「やりにくさを感じていた」チームメイト対決。“力負け”の野尻と“第8戦が大きな敗因”となったローソン

 10月29日に鈴鹿サーキットで行われた2023全日本スーパーフォーミュラ選手権の第9戦『第22回JAF鈴鹿グランプリ』。三つ巴のタイトル争いを制したのは宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)となり、3連覇達成を目指す野尻智紀と、F1へステップアップに向けシリーズチャンピオン獲得を必達目標に掲げていたリアム・ローソン、ふたりのTEAM MUGEN勢にとっては、悔しい最終戦となった。

■スタート直後の“微妙な位置関係”

 予選を3番手で終えたことで、自力でのタイトル獲得の可能性がなくなった野尻。決勝では後半までピットを引っ張る作戦を選ぶも、全体的にペースが伸び悩み、4位でフィニッシュ。3年連続チャンピオンの偉業は達成できなかった。

「予選で前にいけなかったというところで、流れを作れなかったなという印象です」と野尻はレース後に話した。

「宮田選手に対して僕が前に出ていれば、また総合的な結果は違っていたのかなということを考えると、本当に小さなところでシリーズの結果が変わるという状況だったと思います。そういう小さなところでの積み重ねができなかったなという印象。とはいえ、走っている時は全力を出したと思いますが、凄い悔しさはあります」

 野尻が戴冠した過去2年とは異なり、今年はチームメイトがチャンピオンを争うライバルとなった。第8戦の予選Q2でも位置取りで交錯した他、第9戦のスタートでもラインを変えて牽制し合う場面が見られた。

「チームメイト同士でタイトルを争うということは、必然的にどうしても意識してしまうところがあると思うので、後ろにいると大変なところもあるし、駆け引きについては非常に難しいなというか、やりにくさを感じていました」と野尻。

 ただ、周囲のなかで飛び抜けて良いスタートではなかったこともあり、1コーナーまでのポジションアップは叶わなかった。

「スタート自体はすごく良くて、前の2台よりは良いかなという感じでした。僕としては良いスタートではあったのですけど、周りもそれなりに良かったです。そんなに抜きに出たようなスタートの良さではなかったです。ラインが交錯するような中途半端な感じになってしまって、減速せざるを得なかったというところですね」

「もう少し右か左から自分でスペースを見つけられたと思うんですけど、すごく微妙な位置関係になってしまったことで、宮田選手にも来られてしまいました。自分の位置どりも悪かったのかもしれません」

 4番手から戦略次第では逆転も可能だった野尻。しかし、ペースが上がらず、運を味方につけるしかない戦略を取らざるを得なくなってしまった。

「乗っていて『もう少し良くできたのかな』という印象はあったんですけど……。昨日からやったことが良くなったのかまだ分かりませんが、まだ少しポテンシャルが落ちてしまったのかなという気持ちがしなくもないです」

「(前に)付いていくなかで運が向くようなレースだったので、運が向いた時にしっかりと自分のものにできるようにプッシュはし続けていたんですけど、なかなかそういうふうにならなかったです。今日に関しては本当に力負けというような感想です」

 野尻は冷静にレースの状況や心境を語りつつも、3連覇を達成できなかったという事実を受け入れ難そうな表情をしていたのが、印象的だった。

■ローソンがパルクフェルメで考えていたこと

 この最終第9戦で、スーパーフォーミュラ初ポールポジションを獲得したローソン。スタートでは加速が鈍り、背後にいた野尻と牽制しあうこととなった。その結果、太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)の先行を許すことに。

「今週末はスタートがイマイチで、今回もうまくいかなかった」とローソン。3番手を走っていた宮田が12周目にピットインしたこともあり、翌13周目にローソンもタイヤ交換を敢行。太田に対してアンダーカットを狙いにいったが、逆転は叶わなかった。

「今シーズンのアウトラップは順調にいっていたけど、今日に関してはダメだった。アンダーカットでレースのリーダー(太田)を逆転しようとしていったけど、宮田に対しては守ることができたが、トップを追い抜くことができなかった」と悔しさを滲ませた。

 それでも、逆転でのタイトル獲得を諦めずに最後までプッシュ。「最後の10周は相手にプレッシャーをかけて、スプリントのバトルになっていた」とローソン。最後は0.9秒差まで太田に追いついたが、追い抜くまでには至らず、2位でチェッカーを受けた。

 パルクフェルメに戻ってきたローソンは、マシンを降りると、その場に立ち尽くしていた。やはり、チャンピオンを獲れなかったという悔しさが、込み上げてきているようだった。

「今シーズンのことを振り返っていろいろなことを考えていた」とローソン。

「ベストは尽くしたけど、たとえば昨日の第8戦が今シーズンのチャンピオンシップを獲得できなかった大きな要因になったと思う。僕たちのクルマは、予選でもレースでもスピードがある素晴らしいクルマだったので、チャンスはあった。だからこそ、昨日のことを振り返って、悔しい気持ちも湧いてきた」と、いつになくレース後は笑顔が少なかった。

チームタイトルの表彰を受ける野尻とローソン、田中洋克TEAM MUGEN監督

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