やっぱりCLはハードルが高い…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©Atlético de Madrid]

「もう次はクラシコ(伝統の一戦、バルサ戦のこと)か」そんな風に私が頭を切り替えようとしていたのは木曜日、2晩連続、近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に陣取って、TV観戦したマドリッド勢兄貴分のCL3節で対照的な結果を見た翌日のことでした。いやあ、今季はグループリーグのマッチデーがずれてくれたため、ここ数シーズンのようにTV2台で2試合流してくれるお店を探したり、サンティアゴ・ベルナベウやメトロポリターノのスタンドでオンダ・マドリッド(ローガルラジオ局)の2元中継に耳を澄ましたりする必要がないのは助かっているんですけどね。おまけに今回は相手が大物でなかったせいか、レアル・マドリーの試合でさえ、苦労せずに座って見られたのは嬉しいんですが、さすがクラシコともなると、キックオフ30分前に入店しても難しいかも。

とりあえず、先にその土曜午後4時15分(日本時間午後11時15分)から、今季はカンプ・ノウの全面改装工事のため、バルサが間借りしているモンジュイックのオリンピック・スタジアムで開催となるクラシコの事前情報だけお伝えしておくと、どちらのチームもCL戦で途中交代し、負傷欠場が心配されたベリンガム、ジョアン・フェリックは大丈夫なよう。ええ、スポルティング・ブラガ戦終盤に太ももに痛みを覚えた前者については、アンチェロッティ監督も試合直後、「El campo estaba blando y no tiene nada en especial, estaba un poco cargado/エル・カンポ・エスタバ・ブランドー・ノー・ティエネ・ナーダ・エン・エスペシアル、エスタバ・ウン・ポコ・カルガードー(ピッチが柔らかかったせいだが、特に何かあった訳ではない。ちょっと筋肉が張っているだけだ)」と説明。

実際、木曜にはジム調整だけだった当人もTVE(スペイン国営放送)のインタビューでクラシコには出られると請け合っていましたしね。ジョアンの方もシャフタール戦では腰に打撲を受けただけなので、問題はなさそうですが、トータルで見ると、負傷禍による戦力減退が激しいのはバルサの方かと。ええ、マドリーはCL同様、セバージョスとギュレルがいないだけで、ブラガ戦当日、風邪でベンチを外れたホセルもすでに回復。ナチョの出場停止処分も終了し、リーガ前節セビージャ戦でセルヒオ・ラモスとガチで対決。頬っぺたを両手でつままれていたリュディカーも、「次戦がクラシコだから、リュディガーは我慢した。そうじゃなかったら、もっと面白いことになっていたのに」とクロースが自身のポッドキャストで話していたように自重したため、5枚目のイエローカードをもらって、累積警告にならずに済みましたしね。

翻って、バルサはセルジ・ロベルトとクンデは完全にアウト。ラフィーニャこそ、木曜のチーム練習に復帰したもの、未だにレバンドフスキ、デ・ヨング、ペドリは出場できるかどうかわからないようですし、となるとまた、カンテラーノ(下部組織の選手)に頼ることになる?ただ、チャビ監督が抜擢する若手は粒よりで、ええ、16才のジャマルなんて、もうスペインA代表デビューしていますからね。17才のギウもリーガ前節のアスレティック戦で決勝ゴールを挙げ、シャフタール戦では20才のフェルミンが2-1勝利の2点に絡んでマッチMVPを獲得。そのCL戦は出場停止だった19才のガビも戻って来るとなれば、まったく油断がなりませんが、今回のクラシコではバルサがローリングストーンズとコラボした、胸に舌の絵が入ったユニフォームにも注目が。

いやまあ、これが400ユーロ(約6万5000円)という高値にも関わらず、すでに売り切れているのも凄いんですが、最近はどこもあれこれ、理由をつけてのマーケティングに余念がありませんからね。そう、アトレティコがセルティック・パークで着た、今季初出の赤一色のシャツなども「Batalla de Glasgow/バタジャ・デ・グラスゴー(グラスゴーの戦い)」と呼ばれる、1974年のチャンピオンズカップ(CLの前身)準決勝1stレグをプレーした選手たちへのオマージュと公式には説明されているんですけどね。実はその試合はビセンテ・カルデロンでの2ndレグまで勝負を持ち越すため、3人も退場者を出して守り切ったアトレティコがスコアレスドローを勝ち取ったというもの。

