原田知世の洋楽カバー「恋愛小説4」極上の透明感に包まれた1960〜70年代の名曲たち  原田知世のライフワークとも言えるカバー集第4弾「恋愛小説4〜音楽飛行」リリース

もはやライフワークとも言える原田知世のカバーアルバム

カバー曲、カバーアルバムというのは、アーティストの今現在が垣間見られるという部分で非常に興味深い。自分の好きな曲をカバーしていたりすると勝手に親近感を抱き、想定外の曲をカバーしていたとしても、「こういうのが好きなんだ」と意外性を楽しめる。そして、アーティストの興味がどこに向かっているのかも感じ取ることができる。

原田知世はこれまでに、5枚のカバーアルバムをリリースしている。鈴木慶一プロデュースで94年にリリースされた『カコ』が最初で、スキータ・デイヴィスが1962年にヒットさせた「エンド・オブ・ザ・ワールド」をはじめとする全7曲が収録されている。ニューウェイヴ風味とアコースティック楽器の特性を活かしたチルアウト感が混ざり合い、不思議な余韻を残す作品だった。

ここを起点にギターデュオ、ゴンチチを迎えて制作された『Summer breeze』(2001年)、『恋愛小説』(2015年)、『恋愛小説2〜若葉のころ』(2016年)、『恋愛小説3〜You & Me』(2020年)とリリースされている。

この度、好評のラブソングカバーシリーズの第4弾として『恋愛小説4〜音楽飛行』を10月25日にリリースする。彼女にとってカバーアルバムはもはやライフワークと言ってもいいだろう。

1982年、「悲しいくらいほんとの話」でレコードデビュー、「時をかける少女」の大ヒットを放った当時の原田の魅力は、類稀な透明感だった。この透明感を例えるならば純粋無垢な少女性とも言えるティーンエイジ・ボイスだ。現在のシンガー原田知世の一番の魅力も、この透明性という言葉が一番しっくりくる。

しかし、この透明感はデビュー当時の少女性で語られるものではなく、世の中の全ての雑念をフィルターに通し濾過したかのような透明感に変わっている。シンガーとしてキャリアを重ねていく中で、この透明感は増してゆく。それは楽園の女神のような歌声である。

「恋愛小説4〜音楽飛行」はビートルズやカーペンターズなどで構成されたカバー集

洋楽のカバー集である今回の『恋愛小説4〜音楽飛行』は、ビートルズやモンキーズ、そしてカーペンターズなど、原田自身お気に入りのナンバーで構成されているという。「デイドリーム・ビリーバー」や「遙かなる影」など、誰もが口ずさめる珠玉のポップスから、ビートルズだとジョージ・ハリスンの楽曲である「ヒア・カムズ・ザ・サン」と「イン・マイ・ライフ」をピックアップ。洋楽にさほど詳しくなくても、どこかで聴いたことがあるメロディがアルバムの大半を占める。

どの楽曲からも原田のキャリアを重ねていく中で育まれた透明感が存分に体感できる。リード・トラックの「ヒア・カムズ・ザ・サン」はジョージ・ハリスンが描いた暖かな陽射しのような優しいメロディの奥底にある息吹を蘇らせたかのような印象がある。オリジナルをしっかりとリスペクトしながら、構えることなく原田ならではの世界観として描き切るシンガーとしての力量は見事なものだ。

この「ヒア・カムズ・ザ・サン」にしても4曲目に収録されているニール・ヤングの「オンリー・ラヴ・キャン・ブレイク・ユア・ハート」にしても、オリジナルには、1960年代の終わりから1970年代にかけての時代性を伴った、混沌からの脱却とでも言う楽曲の核になる精神性が感じられるのだが、こういった部分も全て浄化させているかのような清涼感がアルバム全体から漂ってくる。

決して構えず自然体でオリジナル楽曲と向き合う原田知世の現在

特筆すべきは7曲目に収録された「ビー・マイ・ベイビー」だろう。フィル・スペクターのプロデュースにより、ガールポップス・グループの筆頭として1960年代前半に活躍したロネッツの代表曲だ。ウオール・オブ・サウンドの傑作とされるオリジナルの重厚さとは異なり、どこか90年代的と言おうか、バネッサ・パラディのようなポップな無国籍感が漂っている印象がある。

全9曲の洋楽カバーで構成されたこのアルバムは、世界を浄化するような透明感に包まれながらも楽曲ごとの輪郭をきっちりと際立たせている。これがシンガー、原田知世の現在なのだ。決して構えず自然体でオリジナル楽曲と向き合い、それぞれに独自の世界観を構築させる。改めて稀有なシンガーだと思う。

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つまり、この『恋愛小説4〜音楽飛行』は、彼女の近況報告ということになる。このシリーズで感じるシンガーとしての行く先もこれから楽しみにしていきたい。

カタリベ: 本田隆

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