野島伸司が描く純愛と社会的タブー【高校教師】主題歌は森田童子「ぼくたちの失敗」  賛否両論が沸き起こった「高校教師」衝撃の最終回

オープニングから凄まじい無防備さを出していた「高校教師」

通学中の女子高生たちの波とザワザワと響く彼女たちの喋り声。そこに静かにピアノの音色と、

 ♪はァ… るの… こもれ陽の… 中で…

―― と囁くような森田童子の歌声が乗る。画面に登場する「高校教師」というタイトルは、あまりにもアッサリ不愛想な、なんの飾りもない明朝体――。

1993年に放送されたTBSドラマ『高校教師』は、オープニングから凄まじい無防備さを出していた。

脚本は社会のタブーに切り込む、過激な内容で知られる野島伸司によるもの。ちょうどこの作品のひとつ前、1992年の『愛という名のもとに』(フジテレビ)で、主役グループの1人でムードメーカーのチョロが自殺するという、トレンディドラマにあり得ない展開で賛否両論を巻き起こしたところであった。

そこから、さらにアクセルを入れるように、『高校教師』では、いじめ、強姦、近親相姦など深刻なテーマが入れ込まれた。直接的な描写はなくとも、観ていて想像を促すにはじゅうぶんなセリフやシーンが多く、「教師と生徒の禁断の愛のドラマ」と一言で語るには、あまりにも重い。

私も観ていて辛くうんざりしたりもしたが、それでも最後までセンセーショナルな展開にかき消されず、純愛を感じることができたのは、俳優と音楽の両方から溢れ出る、透明感と「母性」のおかげだったと思うのだ。

ヒロイン、二宮繭役の桜井幸子が持つ繊細なのにふくよかな美しさ。昭和初期の銀幕女優と、海外のロマンスドールの趣を足したような、和洋折衷の古風さが本当に魅力的だった。そして、憧れの教師に襲われるというつらいシーンがありながらも、凛とした清潔感を失わなかった持田真樹。目の輝きが「正義」そのもの。この2人が出す包容力が、物語のドロドロとした澱みを浄化していった。

「ぼくたちの失敗」とバブル崩壊と大人になる憂鬱

私は、このドラマに流れる、儚い森田童子の声に魅了され、アルバム『ぼくたちの失敗 森田童子 ベスト・コレクション』を買った。ただ、挿絵画家・風間完による、少女がこちらを見つめているような、いないような虚ろなまなざしのジャケットイラストは暗く、CDショップでかなり戸惑ったのを覚えている。なのに買ったあとも、ジーッと見つめてしまう……。私がこれまでに購入したなかでも、1、2を争う異様なオーラを放つCDである。

あとから、この曲は1976年の楽曲のリバイバルヒットだったと知った。なるほど、学生運動が沈静化し、結局日常が体制に飲み込まれていく、当時若者が抱えた虚しさと歌詞が符合する。森田童子は1951年生まれなので、1968年から 1970年の学生運動昂揚期はまさに「高校生」だった。挫折し肩を落とす、少し年上の若者たちをどう見ていたのだろう。

そしてドラマでこの曲が再び使われた1993年は、バブルが崩壊し、大人への信用が無残に崩れてき出した頃。どんな思いでテレビから流れる自分の歌声を聴いたのだろうか。

観る側に委ねられた衝撃の最終回

「高校教師」といえば、衝撃の最終回。電車のなかで、眠るようにして座っている二人からの、繭の右手のアップで、ぶらん…… と力なく下がるシーンは伝説だ。

当時、脚本の野島伸司は、

「見る人の判断にゆだねたい。死んだか生きているかは、その人の想いに任せます。ただひとつ言えることは、ラストシーン(列車のシートで二人が寄り添う)はハッピーエンドであったということ。二人の生死の決定はもはや作家の圏外で、視聴者が決めればいいと思っている」

―― とコメントを出した。

しかし私はこれを見て「いや作家が書いた世界なんだから2人の生死の決定もじゅうぶん作家の圏内だろう。そちらでハッキリ決めてほしい!」と思った。今でも思っている。

とはいえ、こちらの想いに任されてしまったのだから仕方がない。最終回のタイトルが「永遠の眠りの中で」だったので、私は、二人は永遠の眠りについたと結論付けた。

それよりなにより、このシーンで印象的だったのは、二人の姿勢。背筋を伸ばしたまま、コテンと首だけ傾けて眠る繭(桜井幸子)と、背中を丸め、繭に甘えすがるようにして眠る羽村(真田広之)は、子どもと大人が逆転したかのようで衝撃だった。

「あたしが全部守ってあげるよ、守ってあげる!」

という有名な序盤の繭のセリフを回収したようでとても美しいが、見方によっては、指に巻いた赤い糸、ハートマークとネコのイラストというあまりにも幼い愛の表現、そして少女にすがり眠る大人の教師という、取り返しのつかないほど無残な「失敗」の図でもある。しかし、それが不思議なほど純愛の濃度を高めていた。

少女から大人になる途中の、とてもとても短い期間に発する母性は、こもれ陽のように、やわらかく繊細に、誰かを温かく包み込む。そして、いつの間にか大人になり、その思い出は、どこか雑踏に紛れて消える。

そんな余韻を残す凄まじいドラマと曲だった。

カタリベ: 田中稲

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