被爆者の体験や思い AIで後世に 映像、対話形式で質疑応答も可能 長崎含む全国50人収録へ 

高校生(右)からの質問に答える宮田さん(奥)=長崎市幸町、「+U PHOTOGRAPHY(プラスユー フォトグラフィ)」

 被爆者の平均年齢が85歳を超えるなど戦争体験者の高齢化が進む中、浜松市のソフトウエア開発会社シルバコンパスが証言を収録し、人工知能(AI)と映像制御技術を組み合わせたAI映像対話システムを活用して、体験や思いを後世に残す「語り部継承プロジェクト」に取り組んでいる。証言を映像で流すだけでなく、対話形式で質疑応答ができるのが特徴。被爆80年となる2025年までに全国50人の収録を目指す。今月、長崎原爆の被爆者、宮田隆さん(84)=長崎県雲仙市=の証言を収録した。

 22日、長崎市内の写真スタジオ。宮田さんは、爆心地から2.4キロの同市立山町(当時)にあった自宅で5歳の時に被爆した体験を証言。逃れてきた若い女性が水を求めながら目の前で亡くなった当時の記憶を語り「戦争の犠牲となるのは罪のない市民」と訴えた。
 収録は休憩を挟み6時間半ほど。同社の安田晴彦社長(48)らの質問は約100問にも及んだ。若い世代の視点から質問してもらおうと活水高平和学習部にも協力を依頼。「次の世代に伝えたいことは何ですか」。竹内伶さん(16)と中村心優さん(15)=いずれも1年=の問いかけに、宮田さんは「世界には(戦争などで)苦しんでいる人たちがいる。現場に行って、じかに対話してほしい」とカメラに向かってメッセージを送った。
 同社が21年に開発したAI映像対話システム「Talk With(トーク・ウィズ)」は、約100問に答える映像をあらかじめ収録し、質問を受けるとAIが音声を自動解析して最適な映像を探し、再生する仕組み。アイドルとの会話や高齢者の話し相手など幅広いサービスを提供する。
 同じ年にスタートさせた同プロジェクトは、学校の平和学習などで活用してもらう狙い。130の言語を音声認識でき、証言者の言葉も現地の言葉に翻訳したものが字幕で流れる仕組みづくりを進めている。

AI映像対話システムを活用した平和学習。ステージ上に設置された等身大のディスプレーの映像と生徒たちがやりとりした=2022年6月8日、浜松市中区、浜松学芸中(シルバコンパス提供)

 プロジェクトを始めるきっかけは19年。国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館が長崎の被爆者の協力を得て実施した試験的な取り組みだった。当時館長だった黒川智夫さん(69)から相談を受けた安田社長も関わり、試作品が完成。だが、その後コロナ禍の影響や費用面などの問題があり、事業化に至らなかった。
 戦争体験者の高齢化が進む中、安田社長は「記憶のある人から直接話を聞けるのもあと数年。一人でも多くの証言を残すことは誇りある仕事」と自社で事業化する方針を決めた。1945年6月の浜松大空襲で母親を亡くした女性の戦災体験を昨年4月に収録。同6月に浜松市内の中学校であった平和学習で活用された。答えられなかった質問は記録し、回答を再収録することで、より証言者本人に近づける工夫もする。
 同プロジェクトで証言を収録したのは宮田さんで3人目。宮田さんは「被爆者が少なくなる中、先端の技術で世界中どこでも対話ができ、永続的に伝承されることは心強い」と語る。同社では今後、東京都や神奈川、静岡両県在住の被爆者の証言を収録予定。長崎でも協力してくれる被爆者を募っている。問い合わせは同社東京事務所(電03.6809.1072)。

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