怪優ドゥニ・メノーシェが驚きの“田舎移住”エピソード告白!東京国際映画祭3冠『理想郷』はスペインを震撼させた凄惨事件に基づく心理スリラー

『理想郷』© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.

実際の事件をベースに“田舎と都会の対立”を描く衝撃作

スペインを震撼させた実際の事件に基づく心理スリラー『理想郷』が、2023年11月3日(金・祝)より全国順次公開。本作は、第35回東京国際映画祭にて最優秀作品賞にあたる東京グランプリ(東京都知事賞)のほか、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞の主要3部門を獲得している。

――都会を離れて田舎で過ごすスローライフに夢を抱き、スペインの山岳地帯ガリシア地方の小さな村に移住したフランス人夫婦のアントワーヌとオルガが主人公となる本作は、名作『わらの犬』(1971年/サム・ペキンパー監督)でも描かれた“田舎と都会の対立”がテーマ。2010年の発覚から裁判が終わるまでの8年間多くの新聞が報道するなど、スペイン全土に激震が走った実際のある事件をベースに映画化されている。

第37回ゴヤ賞で最優秀映画賞、最優秀監督賞など主要9部門受賞した本作は、スペインで2022年に公開された独立映画の興行収入1位を獲得。その後も、第48回セザール賞最優秀外国映画賞をはじめ、世界で56の賞を獲得(2023.8.25時点)するなど好評を博した。

このたび、主人公のひとりアントワーヌを演じた注目の俳優ドゥニ・メノーシェから、日本公開に寄せて貴重な独占インタビューが到着。イギリスからフランスへと生活拠点を移した俳優が体験した、驚きのエピソードとは……?

「孤立した男で、結果を考えない、“美しき愚か者”」

本作に主演するドゥニ・メノーシェは、『ジュリアン』(グザヴィエ・ルグラン監督)、『悪なき殺人』(ドミニク・モル監督)、『苦い涙』(フランソワ・オゾン監督)などで観客に強烈な印象を残したが、本作ではスペインの小さな村に移住したフランス人夫婦の夫アントワーヌを演じ、第37回ゴヤ賞で最優秀主演男優賞、第35回東京国際映画祭で最優秀主演男優賞をはじめ多くの賞を獲得。本作の後も大注目のアリ・アスター監督最新作『ボーはおそれている』(日本公開:2024年2月16日)など出演作が目白押しの、今フランスで最も勢いがあると言っても過言ではない俳優だ。

アントワーヌは、その村に昔から住む隣人兄弟からすさまじい嫌がらせを受け、対立を深める中で、次第に好戦的な一面をあらわにしていく。そんなアントワーヌについて、メノーシェは「『理想郷』のアントワーヌを、“美しき愚か者”として演じました。孤立した男で、結果を考えないのです。でも、そういう彼の描かれ方はすごく面白いと思いました」と自身の役どころを分析する。

メノーシェは『ジュリアン』や『悪なき殺人』でも本作のアントワーヌに通じる、結果を顧みず衝動に従って行動してしまう人物を演じてきたが、「私が好きなのは演じることそのもので、ある種、職人が何かものを作り出すように人物を演じています。俳優という仕事はアートのようなもので、楽譜が豊かであれば、それはとてもエキサイティングなものになります。私が興味を惹きつけられるのは、まるでオーケストラの指揮者のように明確な強いビジョンや世界観を持った監督です。自分ひとりであれば、いつも平坦で同じような演奏になってしまうでしょう。でも、監督が何を言おうとしているか、何を表現しようかとしているか、彼らが開いてくれる世界、彼らが招き入れてくれる世界が、物語に奉仕する道具として、私を使ってくれます。それによって私はまた違った、あるいはより深い演奏をすることができるのです」と、俳優という職業に対する考えを明かした。

「私たちの“他者を認識する際のまなざし”が本作のテーマ」

『理想郷』で描かれる“人間の暴力性”についてメノーシェは、「人間のエゴや暴力、人生の一部をいかに思慮深い人間的な方法で観客に示すか……それは、映画の役割として重要なことのひとつだと考えています。私は、映画というのは、人間的な方法で暴力について語り、それによって自分自身や他者に何かしらの影響を及ぼすことができるものだと思っているんです。人々がそれを感じ取ることを手助けする、ひとつの手段になるのです」と持論を吐露。そういったテーマを描き続けている本作のロドリゴ・ソロゴイェン監督については、「ロドリゴは、私が一緒に仕事をしてきた監督の中でも最高のひとり。彼の映画で描かれる人間の動物的側面には本当に注目に値するものがあります。あらゆる人間の側面、裏の側面も動物的な側面も力強く描き出し、スペイン映画という枠を超えて、パワフルな映画を作っていると思います」と手放しで称える。

本作は、移民排斥や都市再生といった今日的なテーマも描かれているが、このことについては「異国から来た他人であれ、隣人である他人であれ、私たちが他者を認識する際のまなざしというのが本作のテーマだと思っています。私たちがお互いをどう見ているか、地元の人が異邦人をどのように見ているか、といったテーマは古くからあるものですが、ひとつの村を舞台にした物語でありながら、ほかの様々な状況において全世界的に置き換えられる物語だと思います」と語った。

「家の近くで狩猟をしていた人たちと口論になったことがあったんです」

そんなメノーシェは、パンデミックを機にイギリス・ロンドンからフランス・ブルターニュに移住。現在、アントワーヌさながらの田舎暮らしを満喫しているという。

「『理想郷』の撮影が始まる前、パンデミックが原因で生活を変えなければならず、人生を変えようと引越しを決心しました。ロンドンは地価や物価が高すぎたので、田舎暮らしの方がいいと思い至ったんです。役者という職業にとってもブルターニュの方が最適だと思いました。ここは近くに自然や海がある素晴らしい場所で、田舎の生活は落ち着いていて、すごく穏やかな気持ちで暮らせています」

しかしそんな生活の中で、本作に通じる驚きのエピソードもあったようで、「あるとき、狩猟をしていた人たちが私の家の近くで発砲したことで、彼らとちょっとした口論になったことがあったんです。銃声音が怖かったんですが、彼らは“あなたはウチに住むようになったんだから”という言い方をしました。土地を自分の“ウチ”という風に言ったのです。思えば、それは『理想郷』のテーマそのままで、他者を外国人として見るまなざしを如実に物語った瞬間だったんです」と強い印象を受けたことを打ち明けてくれたが、このエピソードには“続き”があった。

「それから1年半以上が経ち『理想郷』が公開された後、私はその狩人のひとりと再会したんです。彼は私のところに来て、“『理想郷』を見て、あなたとどういう風に接したらいいのか、どういう風にあなたを受け入れたらいいのか、わかった気がした”と言われました。それはとても面白い経験でした」

そう笑顔で振り返ったメノーシェ。このエピソードを踏まえて本作を鑑賞すれば、彼らが演じる人物たちの“まなざし”や心の機微を、より敏感に感じ取れるかもしれない。

『理想郷』は2023年11月3日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネマート新宿ほか全国順次公開

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