター俳優を配しながらも、演じるキャラクターは“エブリィマン(ごく普通の人)”であることが多いんだ。『めまい』のジェームズ・スチュワートや『北北西に進路を取れ』(1959年)のケーリー・グラントだったりね。『ドミノ』でも同じ方程式を用いていて、観客はスター俳優であることはわかっていてもキャラクターに感情移入しやすくなるんだ。

まさにベンはそういった資質を持ち合わせていて、大スターでありながらファミリーガイ(※家族思い)であることも伝わってくる。彼が本作で、「必ず娘を見つけ出す」という強固な思いを持っている刑事という側面と、家族をとても愛している柔らかな側面、その両方を感じさせてくれることは分かっていたし、普段の人柄も最高だよ。

そしてもう一つ、僕たちはお互いに90年代の低予算映画、DIYでスピーディに撮影するタイプの作品に慣れていたことも大きかったね(笑)。コロナ禍で撮影期間が20日間も少なくなってしまったんだけど、「じゃあ昔のスタイルでやろうぜ」ということで、僕らのルーツであるインディー的な“どんどん撮る”手法で楽しみながら撮影を進めて、ベンもそれに大いにノッてくれたんだ。もちろん役者としては1日に演じるシーンが増えるし感情表現も大変だったと思うけれど、逆にそれも良いエネルギーとして本作から伝わってくるんじゃないかな。

―監督は『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)の続編製作にも乗り気だと報じられていますが、日本のファンに現在の状況を教えていただけますか?

日本には今年の3月に訪れたんだけれど、みんながどれくらい『アリータ』を愛しているか肌で感じられたよ。そもそも『アリータ2』を撮る気は満々で、ジェームズ・キャメロンともしょっちゅう続編の話をしているんだ。製作会社が変わってしまったことで権利関係の問題が少しあるけれど、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』も好評だったことだし、僕は『スパイキッズ』の新作の公開が控えているので、その後あらためてキャメロンとしっかり話していこうと思っているよ。

『ドミノ』は2023年10月27日(金)より全国ロードショー

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