17年「生きた証し」 茨城・大洗でミニカー展示 両親、ドナー増加願う

石島莉玖さんが残したミニカーをレンタルショーケースに並べる両親。傍らには遺影=大洗町港中央

茨城県大洗町内のレンタルショーケースに色とりどりのミニカーが並ぶ。集めたのは同県筑西市の石島莉玖(りく)さん。中学3年で病を発症し、骨髄移植を受けたが、17歳の若さで亡くなった。両親が莉玖さんとの思い出の場所を訪ね歩くうち、ショーケースに出合った。「息子が生きた証しを見てほしい」。展示を通じてドナー(提供者)登録の普及を願う。

莉玖さんは高性能でデザイン性に優れたスーパーカーやスポーツカーが大好きで、多くのミニカーを収集した。車が集まるイベントにも出かけ、ユーチューブに44本の動画を投稿。「ランボルギーニミウラ」をうれしそうに解説した。

2020年夏、疲労感とともに、舌にかさぶたができると訴える。病院で急性リンパ性白血病と診断された。かつて難病とされたが、医療の発達でいまは「治る病気」といわれる。両親には「治せばいいんでしょ」と淡々と話したという。

再発する可能性もあるとして、骨髄移植を受けることを決めた。しばらくして最適のドナーが見つかったが、移植はかなわなかった。21年春、別のドナーから移植を受けた。

中学の卒業証書は病院で受け取った。夏に退院、高校に通うと、車好きの友人ができ、「学校って楽しいね」と笑顔で話した。

病状は再び悪化する。22年1月に再入院。病気の影響からか左目を失明した。「片目でも運転免許は取れるから」。明るく話したが、友人には「つらい」と漏らしていた。

秋に余命数日と家族に告げられ、2カ月後の昨年末、亡くなった。まぶたと唇をかすかに動かし、最後まで何かを伝えようとしていたという。

何を言いたかったのだろう。両親は、かつて一緒に出かけた場所に自然と足が向く。一緒に釣りを楽しんだ大洗町で、個人の収集物を陳列できる「ショウケース大洗」を訪れた。

館長の西村弓子さんが莉玖さんを覚えていた。大洗町を舞台にしたアニメ「ガールズ&パンツァー」(ガルパン)を「好きなんだ」とはにかみ、アニメのフィギュアや模型が並ぶショーケースを熱心に眺める姿が印象的だったという。

ミニカーは70台近くあった。両親は莉玖さんの「生きた証し」を伝えたいと、7月から半年間、展示スペースを借りることにした。

莉玖さんが自宅で並べる時は、車の間隔をミリ単位で測定。中でも「トヨタ86(ハチロク)」の配置にはどこまでもこだわった。

父親はショーケースに置きながら「息子から並べ方が甘いって怒られるかも」と苦笑した後、「青いハチロクを運転させてやりたかった」と声を震わせた。

ショーケースの脇に、ドナー登録を呼びかけるポスターを貼った。

全国のドナー登録者は54万人を超える。患者の9割でドナーは見つかるが、最適合者からの移植がかなわないケースも少なくない。

両親は「登録する人が増えれば、適合する確率も上がるはず」「息子や私たちと同じ思いをする家族が減ってほしい」と訴える。

■初回適合者、辞退5割

骨髄などのドナー登録者は全国で約54万7000人に上る。非血縁者での適合率は数百~数万分の1と非常に低いものの、患者の9割で1人以上のドナーが見つかる。ただ統計では、最初の適合者のうち約5割が辞退している。

日本骨髄バンクによると、辞退の理由は「都合がつかない」「家族の同意を得られなかった」など。必要となる通院や入院の負担感など、健康上以外の理由が6割を超える。

県薬務課によると、県内の全自治体で、ドナーの通院・入院中に1日2万円(最大7日)を助成する制度を導入し、2015~22年度に計70件の利用があった。県内で通院期間の休暇制度を導入しているのは、5企業・団体にとどまる。

憧れのスポーツカーに乗る石島莉玖さん

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