不屈の爺様 VS はぐれナチス!幸せの国フィンランドがMADなバイオレンスMAXで放つ壮絶アクション『SISU/シス 不死身の男』

『SISU/シス 不死身の男』© 2022 FREEZING POINT OY AND IMMORTAL SISU UK LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

おじいさん、ツルハシ1本でナチのタマ刈りに

むかしむかし、ある所に黄金を探すおじいさんがおりました。ある日、やっと黄金を見つけたおじいさんは、お供の馬と犬と一緒に大変喜びました。ところが、ふるさとに帰ろうとするおじいさんたちにかわいそうなことが起こってしまいます。なんと、帰る途中で意地悪な人たちに黄金を取られてしまったのです。

おじいさんはツルハシ1本で芝刈りに行くことに決めました。
そう、黄金を奪った憎きナチスどもの命という芝を刈りに。

……と、あらすじを読み聞かせした子供も「え? 今なんて!?」と耳を疑うであろう映画が日本で公開される。それが『SISU/シス不死身の男』だ!

舐めた野郎は誰であろうが許さねえ!

第二次世界大戦末期。ソ連に加えてダメ押しのようにナチスにも攻め込まれ、フィンランドの治安は混沌を極めていた。そんな、命が空気より軽い状況をガン無視して金塊を掘り続ける、変わり者の爺様がアアタミであった。

雨が降ろうが槍が降ろうが、頭上を爆撃機が飛ぼうが、荒野で土くれを掘り続ける日々。だが遂にアアタミの努力が報われる日がやってきた。悲願のデッカい金塊を掘り当てたのだ。

ホクホクで黄金をカバンへ詰め込み、家族同然の愛犬と愛馬と共に里に戻ろうとするアアタミ。だが彼は不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまう。なんと道中で、はぐれナチスに遭遇したのである。

結果、「そこでジャンプしてみろよ」というノリで因縁をつけられ、金塊をカツアゲされそうになるのだった。普通であれば、もう泣くか黙るかの2択しかない状況だ。だがアアタミは第3の手段に打って出る。

舐めた野郎は誰であろうが許さねえ! だ。

……というわけでアアタミは、変わり者の爺様からアグレッシブな爺様へトランスフォーム! 片っ端からナチスをベコベコにしていくのであった。

そうしてカツアゲを回避したアアタミの前に、はぐれナチスの本隊が遅れて到着。かつての仲間が「ひき肉です」な惨状を目の当たりにし戦慄するナチス本隊であったが、軍人としてメンツを潰されたこともあり、憎きアアタミを手加減なしで追い詰めるべく進軍を開始する。

だが、彼らは知らなかった。かつてアアタミがフィンランド最強の“1人暗殺部隊”と呼ばれていた元軍人だということを……! はたして勝つのは爺様か、はぐれナチスか!?

こうして何も無い大地を舞台に、荒ぶる魂が咆哮するサバイバル昔話が始まるのであった。

タイトルの「SISU」が意味するものとは?

幸せの国フィンランド印の本作だが、理不尽な暴力や略奪、何より自らの運命にすら全力で抗う姿がしっかりと描かれている。キャッチコピーは「ツルハシ1本でナチスを討つ」。ここ最近では珍しい岩のように武骨なコピーだが、内容に偽りはない。本作を観て「フィンランドといえば?」と問われたら、「ムーミン、キシリトール、サウナ……そして『SISU!』」と即答したくなることだろう。

“暴力の花咲か爺さん”こと主人公アアタミは多くを語らない。肉体言語で自己紹介していくスタイルだ。具体的に言えば、開戦の狼煙がわりに突き立てるナイフ、挨拶がわりの地雷投げ、鍋の蓋で「ワンダー・ウーマン」ムーブ、ヤケクソにもほどがある焼身ダイブ、殺人ホームラン予告などなどを劇中で披露! 死んでも死なないアアタミのド根性には、観ている我々観客も頭が下がってしまう。

最終的に『ランボー3/怒りのアフガン』(1988年)ばりに、盗んだバイクで飛行機に向かって真正面から突撃! この“奪われた者の辞書に後退のネジはない”を地で行くシーンに心が震えない人間はいないだろう。主人公アアタミのファイト一発! 人間リポビタンDっぷりは必見だ。

ちなみにタイトルの「SISU」とは、翻訳不可とされる古きフィンランド語。どうやら近いところで言うと「反骨精神」や、「折れない心」を意味する言葉らしい。劇中、「何故あいつは不死身なのか?」とドン引きするナチスに、ある人物が「そりゃアンタ、メンタルが強いからですよ」と身も蓋もなく答え、しかし誰もが黙って納得するしかないシーンが「SISU」という本作のタイトルを象徴している。

君たちはどう生きるか?「俺はこう生きる!」

このように、現代社会で忘れがちな「無茶を通せば道理が引っ込む」的な展開が衒いなしの直球で描かれている本作。 また、もっともらしい回想なんてもんは見せない。アアタミの表情と傷だらけの身体、薬指の結婚指輪を見るに、彼が今まで歩んできたであろう修羅場が伺える。

気が付けば観客は、アアタミの1人ゴールデンカムイっぷりから目が離せなくなっているだろう。彼は絶望的な状況でも諦めず、血や土でガンガン汚れていくわけだが、その姿は誰が何と言おうと生き残ろうとする野蛮な美しさに溢れている。本作が公開されれば、昨今の美容ブームに血と土メイクも新たに追加されるかもしれない。

「君たちはどう生きるか?」と問われたら「俺はこう生きる!」と明確なアンサーをツルハシで繰り出すのがこの映画だ。たとえ全てを失ってもツルハシ1本で何ができるかで人間の価値は決まる! と我々に教えてくれるのである。

ともあれ「映画の中で爺様が頑張っていたら、俺も頑張るしかないだろ」と観た後に気合が入る作品ですよ!

『SISU/シス不死身の男』は2023年10月27日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

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