恒星を切り裂く “相対論的刃” を発見 長時間輝くガンマ線バーストに関連か

ガンマ線バースト」は宇宙で最も高エネルギーな現象の1つですが、代表的な謎の1つは、長時間持続するガンマ線バーストの発生メカニズムです。

ニューヨーク大学のMarcus DuPont氏とAndrew MacFadyen氏の研究チームは、恒星の崩壊時に赤道方向から激しいプラズマの流れが生じる現象が発生することをシミュレーションにより突き止めました。この流れは光速に近い速度で運動し、恒星を切り裂くのに十分であると表現できることから、著者はこの現象を口語的に “相対論的刃(Relativistic Blades)” と名付けています。

■ガンマ線バーストは謎の多い現象

「ガンマ線バースト」は、短時間に高エネルギーのガンマ線を放出する宇宙で最も高エネルギーな天文現象の1つで、太陽よりもずっと質量の大きな恒星で発生する超新星爆発に伴って発生する現象であると考えられています。しかし、発生メカニズムにはまだ多くの謎が残されています。

大きな謎の1つは、ガンマ線バーストがなぜ大量のエネルギーを限られた範囲に放出するのかについてです。ガンマ線バーストのエネルギーはあまりにも多く、ごく一部の範囲にのみ放出されたと考えなければ説明がつかないと考えられています。このため、エネルギーの放出方向を絞るメカニズムが必要となります。

【▲図1: ガンマ線バーストの想像図(Credit: NASA, Swift, Mary Pat Hrybyk-Keith, John Jones)】

現在支持されている説は、恒星の中心核で発生する「マグネター」の生成によるというものです。中心核で核融合が停止すると、中心核は重力で潰れる重力崩壊が発生し、非常に高密度で自転速度の速いマグネターが発生します。マグネターは非常に強力な磁場を持ち、電気を帯びた粒子であるプラズマを高速で運動させます。プラズマの流れと恒星を構成する粒子同士の衝突で発生するエネルギーの放出が、ガンマ線バーストの源になると考えられています。

現在の研究では、このメカニズムで自転軸方向のエネルギー放出を説明できており、これは短時間輝くガンマ線バーストについて良く説明しています。しかし数は少ないものの、より長時間輝くガンマ線バーストも観測されており、このメカニズムでは説明不足でした。

■恒星の中心から外に飛び出す “刃” を発見

DuPont氏とMacFadyen氏の研究チームは、恒星内部での活動をモデル化し、物質やエネルギーの流れをシミュレーションしました。その結果、これまでに知られていないエネルギーの流れが生じることがあるのを突き止めました。

【▲図2: シミュレーションされた “相対論的刃” の一例。赤道方向に薄く発生することが特徴的(Credit: DuPont & MacFadyen)】

マグネターの自転速度が極めて早い場合、磁場の変化の激しさから、粒子の流れが赤道方向に集中します。激しいプラズマの流れはマグネターの赤道方向、つまり恒星そのものの赤道方向に発生します。流れるプラズマの速度はほぼ光速に達する一方で、その厚さは恒星の大きさに対して非常に薄いため、プラズマは恒星を飛び出して半径の数倍の距離まで到達し、その過程で大量のエネルギーが放出されることが分かりました。

このプラズマの流れは、線的な形状であるジェットとは異なり面的に拡がっていることから、研究チームは口語的に “薄板( Lamina)” または “刃(Blades)” と名付けました。そして速度の速さから、研究チームは “相対論的刃” と呼んでいます。プラズマの流れが赤道方向から外に飛び出す様は、恒星を2つに切り裂くのに十分であると表現できるためです。

■研究は初期段階

相対論的刃が発生する状況では、典型的な超新星爆発の50倍(約5×10の45乗ジュール)に相当するエネルギーが放出されると考えられます。総エネルギーと放出時間は、長時間持続するガンマ線バーストに適合するため、研究チームはこれがガンマ線バーストのカギではないかと考えています。

今回の研究は、相対論的刃がガンマ線バーストと適合することを証明したに過ぎず、研究は初期段階の状態です。研究チームは次の段階として、刃が時間経過によってどのような変化をするのか、そして最終的な恒星の運命にどう関与するのかを調べる予定です。

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文/彩恵りり

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