【MLB】4年連続最下位の中で見えたかすかな光|2023シーズンレビュー ワシントン・ナショナルズ編

写真:2019年の世界一を知る数少ないメンバーとなったパトリック・コービン

【チーム成績】
71勝91敗 勝率.438

◆打撃
打率.254(12位)
本塁打151(29位)
OPS.709(21位)
盗塁127(12位)
WAR 9.5(27位)

◆投球
先発防御率 5.02(25位)
救援防御率 5.02(27位)
奪三振率 7.72(28位)
与四球率3.73(24位)
WAR 5.5(29位)

※WARはFangraphs算出のものを使用

4度の地区優勝、5度のプレーオフ出場、そして2019年の世界一。10年代のナショナルズはまさにナ・リーグ東地区屈指の強豪だった。しかしその栄光も今は昔、世界一の翌年からチームは低迷。ついに今季は4年連続の最下位となった。苦しい時期が続く中ではあるが、いくつかの光明が見え始めたシーズンであったのも間違いない。チームの状況を詳しく振り返っていこう。

今季のナショナルズについて理解するためには、2つのプレー外での問題について頭に入れておく必要がある。1つは球団売却騒動、もう1つは多額の長期契約だ。

まずは球団売却だ。現在のオーナーであるラーナー一族はナショナルズがワシントンに移転して以来チームを保有していたが、2022年4月に球団売却を検討していることが報じられ、チームはその動向を見ながら動かざるを得なくなっていた。

ただ、その後現在まで約1年半が経過したものの、売却交渉に進展が見られたという報道は入っていない。また、ワシントン・ポスト紙のトム・ロベロ記者は現地時間の9月14日、マイク・リゾGMとの契約延長が報じられた際のマーク・ラーナーオーナーの声明を紹介。「チームの未来に期待している」という主旨の声明を踏まえ、「これがチームを売ろうと考えている人物が出す声明だろうか?そうは思えない」とオーナーに売却の意思がないことを示唆した。確定ではないが、ナショナルズの球団売却騒動は収束しつつあるとみてよさそうだ。

次に、契約の問題について触れよう。具体的にはパトリック・コービンとスティーブン・ストラスバーグの契約だ。

コービンとストラスバーグはともに2019年の世界一に大きく貢献したかつてのダブルエースだが、近年は故障や球威の低下で成績が大幅に悪化。かろうじてローテーションは守れているコービンはまだしも、ストラスバーグは胸郭出口症候群の影響でマウンドに上がることすらできていなかった(2023年8月24日に引退を発表)。

それにも関わらず、二人の契約はあわせておおよそ6000万ドル。極めて潤沢な資金を持つというわけではないナショナルズにとっては致命的で、再建期に入ったチームは大規模な補強を行うことができないでいる。このような前提を確認した上で、今季の戦いぶりを見ていこう。

世界一になった2019年以降、マックス・シャーザー、トレイ・ターナー、フアン・ソトら多くの主力を放出し、各球団から有望株を受け取ってきたナショナルズは現在リーグでも上位のマイナー充実度を誇る。

そして、そのマイナーから徐々に若手が昇格・メジャー定着を果たし始めたのが2022年だった。

打線ではソトの対価として加入したCJ.エイブラムスが151試合でWAR2.1を記録。移籍当時の評価を思えばまだ物足りないが、MLBのレギュラーとして一人前の成績を残した。また、ジョン・レスターとのトレードで加入したレーン・トーマスは157試合で28本塁打、20盗塁をマークし、大きく成長をアピールした。

投手ではマッケンジー・ゴアとジョサイア・グレイがローテーションに定着。今季のチーム先発防御率5.02は決して褒められたものではないが、2022年の5.97に比べれば雲泥の差だ。救援陣もかつての有望株ハンター・ハービーが救援投手としてWAR1.3を記録するなど予想外の活躍があり、完全に崩壊していたといっても過言ではない2022年に比べれば大きく整備が進んだ。

また、2022年に大きく成績を落としたジャイマー・キャンデラリオはナショナルズに在籍した99試合でWAR2.8を記録するバウンスバックイヤーに。トレード期限でカブスに移籍した際には二人の有望株を残し、再建期のチームに大きな利益を残した。

ただ、もちろんすべてが上手くいったというわけではない。

シーズン前に8年間の長期契約を結んだ正捕手・キーバート・ルイーズは守備面で深刻な課題が露呈。136試合の出場でWAR0.0と、リプレイスメントレベルに甘んじた。有望株時代はどちらかといえば打撃の評価が高かった選手だが、その打撃でもOPS.717。平均を下回る結果しか残せなかった。

まだ25歳と若いルイーズだが、もしこのまま守備面の課題が解決しないようであればナショナルズは捕手の編成を改めてやり直す必要が出てくるかもしれない。

また、前述のポジション以外の穴は未だ大きい。他球団から放出された選手や不調に陥ったベテランのバウンスバックに期待するだけでは当然ながら限界がある。4年連続最下位の現状を打開するためには、なにか大きな力が必要となるだろう。

そして、その大きな力となりそうなのが現在AA級でプレーする2人の超有望株、ジェームズ・ウッドとディラン・クルーズだ。

ウッドはソトとのトレードで加入した外野手。恵まれた体格と素晴らしい身体能力を武器に、今季は20歳ながらマイナーで26本塁打を記録した。来季中のMLB昇格も視野に入っているスター候補だ。

また、クルーズは今季の全体2位指名を受けた外野手。非常に高い打撃技術を持ち、今ドラフトの目玉と見られていた。シーズン終盤に昇格したAA級ではやや苦労したものの、こちらも来季中のMLB昇格は十分に射程圏だ。

ウッドやクルーズがMLBで本領を発揮できれば、チームはかつて所属したブライス・ハーパー(フィリーズ)のようなスーパースターを手に入れることができる。閉塞したチーム状況を打開するにはもってこいの人材だ。

来年すぐに状況が変わる可能性は高くないかもしれないが、少しずつよい方向へチームは変わりつつあるのは確かだ。

このように、2010年代の栄光から一転、我慢の年が続く2020年代前半のナショナルズ。2023年もそれは変わらなかった。しかし、逆襲の準備は少しずつ整いつつある。今オフは、逆襲に向けてさらに力を蓄えられるかが1つの鍵となるだろう。

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