「イ・ジョンソクさんは二つの顔を持つ俳優」監督が明かす映画『デシベル』撮影秘話

『デシベル』高IQテロリスト役のイ・ジョンソク © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

(画像)映画『デシベル』インタビュー写真&場面写真

大都市に仕掛けられたのは“騒音反応型爆弾”。仕掛けたのは高IQ爆弾魔、対するは元海軍副長。人質は釜山市民。

隠された悲しい過去を背景に連続爆弾テロ事件を描く映画『デシベル』は、あらゆる音が脅威になる特異性、臨場感あふれる爆破シーン、スリリングなアクションが繰り広げられる。

さらにキム・レウォン、イ・ジョンソク、チャウヌ(ASTRO)といった実力派や人気俳優がそろうキャストにも注目だ。どのようにストーリーが制作され、撮影が進んだのか。本作を手がけたファン・イノ監督にインタビューした。

ファン・イノ監督が明かす!映画『デシベル』の撮影秘話

『デシベル』は主人公が英雄になっていく過程を描く作品ではない

『デシベル』のファン・イノ監督。韓国からオンラインインタビューを行った © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

――『デシベル』はいつ頃から構想されていましたか。2011年の映画『恋は命がけ』で監督デビューされ、2014年には映画『その怪物』、この前作から9年ぶりの今作となりますね。

私は二作目の映画を作った後、9年という時間を経てこの作品を撮りましたが、この作品だけに取りかかっていたのではなく、ほかにも4作品ほどお話があったものの実現にいたりませんでした。

そういうふうにして過ごしているうちに、爆弾テロをモチーフにした作品を作らないかと制作会社の代表から提案があり、では「一般的な爆弾テロ作品ではなく、これまでとは違ったアプローチをしたらどうか」と逆に提案をしたんです。そこで思いついたのが、音に反応する爆弾。その次に、ストーリーを作り上げていきました。

『デシベル』メイキング風景。写真左からキム・レウォン、ファン・イノ監督、イ・ジョンソク © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

――テロの標的となる元海軍副長カン・ドヨン役をキム・レウォンさんが演じ、スタント無しでのアクションシーンにも挑まれたそうですが、まずレウォンさんを主役に抜擢された理由からお聞かせください。

『デシベル』はひとりの男性が英雄になっていく過程を描く映画ではなく、英雄として輝いていた人物がだんだん墜落していく過程を見せる作品です。となると、主演の俳優さんにも深みが必要に。

ただ単にかっこよく悪党をやっつけるということではなく、本当に人間の奥深さを演じられる俳優ということで、第一候補としてキム・レウォンさんをあげて、受けていただきました。レウォンさんは意志が強く、このキャラクターをやると決めると、自分をどんどん追い込みながら演じてくれて。

最初はスタントマンがやる予定だったアクションも、「自分でやる」と言ってくれました。あとになるにつれて撮影では疲れていくものなので、できればスタントマンにもお願いしたいと思っていたんですが、彼自身とても運動神経がいいので、こちらも「信じて任せよう」となりました。そうして彼が演じてくれたおかげで、作品を完成させることができました。

イ・ジョンソクさんは二つの顔を持つ俳優

『デシベル』メイキング風景 © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

――日本でも人気のあるイ・ジョンソクさんは、爆弾設計者の高IQテロリスト役を演じています。ジョンソクさんはこれまでロマンス作品の出演が多かったなか、昨年から映画『THE WITCH/魔女 ―増殖―』、ドラマ「ビッグマウス」と、悪役や復讐に賭ける役を演じ、これまでとは違う表情を見せていますが、今回キャスティングされたのはなぜですか。

まずはすごく詳しく作品をご覧になっていらっしゃいますね。ジョンソクさんは、私からすると二つの顔を持っている俳優だと思うんです。というのも、すごく優しい目をしていて、ロマンチック作品の主人公のようですよね。

ただ、少し離れたところでじっと彼を見ていると、肌が白いこともあり少し冷ややかな印象も感じました。彼にとってその二面性を持っているというのは、長所になると思ったんです。彼自身「ソフトな役もいいけれど、もう少し個性的な役もしてみたい」と言っていて。