その時は目論見通り、ホームゲームで2-0と勝って、初の決勝進出を遂げたアトレティコでしたが、決勝では1-1の引分けの後、再試合でバイエルンに4-0と完膚なきまで叩きのめされていますしね。大体がして、そのセルティック戦のあまりの荒れようを覚えているグラスゴーの地元紙なんて、「Pathetico Madrid(哀れなマドリッド)」と揶揄するぐらいだったんですが、どうも一説によると、今回の試合、ホームチームのユニと色がかぶるとして、第1、第2、第3ユニのどれもUEFAに認めてもらえず。そこで新作をデザインしたところ、たまたまその1974年の試合でアトレティコが着ていたユニに似ていたため、いっそオマージュにしてしまえという流れだったようなんですが、こちらはまだ販売をしていないよう。

まあ、それはとにかく、CLでは3連勝でグループ突破が秒読みとなっている2チームが土曜に対決する試合はリーガの首位争いでもあるため、かなり盛り上がるかと思いますが、一応、このミッドウィークのマドリッド両雄の試合がどうだったかもお話しておかないと。そう、火曜にブラガ戦に挑んだマドリーはCFで先発予想されていたホセルを発熱で欠くというアクシデントに見舞われたものの、特に問題にはならず。というのも前半16分にはナチョのロングパスをエリア内で受けたビニシウスがゴール前に送り、ロドリゴが早々に先制ゴールを挙げてくれたためで、何せ今季の彼は開幕戦のアスレティック戦で得点して以来、12試合ものの間、ゴール日照りが続いていましたからね。

実際、「Creo que estaba en un momento de mala suerte/クレオ・ケ・エスタバ・エン・ウン・モメントー・デ・マラ・スエルテ(自分は運気の悪い時期にいた)」とロドリゴ自身も後で告白していたんですが、得意の大会、CLでゴールを取り戻すことができたのには、アンチェロッティ監督の尽力もあったよう。「信頼してくれて、落ち着きを与えてくれた。ゴールが入らなくて、ボクが落ち込んでいると、いつも励ましてくれたんだ。Míster muchas gracias/ミステル・ムーチャス・グラシアス(監督、ありがとう)」とインタビューでお礼を言っていましたが、残念ながら、33分にまたしても仲の良いビニシウスのパスから決めたゴールはオフサイドで認められないことに。

0-1と最少リードで折り返したマドリーでしたが、後半16分にはご存知、ほぼ1試合1得点ペースのベリンガムがこちらもビニシウスのアシストでエリア内ギリギリから2点目を決め、片が付いたかのように見えたんですが、ブラガにもホームチームの意地がありますからね。その2分後にはジャロのゴールで1点を返し、更に昨夏までU21スペインのエースで、すでにA代表デビューも果たしているアベル・ルイスを投入。同点を目指して反撃してきたため、ちょっと微妙な展開になったんですが、そこは通算14回の最多優勝を誇るReyes de Europa/レジェス・デ・エウロッパ(ヨーロッパの王者)。

38分にカマビンガのスルーパスから、ビニシウスが独走して決めたゴールは数センチ単位のオフサイドでスコアには挙がりませんでしたが、無事に1-2で逃げ切ることができましたっけ。これで次節、11月8日にベルナベウにブラガを迎える4節で勝利すれば、決勝トーナメント進出が決まるマドリーなんですが、実は後半、ビニシウスがCBセルダルと対峙した時、意味不明な股ぎフェイントを10回近くもやっていたのにバルサの役員からツィッターでケチがつき、選手をpayaso(パジャソ/ピエロ)と呼んだことにマドリー側が激怒。ペレス会長が当初の予定を変え、土曜のクラシコのパルコ(貴賓席)観戦ボイコットに繋がったなんてこともあったんですが、でもあのフェイント、どう考えても必要なかったのでは?

そして火曜には珍しく、午前中にマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場でセッションを終えてから、グラスゴーに移動。セルティック・パークでの前日スタジアム練習をせずに水曜の本番に挑んだアトレティコの方はというと。うーん、あれだけ散々、CLでは強度の高いプレーが必要とシメオネ監督に言われていながら、眠ったまま、ピッチに立てる選手たちにはもう、つける薬はないというか、だってえ、開始4分にはオライリーとのワンツーを経た古橋亨梧選手に先制ゴールを奪われているんですよ。ただ、最近は序盤早々失点後、お隣さんばりにremontada(レモンターダ/逆転劇)もできるようになってきた彼らだっただけに、ええ、そのすぐ後、セルティックは旗手怜央選手が負傷、ベルナルドと交代という不幸にも見舞われていましたしね。

