路線網充実、地方ローカル線問題、海外展開…… 鉄道の課題解決のヒントここにあり 「日本鉄道賞」でプロジェクト5件を表彰【コラム】

日本鉄道大賞を受賞した「相鉄・東急直通線」を走る7社局の車両

2022年の「鉄道開業150年」に続く2023年、鉄道の日は制定30周年を迎えました。昨今の鉄道界、北陸新幹線の敦賀延伸開業まで1年を切り、ドライバー不足でJR貨物や〝新幹線モーダルシフト〟への期待が高まる一方で、地方ローカル線問題や自然災害への対応が待ったなしの課題として差し迫ります。

課題解決に一定の道筋を示したのが、10月14日「鉄道の日」の一環としてセレモニーが開かれた「日本鉄道賞」。鉄道分野に絞った公的表彰制度で、最優秀賞の日本鉄道大賞1件と表彰選考委員会の特別賞4件が表彰されました。本コラムは授賞プロジェクトを紹介する中から、鉄道界の針路を考えました。

20件の応募を有識者が選考

今回で22回目を迎えた日本鉄道賞の表彰は2023年10月16日、東京都港区の東京プリンスホテルで開かれた「鉄道の日祝賀会」の中で行われました。会合には、行政、民間、研究機関などから約500人が出席しました。

日本鉄道賞は鉄道の日実行委員会による表彰制度。実行委メンバーには国土交通省が加わり、鉄道分野でほぼ唯一の公的表彰と位置付けられます。

今回は20件の応募を、東京大学大学院工学系研究科の古関隆章教授(委員長)、国交省の村田茂樹鉄道局長、交通新聞社の中村直美常務らによる選考委員会で審査しました。

相鉄・東急直通線に日本鉄道大賞

最優秀賞の日本鉄道大賞は、「新横浜線開業!つながる!相鉄線・東急線~総延長約250キロにおよぶ広域鉄道ネットワークの形成~」。2023年3月に開業した相鉄・東急直通線です。建設した鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)と、列車を運行する相模鉄道、東急電鉄の3者(社)が受賞しました。

評価のポイントは、東急、相鉄の鉄道2線をつないで、横浜市西部や神奈川県央部と東京都心部を短絡させた点。そして、新駅の東急新横浜駅で、東海道新幹線へのアクセスを充実させた点です。

新駅の新綱島、さらに東急東横線から直通線が分岐する日吉駅でのJRTTによる新しい工法は、土木学会賞の受賞プロジェクトとして、本サイトでも紹介させていただきました。

17車種の電車が相鉄・東急直通線を走る

直通線に乗り入れるのは、東急東横線経由が6社、東急目黒線経由が5社局で、車両は合計17車種にのぼります。安全・安定した列車運転のため、相鉄と東急を中心とする関係各社は、綿密な調整と訓練を実施してトラブルを防止しました。

2019年に相鉄・JR直通線、2023年に相鉄・東急直通線が開業した神奈川東部方面線(2つの直通線のプロジェクト名)は、乗り換えを解消して利便性を高めました。

神奈川東部方面線に続く首都圏の鉄道プロジェクト、東京メトロ有楽町線、南北線の延伸線、そして東京都が構想を発表した「都心部・臨海地域地下鉄線構想」があります。近い将来に何らかの動きがあるはずで、ファンは期待して待ちたいところです。

只見線の列車に手を振る条例

日本鉄道賞を続けます。地方ローカル線の再生では、「ふたたび、はじまる。再会、只見線」で只見線利活用推進協議会、「公共交通ネットワークの四国モデル追及に向けた鉄道とバス連携施策」でJR四国が、ともに選考委特別賞を受賞しました。

只見線利活用推進協の実態は福島県。2011年の新潟・福島豪雨で大規模被災したJR只見線、施設保有と列車運行主体を分ける上下分離で復旧したことは本サイトでも紹介させていただきましたが、推進協の呼び掛けに呼応した沿線市町は「只見線に手をふろう条例」などで、乗客にもてなしの心を示します。

鉄道にもバスにも乗れる

JR四国と徳島バスが2022年4月から始めた「徳島県南部における共同経営」は、JRのきっぷや定期券で高速バスの並行区間に乗車でき、柔軟な移動を可能にしました。

本来はライバルの鉄道とバスの協業は、独占禁止法の規制を受ける可能性があります。両社は法令の特例措置で回避、ローカル線生き残りの道を示しました。

東京メトロのオンライン講座を46ヵ国・地域の聴講

続く2件は、日本の鉄道の海外発信が共通のキーワード。「世界の鉄道関係者向けオンライン講座『Tokyo Metro Academy』の開講」で東京メトロ、「日本の鉄道の魅力を世界に発信!NHKワールドJAPANの英語番組『Japan Railway Journal』」で、NHKとNHKグローバルメディアサービスが、選考委特別賞を受賞しました。

東京メトロのオンライン講座は、コロナ禍の2021年の無料講座で始動し、その後有料講座に展開。「混雑路線の定時運行」など各国共通のテーマを設定し、46ヵ国・地域、1076人が受講しています。2023年11月には、訪日研修も予定されます。

NHK国際放送のJapan Railway Journalは、次世代新幹線からリニアモーターカー、豪華観光列車と、日本の多彩な鉄道の魅力をワールドワイドに紹介。訪日レールウェイツーリズムの振興に一役買います。

鉄道フェスに世界の鉄道ファンを呼び込む

日本鉄道賞の紹介は以上。斉藤鉄夫国土交通大臣も出席した、鉄道の日祝賀会の会場風景はフォトトピックスの形で披露させていただきます。

大賞の表彰セレモニーに臨むJRTTの藤田耕三JRTT理事長、相鉄の千原広司社長、東急電鉄の髙橋和夫社長ら(筆者撮影)
鉄道の日祝賀会であいさつする斉藤国土交通大臣。国交省の総力を挙げて鉄道再生に取り組む決意を示しました

最後にワンポイント。鉄道の日実行委員会の森地茂会長(政策研究大学院大学名誉教授・特任教授)にうかがった、鉄道の日の新展開。東京・日比谷公園から今秋、江東区のお台場に会場を移した「鉄道フェスティバル2023」は盛況のうちに終了しましたが、鉄道ファンが一つになれる大型のイベントは世界を見渡しても日本だけということです。

そこで森地会長が考えるのが、鉄道フェスの世界に向けた情報発信。近未来には、日本と海外の鉄道ファンがフェス会場で親交を深めるかも。実現すれば、日本の鉄道が、世界に羽ばたくチャンスになるでしょう。

記事:上里夏生

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