【MLB】すべてが予想外の“大穴”対決!2年前の屈辱から栄冠を掴むのは?|DバックスVSレンジャーズ ワールドシリーズプレビュー

写真:ナ・リーグを制したDバックスの選手たちはマウンド上で歓喜の輪

この対戦カードになるなど、誰が予想しただろうか?

日本時間10月25日、アリゾナ・ダイヤモンドバックスが敵地シチズンズ・バンク・パークにてフィリーズを下し、4勝3敗でリーグ優勝を達成。前日同じく敵地ミニッツメイド・パークにてアストロズを退けたテキサス・レンジャーズとのワールドシリーズが決定した。

そう、今季のワールドシリーズには今シーズン104勝を挙げ、シーズン最多本塁打記録(タイ)を樹立したブレーブスも、激戦のア・リーグ東地区を制した新鋭・オリオールズも、4年連続の100勝を記録した王者・ドジャースも、連覇を狙ったアストロズも、ポストシーズンに無類の強さを誇るフィリーズももう残っていない。

2023年のワールドシリーズは2年前100敗を喫した屈辱から這い上がったかつてのアンダードッグたちによる、歴史上まれにみる「大穴」対決だ。

シリーズ展望に入る前に、まずはそれぞれのチームについてこれまでのバックグランドやポストシーズンまでの戦いぶりをまとめよう。

まずア・リーグ覇者のレンジャーズだ。

2010年から2016年の7年間で5度のプレーオフ進出、2度のワールドシリーズ進出と2010年代前半には強豪として知られたレンジャーズ。しかし主力の引退や放出が続き、有望株もなかなか芽が出なかった2018年以降の5年間はうち3年でシーズン90敗を喫するなど低迷が続いていた。

多くの場合、このような長期低迷の打開にはトレードやドラフト若手有望株の成長を待つスタイルが取られることが多い。だが、レンジャーズが取ったのは「資金力」による一気の低迷脱出だ。

2021年のシーズンオフには当時二遊間の目玉とされたコーリー・シーガーとマーカス・セミエンを大型契約で両獲り。さらに2022年オフにはネイサン・イオバルディやジェイコブ・デグロムら各チームからFAになったエースクラスを次々獲得。課題の先発投手陣を一気に整備した。

また、このような大型補強と並行してジョシュ・ヤンやレオディ・タベラス、ナサニエル・ロウ、ジョナ・ハイムらドラフトやトレードなどで加入した若手をレギュラーにまで育て上げたのがレンジャーズの抜け目なさ。大型補強と育成の両輪、そして今季から指揮を取る名将ブルース・ボウチーの采配が組み合わさり、2011年以来のワールドシリーズ進出となった。

チームスタイルとしてはどちらかといえば攻撃型。シーガーとセミエンの1、2番コンビにアドリス・ガルシアやミッチ・ガーバー、エバン・カーターらが並ぶ中軸、そして下位打線もヤンやロウといった、他球団なら中軸も担える好打者が揃い、気を抜く暇がない。

投手陣はイオバルディと8月に加入したジョーダン・モンゴメリーの先発二枚看板が軸だが、それ以外の先発投手はピリッとしない。また救援陣もジョシュ・スボーツとホセ・レクラーク以外はあまりベンチの信頼を得られていない様子。よく言えば少数精鋭だが、投手を多く繰り出すブルペンゲームになるとやや旗色が悪そうだ。

ただ、スピードのある若手や守備の名手が揃う野手陣は守備で幾度となくピンチを救ってきた。後述のDバックスにはやや劣るが、高い守備力を誇るチームと言っていい。

一方ナ・リーグ覇者のDバックスはどうだろう。

こちらは2017年以来のポストシーズン進出となる。今季プレーオフに進出した球団の中では資金力がないほうだが、巧みなトレード戦略と多くの有望株を抱えたマイナー組織を活かした育成が強み。2021年にはリーグ最多の110敗を喫したシーズンからわずか2年で頂点まであと4勝のところまで辿り着いた。

近年のDバックスの特徴には、毎年積極的なトレードを行ってきたことが挙げられる。現在エースとして活躍するザック・ギャレンや二塁のケーテル・マルテ、捕手のガブリエル・モレノや左翼のルルデス・グリエル、そしてクローザーのポール・シーウォルドはすべてトレードでの獲得だ。資金力がなく、FA市場で影響力を発揮することは難しい中、他球団の有望株と余剰戦力の交換トレードを行うことでチームを強化してきた。

また、マイナーからはコービン・キャロルを筆頭にアレック・トーマス、ヘラルド・ペルドモらが台頭。ドラフトで少しずつ溜め込んできたプロスペクトがMLBレベルに到達したことで、現在の躍進につながった。

チームスタイルとしてはバントや盗塁などの小技を軸にした「スモールベースボール」のチームと思われがちだが、これはやや認識と異なる。

少なくともプレーオフで得点力の源となっているのはやはり12試合で18本塁打を放った長打力。プレーオフに出た他球団に比べれば小技のウェイトが大きいのは確かだが、小技がメインとしてみると実態から少し離れてしまうように思われる。

むしろDバックスの本質は強力な守備にあると見るべきだろう。MLBでも屈指の広大なフィールドを有するチェイス・フィールドを本拠地とするため、内外野ともに守備力の高い選手が好んで起用されている。投手陣には100マイルを常時マークする速球派も強力な変化球を武器とする魔球使いもいないが、バックが盛り立てることで失点を防いできた。

投手陣はギャレンとメリル・ケリーの2枚看板に加え、ブランドン・ファートがプレーオフに入って覚醒したことで3枚看板が確立した。また、フィリーズとのリーグチャンピオンシップシリーズでは救援投手を大量投入する「ブルペンデー」で勝ち切るなど(シーズン中は頼りなかった)救援陣が好調なのはレンジャーズに対する強みだろう。

さて、ここまでの要素を勘案してプレーオフの展望を考えよう。

大きな枠組みとしては、打撃戦で大差をつける試合になればレンジャーズ、接戦に持ち込めばDバックスに分があると見ていいだろう。

少なくとも純粋な打ち合いであればレンジャーズを確実に負かせるチームはほとんどない。ギャレンやケリーといったDバックスのエースクラスを一気に打ち崩し、セーフティリードを保った展開でやや不安が残る救援陣へつなぐ展開を作ることができるかが大きなポイントとなる。

また、7回までリードを保てていればスボーツとレクラークの安定感はかなりのもの。接戦であっても、有利な展開で終盤を迎えられればそう負けることはない。

一方、Dバックスとしては早めにレンジャーズ先発陣を引きずりおろし、リリーフ勝負に持ち込みたいところだ。

このプレーオフでDバックスの救援陣は無類の安定感を誇っている。ロースコアにせよ点の取り合いにせよ、投手を多く使う泥沼の消耗戦になれば使える枚数が多いDバックスが戦いやすい展開になるだろう。あと一点がほしい場面での盗塁や犠打など、奇策で相手を翻弄できればさらに勝利への道筋は開けるはずだ。

番狂せに番狂せが続いた今季のポストシーズンも残すは最大7試合。予想もつかなかったこの10月、最後に笑うのはどちらだろうか。ワールドシリーズ第一戦は日本時間の10月28日午前9時3分試合開始となる。

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