最初にキム・レウォンさんが決まっていて、その後、ジョンソクさんがこの役に関心を持っているようだという話を聞いたので、彼に会ってこの役について説明することから始めました。

この役は、根っからの悪役ではなく、1年後にはテロリストになっている。ということは、テロリストになるまでの1年が描かれていない。

それまでの過程は自分自身で役を考えて作っていき納得したうえで演じないといけないので、役を深めるため、私自身が記者になって、テロリストに質問をする状況を想像して役の背景を作り上げていくという手法を取りました。

『デシベル』 © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

私が記者ならばテロリストにどんなことを質問するか、10枚ぐらいの紙に用意しました。ジョンソクさんがテロリスト、私が記者という想定で、「どうしてこんなことをしたんですか?」「なぜこの音に反応する爆弾を作ったのですか」など、その動機も含めて質問してやりとりしたという設定でまとめていきました。

それをジョンソクさんにお見せしたところ、納得してくれましたし、深い話もたくさんして、キャラクターについても話し合いができましたので、彼にこの役をお任せしようということになりました。

チャウヌさんのシーンを撮って驚いたことは…

『デシベル』海軍潜水艦音響探知下士官チョン・テリョン役のチャウヌ © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

――『デシベル』がデビュー後の映画初出演となったK-POPボーイズグループ・ASTROでも活動されているチャウヌさんは、本作では海軍潜水艦音響探知下士官チョン・テリョン役で硬派な演技を見せていますが、キャスティングされるきっかけがあったのですか。

さまざまな要素を考えたうえで、チャウヌさんに台本を読んでもらったところ、快く「演じます」と返事をしてくれたのがうれしかったことを覚えています。

そして韓国だけではなく、おそらく日本でもそうだと思うのですが、アイドル俳優に対しての先入観を誰でも持っていますよね。実は私自身、チャウヌさんのことをあまり知らずにお会いしたんですが、潜水艦のシーンを撮り始めて、びっくりしました。

というのも、チャウヌさんはキャラクターをしっかりと自分なりに分析をして、どう表現したらいいのかを理解して、撮影に臨んでくれていたんです。その姿を見て、ただのイケメンアイドルだと思ってしまっては、これは損ではないか、と思いました。

チャウヌさん自身は、心の中で演技に対しての強い意志がありますし、いろいろな感情を演技で見せたいという思いも抱えていたので、そういったところをうまく出せるような配役と出会うということも大切だと感じました。

『デシベル』メイキング風景。写真左からチャウヌ、ファン・イノ監督 © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

彼自身、撮影分量は多くなかったので、短い時間で現場に溶け込み、見事にやり遂げてくれました。

そして印象深かったのは、チャウヌさんのセリフが終わっているのですが、ほかのキャストをうしろで見ている、というシーンがあったんです。

セリフがないまま演じなければいけない場面でさえも、何度もカットを変えながら撮ります。その都度、しっかりと自分の感情を作って表現していて、とてもよい演技をしてくれたので、彼は計り知れない才能を持っていると感じました。

もうひとつ印象的だったのは、敬礼をして出て行くシーンです。もともとコンテになかったのですが、出ていく時に最後に一度だけ振り返ってほしい、と私からお願いしました。

すると、振り返るポイントや角度、表情、すべてパーフェクトに振り返ってくれたので、こちらも幸せな気持ちになって、こんな俳優さんと一緒にお仕事ができるなんて私は恵まれているなと実感しました。

ファン・イノ作品の常連!イ・ミンギさんについて

『デシベル』海軍潜水艦のファン大尉役として特別出演するイ・ミンギ © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

――本作に特別出演となる、海軍潜水艦ファン大尉役のイ・ミンギさんは、ファン・イノ監督の一作目の映画『恋は命がけ』からの連続出演です。やはりミンギさんへの信頼度は高く、欠かせない存在ですか。

イ・ミンギさんは、近所で一緒に仲良くお酒を飲む間柄なんです(微笑)。

『デシベル』を撮っている際、ミンギさんは別のドラマを撮っている最中だったんですが、出演をお願いしました。

そしてそのドラマが潜水艦のセットで撮影する『デシベル』とは真逆のラブストーリーだったので、彼の演技を見て驚きました。雰囲気も違えば、演技も違う。そんななかでも、彼は見事にやり遂げてくれました。