あまりカッカしないようにして、続きを見ていたところ、25分にはデ・パウルのスルーパスを追ったモリーナがエリア内でテイラーに倒され、PKをゲットしてくれたんですよ。ここ2試合、レアル・ソシエダ戦、セルタ戦でPKを連続して決めているグリーズマンがキッカーに立った時はそろそろ、失敗する頃合じゃないかと心配したものの、ラッキーでした。案の定、PKそのものはポストに弾かれてしまったものの、当人が戻って来たボールを右足でゴールに蹴り込んでくれたため、スコアは1-1となったんですが…やっぱり狙われていたんですね。サムエル・リノのケガで左のカリレーロ(長い距離をカバーするSB)に抜擢された、CL初スタメンのハビ・ガランは。

そう、それからたった3分後、今度は前田大然選手がエリア内左から送ったパスを右側でパルマがシュート。この時もガランのマークが遅れたんですが、おかげで再び、2-1とリードされてしまうって、そりゃあ、セルティック・パークのファンは狂喜乱舞しますって。その後はオライリーのシュートをGKオブラクがparadon(パラドン/スーパーセーブ)で防ぎ、更なる失点は免れたアトレティコでしたが、40分にFKからビッツェルがヘッドで決めたゴールは惜しくもオフサイド。1点ビハインドのまま、ハーフタイムに入ったところ…。

「No jugamos el partido que queríamos en la primera parte/ノー・フガモス・エル・パルティードー・ケ・ケリアモス・エン・ラ・プリメーラ・パルテ(前半は望んだようにプレーできなかった)」(シメオネ監督)ツケを払ったのはガランとサウールで、後半頭からはリケルメとマルコス・ジョレンテがピッチに。それが8分には功を奏し、ジョレンテがエリアの右外から送ったクロスをモラタがゴール前からヘッドで決めたんですよ。その日はまた、何度も倒されて文句を言っている姿ばかりが目についたため、ええ、得点も10月のスペイン代表のスコットランド戦以来、ノウルェー戦、リーガ前節のセルタ戦と2試合途絶えていましたしね。そろそろゴール運が切れかかっているのかと心配になっていたスペインとアトレティコのCFが2-2にしてくれたから、助かったの何のって。

それからは「CLをプレーすべきようにプレーした」(シメオネ監督)彼らはいい感じでセルティックを押していたんですけどね。モラタと交代したコレアも2度程、GKハートを煩わすシュートを放ったんですが、38分にはデ・パウルがベルナウドに乱暴なタックルを見舞って2枚目のイエローカードをゲット。退場処分を喰らったため、10人になったアトレティコは逆転勝利までは行かず、1節のラツィオ戦に続いて、引分けることに。いやもう、これでCLアウェイゲームで6試合白星がないとなると、引分けでも御の字って気がしないでもないんですけどね。幸い、あと3試合あるグループリーグの2試合はホーム開催ですし、11月7日のセルティック戦、そして最終節のラツィオ戦で勝てば、ロッテルダムでフェイノールトに負けてもグループ突破できるとなれば、もうそこにすがるしかないかと。

そんな感じでミッドウィークを過ごしたアトレティコの今週末のリーガは日曜午後9時(日本時間翌午前5時)、メトロポリターノでのアラベス戦なんですが、グラスゴーには行かなかったものの、火曜のチーム練習に参加していたヒメネスがそろそろ復帰できそうな様子。見学に行った私がリノと勘違いしてしまったレイニウドも部分的に加わっていたんですが、こちらはヒザの靭帯断裂からの回復とあって、まだしばらくは時間が必要かと。そのリノに加え、メンフィス・デパイ、レマルは引き続きリハビリ中で、クラブ最長記録となるホーム15連勝を目指す今節には間に合いませんが、上位がクラシコで潰し合いしてくれるせっかくの機会を利用できたらいいですよね。

そしてマドリッドの弟分たちは土曜にヘタフェがマジョルカとのアウェイ戦、日曜にはラージョがようやくメトロ1号線が復旧したエスタディオ・バジェカスにレアル・ソシエダを迎えることに。まあ、前者はボルダラス監督がマジョルカ相手に11試合無敗(4勝7分け)と強いのが頼りになるんですが、ここ4試合連続引分け中でもあるため、久々の白星が掴めるかどうかは微妙なところ。折しも後者は前節、セビージャ戦の後半ロスタイムにベベのPKゴールで4試合連続引分け地獄を脱したところなんですが、何せ相手は火曜のCLベンフィカ戦でも0-1で勝利して、久保建英選手がMVPを獲得と好調ですからね。ただリーガでは5位のソシエダと7位のラージョの勝ち点差は2しかないため、ここはミッドウィークフリーの体力的優位を利用して、バジェカスのファンを喜ばせてくれたらと思います。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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