ガザ:「病院は最後の頼みの綱になっている」──国境なき医師団、医師の訴え

アル・シファ病院で患者を診るMSFのスタッフ=2023年10月19日 Ⓒ Mohammad Masri

空爆や封鎖による物資の不足で、人道状況が著しく悪化しているパレスチナ・ガザ地区。国境なき医師団(MSF)は、双方の民間人と医療施設の保護を訴え、ガザに住む人びとの生存がかかる人道援助の流入を可能にするため、即時停戦を求めている。

現地の医療状況はどうなっているのか──。MSFのパレスチナでの医療活動をエルサレムで統括する、医療コーディネーターのギュメット・トマが報告する。

どの病院も正常に機能していない

ガザの状況はどこも同じで、すべての医療施設は完全にひっ迫し、基本的な医薬品でさえ大幅に不足しています。

ガザでは、どの病院も正常に機能していません。

医薬品の不足は、病院に搬送された負傷者の命を危険にさらしています。ガザの人口の半分は18歳未満です。

つまり、いま負傷者について話すとき、死者について話すとき、病院に到着した人びとについて話すとき──その半数は女性と子どもを意味するのです。

アル・シファ病院に運び込まれた子ども=2023年10月19日 Ⓒ Mohammad Masri

衝突が激化した最初の日、ナセル病院の敷地内で救急車が標的にされました。これは唯一のケースではありません。 他の救急車も攻撃を受けており、これは医療システムと負傷者の病院へのアクセスの両方を明らかに直接的に危険にさらすものです。 このような状況で医療活動を続けることが難しいのは明白です。医療スタッフ自身の生死がかかっているときに、どうやって彼らに働き続けるよう求めることができるでしょう。

いまも活動を続けるスタッフ

現在、ガザ地区内の移動は非常に困難で危険です。

パレスチナ人の同僚の中には、いまもボランティアとして病院で働いている人もいます。私たちのスタッフの中には、外科治療に専念している人もいます。 住んでいる場所や移動先によっては、現在も医療施設で働くことができる人も多くいます。

MSFのチームの多くは、ガザ北部で最大の外科病院であるアル・シファ病院でまだ働いています。状況は壊滅的で、爆撃により大勢の負傷者が絶え間なく運び込まれてくるため、日に日に悪化しています。いま、病院は患者の数に対応しきれていません。

アル・シファ病院で横たわる患者=2023年10月19日 Ⓒ Mohammad Masri

MSFはひっきりなしに押し寄せる患者に対応するため、在庫のすべてを保健省に寄贈しています。それでも病院は、医薬品や包帯、カテーテルなど、あらゆるものの不足に直面しているのです。

麻酔薬がなければ手術はできません。しかし、もう在庫はないのです。

燃料不足が深刻

もう一つの課題は、発電機を動かすための燃料不足に直面していることです。

燃料は電気を供給するために不可欠です。電力のない病院は、もはや機能しません。現実的にそれは、新生児の保育器が動かなくなり、集中治療室の呼吸器が止まり、手術室が機能しなくなることを意味します。

そこにいる患者は、電力不足の結果として命を落とすことになるのです。

さらに、妊娠中の女性や、がんや糖尿病を含む慢性疾患の患者など、通常であれば容易に対応できるような健康上のリスクの高い人びとが、大きな危険にさらされているのです。そのような人びとの健康状態は、急速に悪化しています。

病院が最後の避難場所に

私たちは負傷者を数え、死者を数えます。

しかし、私たちが目にする犠牲者の数は氷山の一角です。住民の避難、水の不足、電力の不足、シェルターや食料の不足──紛争が引き起こすこのような問題の結果として、間接的にもっと多くの犠牲者が出ているでしょう。人びとは学校や病院に避難しています。膨大な数の人が、避難に適していない場所に向かうことを余儀なくされているのです。

アル・シファ病院=2023年10月19日 Ⓒ Mohammad Masri

いま、病院は避難場所を探しているガザの人びとにとって、最後の頼みの綱となっています。 そのため、病院は患者であふれかえっているだけでなく、事実上の難民キャンプにもなりつつあります。 また、今回の紛争が始まって以来、水不足は大きな懸念材料となっています。人びとはいま、人間が飲むには適さない塩分を含んだ水を飲んでいます。これは、おそらく数日のうちに健康に影響を与えるでしょう。 MSFの医師として私が求めているのは、空爆の停止とガザに人道援助が入ることを無条件に可能にすることです。

そうすれば、私たちはガザの人びとと患者を守ることができます。
私たちはただ、医療を提供するという自分の仕事をするだけでいいのです。

命を救う活動を、どうぞご支援ください。

寄付をする

※国境なき医師団日本への寄付は税制優遇措置(寄付金控除)の対象となります。

© 特定非営利活動法人国境なき医師団日本