ルールメイクできるスタートアップを支援「インクルージョン・ジャパン」服部結花代表取締役に聞く

インクルージョン・ジャパン 服部結花代表取締役

インクルージョン・ジャパン(東京都品川区)は、ESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=ガバナンス、企業統治)領域で事業展開するスタートアップを主な投資先とする「ICJ2号ファンド」を運営している。

2023年10月13日に、三菱UFJ銀行や東京ガス、関西電力などの出資により総額66億円の組成が完了した。なぜESGなのか。どのようなスタートアップに投資するのか。服部結花代表取締役に狙いや戦略をお聞きした。

日本のマーケットに即したルールを作る

-ESGにかかわるスタートアップに投資をするとのことですが、このような決断をされた経緯をお聞かせ下さい。

2号ファンドを設立しようと考えていた2020年ごろ、グローバルではESG投資が話題になり、広がっていっていました。このためESGは大企業の感度が高いものだと思っていました。ただ日本においては、企業がESGにはまだ積極的ではない段階でした。

我々の構成員は全員大企業出身で、大企業に強いという特徴がありましたので、今がファンドとして成功するチャンスだと考え、ESGをテーマにしたファンドを立ち上げました。

実際にESGに貢献するベンチャー企業に出資をしてみますと、大企業中心にそのサービスがどんどん展開されたり、協業が始まったりしています。これによって日本で新たなESGのルールメイクができるようなベンチャーが育ち、大企業も一緒にマーケットを生み出していけると手応えを感じています。

-ルールメイクとはどのようなものなのでしょうか。

ESGに関してはいろんなルールがあります。例えば脱炭素という内容であれば、CO2排出量のゴールを設定して、そこに至るためのシナリオを作りなさいというようなルールです。削減量が足りなければオフセットしなさいだとか、カーボンクレジットを買いましょうといった流れになります。さらに買えるカーボンクレジットは、こういうルールに基づいて作りましょうといった感じで、どんどんルール化されるという状況があります。

日本では、こうしたルールが勝手に海外で決められて、日本はこれを押し付けられて理不尽だといったような話を聞くことがあります。ですがESGが注目され始めて10年も経っていませんので、まだまだルールが必要です。このため先端的なスタートアップを支援してルール作りから取り組む先行事例を作ろうと考えています。

-ルールはどのようにして作られるのですか。

世界中の企業が準拠するといいのではないかと思われる自社の技術やサービスを、ルールを決める委員会に持ち込むのです。ルールを決める委員会はクローズな場所ではなくて、一般企業でも手を挙げれば入れる場所です。そこに入っていって議論をして、主張をしてルールを作っていきます。実際に自社の技術やサービスに基づいたルールができれば、その技術やサービスがどんどん広がっていき、大きなマーケットができます。我々の投資先のスタートアップと、大企業が一緒になって、日本のマーケットに即したルールを多く作るというのが我々の戦略です。

-成果はでていますか。

うまくいっている事例としてはゼロボード(東京都港区)さんがあります。同社は温室効果ガス排出量算定や削減を支援するサービスを手がけています。同社に出資をされている三菱U F J銀行さんが、同行のお客様にゼロボードさんのサービスの導入を働きかけられたこともあり、急速にこのサービスが広がっています。こうした事例を多く作ることを目指しています。


半常駐で支援することも

-ところで御社は、服部さんをはじめ、メンバーの吉沢さん、寺田さん、村上さん、竹丸さんの5人が個人的にファンドに出資されています。「投資先企業との一蓮托生度を高める」のが狙いとのことですが、スタートアップへの経営支援については、どのような特徴があるのでしょうか。

5人はそれぞれの分野のプロフェッショナルで、蓄積した知識やノウハウを活かして、さらに責任をもって支援する体制を作るために、個人としてファンドに出資しています。

例えば私はリクルートで人事に携わり、新規事業の立ち上げや人事制度の構築などに取り組んできました。吉沢はP&Gやヒューマンバリューなどでの勤務経験があり、新規事業を作っていくのが得意です。寺田は野村総合研究所が長く、大企業とスタートアップの連携による事業創造などに強く、村上はゴールドマン・サックス証券に勤務していたため、金融やM&A、成長戦略の策定などを得意としています。竹丸はマッキンゼーで新規事業開発や、調達コストの低減、全社戦略立案などに携わっていました。

この5人がそれぞれの特徴を生かして投資先企業の経営を支援しています。現在28社に投資していますが、半常駐で支援するようなケースもあります。

―最後にファンドへの就転職を目指す人にアドバイスをお願いします。

実はファンドをやりたいという人にはあまり会ったことがありません。どちらかというと起業をしたいという人の方が多いです。そこで言っているのは、いきなり起業するよりも、人からお金を集めて成長していくような会社を作るのであれば、ベンチャーキャピタルとの関係は切れませんので、ベンチャーキャピタル側の理論を知るためにも、一度ファンドの経験をしてみたり、修行してみたりするのはどうですかということです。

またベンチャーキャピタルは、大企業の組織もあれば、我々みたいにブティックVCという自分たちでやっているようなところもあり、投資規模や組織体制はさまざまです。いくつかのベンチャーキャピタルでお話を聞くのがいいのではないでしょうか。

インクルージョン・ジャパン 服部結花代表取締役

【服部結花さん】
京都大学法学部卒業後、リクルート入社。生命保険事業の立ち上げや、人事制度設計、次世代リーダー育成プログラム開発などに参画
2011年 インクルージョン・ジャパンを設立
2014年 ICJ1号ファンドを組成
2020年 ESGをテーマにしたICJ2号ファンドを組成
2021年10月から大阪大学ESGインテグレーション研究教育センター招聘准教授

文:M&A Online

<p style="display: none;>

M&A Online

M&Aをもっと身近に。

これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。

© 株式会社ストライク