福井ゆかりの歌人、俵万智さんの歩みをたどる福井県ふるさと文学館の企画展「俵万智展 #たったひとつの『いいね』」が10月27日開幕した。大ヒット歌集「サラダ記念日」に始まる36年間の歌業から約300首をえりすぐり、立体的なオブジェや壁面に色とりどりの文字で大きく印字。歌集を飛び出した口語短歌の数々がインスタレーション(空間芸術)の主役を演じている。
俵さんは14歳で大阪から武生市(現越前市)に移り、武生一中から藤島高へ進んだ。多感な時期を過ごし「古里すぎて、あまりにも古里」と言ってはばからない福井の地。還暦を迎え、新作歌集発刊を3日後に控えた節目のタイミングでの“里帰り展”となった。
⇒朝ドラ「ブギウギ」で橘アオイ役、OSK日本歌劇団の翼和希さんが撮影秘話 「東京ブギウギ」熱唱も
会場では、高さ3メートルに拡大されたはがきが来場者を出迎える。早稲田大に進学後、ホームシックの心境をつづった家族宛ての一枚。「サラダ記念日」にある〈「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ〉の原点となった文面だ。
次のゾーンには、恋愛歌人として名をはせた20代の頃の歌を集めた。〈「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの〉。ガラス壁面やハート形のオブジェの上で、男女の機微を詠んだ等身大の言葉が躍る。
息子を授かり、子育ての哀歓を詠むようになった40代。〈バンザイの姿勢で眠りいる吾子よ そうだバンザイ生まれてバンザイ〉。世の母親たちの共感を集めた歌の数々が並ぶ。
2021年に歌壇の最高賞の迢空(ちょうくう)賞に輝いた歌集「未来のサイズ」を紹介するゾーンには、コロナ禍を見つめた社会詠(えい)がある。〈第二波の予感の中に暮らせどもサーフボードを持たぬ人類〉。新境地を開いた歌人の現在地を示している。
高校時代に授業で俵さんの短歌に出合ったという福井市の女性(34)は、最新作の〈言葉から言葉つむがずテーブルにアボカドの種芽吹くのを待つ〉が印象に残ったといい「時間に追われる日々ですが、焦らずに待つことの大切さに気付かされます」と話していた。
来年2月4日まで(休館日あり)。入場無料。