連載コラム【MLBマニアへの道】第7回:100敗したのに大型FA補強 2年でワールドシリーズまでたどり着いたレンジャーズの短期再建

写真:ボウチー監督はジャイアンツ監督時代にワールドシリーズでレンジャーズを下した

2023年シーズンも残すところワールドシリーズのみ。マッチアップはレンジャーズ対ダイヤモンドバックスという、9年ぶり史上3度目のワイルドカード同士の対決になった。

ダイヤモンドバックスは球団創設4年目だった2001年シーズンに制覇して以来の2度目のワールドシリーズになる。一方のレンジャーズにとっては3度目の進出だが、過去2度のシリーズではいずれも敗れており、ワールドシリーズ未制覇だ。

1961年創設のレンジャーズが初めてワールドシリーズに進出したのは2010年のこと。MVPのジョシュ・ハミルトンや晩年のブラディミール・ゲレーロ、元広島のコルビー・ルイスらを擁していたこの年、ポストシーズンでレイズ、ヤンキースを下して球団創設50年目で悲願のリーグ優勝を果たした。

ワールドシリーズはジャイアンツとの対戦だったが、レンジャーズは1勝4敗で敗れる。当時のジャイアンツはそこから5年間で3度のワールドシリーズ制覇を成し遂げる黄金期の始まりであった。そしてそのジャイアンツを率いていた監督こそ、現レンジャーズのブルース・ボウチー監督だ。

初めてのワールドシリーズでいきなり優勝とはいかなかったレンジャーズだが、チャンスは翌2011年にも訪れた。この年も地区優勝すると、レイズ、タイガースを破り2年連続のリーグ優勝。今度こそと挑んだワールドシリーズはカージナルスとの対戦だった。今なお語り継がれるこのシリーズは、レンジャーズが3勝2敗と王手をかけて臨んだ第6戦、あとストライク一つで初制覇という場面を作りながらも追いつかれ、最後にはサヨナラ負け。そのまま第7戦も落として2年連続のシリーズ敗退となった。

その後もダルビッシュ有を獲得するなどしばらくは地区屈指の強豪の地位を確立したが、2016年の地区優勝を最後に低迷期が始まり、昨年まで6シーズン連続で負け越しを記録していた。

低迷しているチームが時間をかけて若手を育てることでチームを強くする。これはMLBの再建期のスタンダードと言える動きだ。ヤンキースのような一部の資金力豊富な球団を除けば、多くの球団が再建期とコンテンド期(優勝を目指す時期)を繰り返す。レンジャーズも6年にわたる低迷の末、再建に成功したわけだが、多くの若手を育成するというスタンダードな手法とは少しやり方が異なる。

ターニングポイントとなったのは2021年。この年、シーズン中にジョーイ・ギャロやカイル・ギブソン、イアン・ケネディら主力選手を一気に放出。結局102敗したレンジャーズは典型的な再建の流れだったが、そのオフにまさかの大補強を敢行。目玉内野手のコリー・シーガーを10年3億2500万ドル、マーカス・セミエンを7年1億7500万ドル、ジョン・グレイを4年5600万ドルで獲得するという、総額5億5000万ドル超えの投資で一気に再建を終わらせる手段に出た。

100敗するようなチームがスター選手を数人獲得しただけでいきなりポストシーズンを狙えるわけもなく、2022年は地区4位と低迷が続いた。しかし、ここでもレンジャーズの大補強は止まらず、オフにはジェイコブ・デグロム、ネイサン・イオバルディ、アンドリュー・ヒーニーら先発投手の獲得に着手。その2年分の補強の結果、現在ポストシーズンで戦えるほどのチームが出来上がったのだ。

もちろん補強した戦力だけが全てではない。今季新人王候補のジョシュ・ヤングや、ポストシーズンのヒーローになっているアドリス・ガルシア、エバン・カーターなど、育ててきた選手とのハイブリッド編成あってこその強さだ。とはいえ今季のチームの躍進は2021年以降に補強したスター選手らの活躍が大きいだろう。

一気に資金投入することで、強引に再建を終わらせる。単純明快だが、あまりにもリスクが大きい手法だ。長期的にみれば悲惨な結果になる可能性もあるだろう。しかし、それほどのリスクを負ってでもどうしても欲しかったチャンピオンリングが、今目の前まで迫っている。「今」にオールインしたレンジャーズは、悲願のワールドシリーズ制覇を果たすことができるだろうか。運命のシリーズは明日から始まる。

文=Felix

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