『デシベル』のファン・イノ監督。時に笑顔で快くインタビューに応えてくれた © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

撮影の休み時間があったんですが、彼が潜水艦のセットの中から出てこないんです。見てみると、ほかの乗組員役の方たちとずっと一緒にいて、溶け込もうとしていました。その様子などを見てきて、ミンギさんというのは生まれつきの天性の俳優だと思いました。

彼はたくさんの魅力を持っているので、ミンギさんからこれから引き出すものもたくさんある、本当に大切な俳優です。

親しくしている俳優は、イ・ミンギさん以外、いないんですよね。なので、ミンギさんを通して、俳優さんのことについてもいろいろと聞かせてもらいました。

「この俳優はこういうことが好きだ」「こういうことをこの俳優は信じて演じている」といったお話をたくさん聞かせてもらったので、こちらもディレクションをする時に、すごく参考になりますし、役に立つんです。

そういったこともあって、ミンギさんは私にとって友達のようにいつも助けてくれる存在であり、先生のような存在でもあり、大切にしていて尊敬できる俳優です。

やはり大物は違うと感じたキム・レウォンさんとの撮影秘話

『デシベル』テロの標的となった元海軍副長カン・ドヨン役のキム・レウォン © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

――本作は、サッカースタジアムや大型ウォーターパークといった人がたくさんいる場所での大規模な撮影もありましたが、撮影で大変だったことはありましたか。

サッカー場のシーンは、一番お金がかかりました(笑)。エキストラが数百人もいて、その数百人の方々を全部こちらでコントロールしなければいけなかったので、大変な撮影だったんです。しかも、そんなサッカー場をキム・レウォンさんは全力で一周走らなければいけなかった。

撮影時期はコロナ禍だったのですが、レウォンさんはワクチンを打ってすぐの撮影だったんです。実はそのワクチンの副作用によって、彼自身とても苦しそうで、体力的にも見てすぐ、かなりきついだろうとわかったのですが、やり遂げてくれました。

数百人のエキストラの方を集めていたこともあり、あのシーンの撮影を延期することはできなかったので、レウォンさんも走るしかない状況だったとはいえ、ひとことの不平不満も言わずに頑張ってくれたので、やはり大俳優は違うなと思いました。

『デシベル』 © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

――ちなみに、監督の映画『恋は命がけ』は、イ・ミンギさんと「愛の不時着」で日本でも知られるソン・イェジンさんとのラブストーリーが素敵ですが、劇中では日本のホラー映画『リング』や『呪怨』のエッセンスも垣間見えました。お好きなのですか?

『リング』や『呪怨』の影響を受けたくないと思っていても受けてしまうぐらい、とても好きな作品です。

――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、日本のみなさんにメッセージをお願いします。

『デシベル』を日本の観客のみなさんがどんなふうに観てくださるのか、とても気になっているところです。よかったら、ぜひご覧ください。

『デシベル』 © 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

【映画情報】

大都市・釜山。ある一軒家で起こった爆破事件のニュースを目にした元海軍副長カン・ドヨンにかかってきた一本の電話。

「次のターゲットは、サッカースタジアムだ。通報したり観客を避難させたら爆発する」。

それはテロリストからの脅迫だった。

仕掛けられたのは普通の爆弾とは違い、騒音が一定のデシベルを超えると制限時間が半減して爆発する特殊爆弾だ。ドヨンは事態を把握する間もなく、5万人の観衆で埋め尽くされた釜山アシアード競技場に向かうが……。

『デシベル』
11月10日(金)新宿バルト9 ほか全国公開
監督:ファン・イノ
出演:キム・レウォン、イ・ジョンソク、チョン・サンフン、パク・ビョンウン、チャウヌ(ASTRO)ほか
配給:クロックワーク
2022/韓国/110分/シネスコ/5.1ch/原題:데시벨/英題:DECIBEL/字幕翻訳:福留友子/G
© 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

(mimot.(ミモット)/ かわむら あみり)

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