【コラム】超大型台風接近でマカオのカジノが一晩にわたり全閉鎖 理由と影響を考察(WEB版)/勝部悠人

マカオのカジノを含むツーリズム業界において、9月は夏休みと国慶節大型連休の狭間にあたり、伝統的な閑散期とされている。

このほどマカオ当局が今年(2023年)9月のカジノ売上が149.37億パタカ(約2760億円)だったとする最新データを公表。対前月では13.2%減に。9月のカジノ売上が対前月でマイナスとなるのは正常なのだが、アフターコロナでインバウンド旅客の回復が進む中、同じく閑散期にあたる6月をわずかに下回る結果に。その要因の一つとして、超大型の台風(9号/国際名「サオラー」)の接近に伴い、9月1日夜から全カジノ施設が一晩(約9時間)にわたって閉鎖となったことを含め、悪天候によるマイナス影響が指摘されている。

かつては「雨が降ろうが、嵐が吹こうが」と形容されるように、天候に左右されず年中無休の24時間営業体制を頑なに維持してきたマカオのカジノ施設だが、実は近年、来場客と従業員の安全確保を目的として、マカオ政府とカジノ運営会社の協議により、異例の全閉鎖措置が講じられるケースがしばしば出現している。

きっかけとなったのは、2017年8月にマカオを直撃した超大型の台風(13号/「ハト」)だ。50年に一度の規模とされる甚大な人的、物的被害が発生する中、カジノ施設は営業を維持したものの、一部の施設が浸水や停電の影響を受け、大きな混乱が生じた。以降、防災への対策と意識が大きく変化することとなった。

マカオのカジノ全閉鎖措置が史上初めて講じられたのは2018年9月のこと。超大型の台風(22号/「マンクット」)の襲来を受けて、営業再開までに約33時間を要した。その後、新型コロナウイルス感染症の防疫措置の一環として、2020年2月に15日間と2022年7月にも12日間に及ぶ長期の閉鎖を余儀なくされたことは記憶に新しい。カジノ全閉鎖措置は今年9月のケースで4回目となった。

マカオのカジノ運営事業者は、基本的に独自の判断でカジノ施設を閉鎖することはできない。必ず政府による認可を得る必要がある。マカオ政府にとって、カジノ税収は歳入の大きな柱となっており、カジノ売上をベースに算出される。カジノ施設の閉鎖は、財政面でも大きな痛みを伴う判断なのだ。今年9月の1日平均カジノ売上は約4.98億パタカ(約92億円)。9時間の閉鎖となれば、単純計算で約1.87億パタカ(約35億円)が吹き飛ぶことになる。前回の台風時は約33時間、コロナ禍では長期にわたる閉鎖となったため、影響はより深刻だったことがわかる。

香港・マカオには、日本の気象警報にあたる「台風シグナル」というものが存在し、低→高の順で1、3、8、9、10の段階が設定されている。カジノ施設の全閉鎖はシグナル9以上の発令が目安となるが、シグナル8以上の発令で交通機関が運休になるため、インバウンド旅客の動向にも影響が生じる。9月頭の台風9号襲来時、書き入れ時の週末と重なった。カジノ施設自体は一晩で営業再開となったものの、シグナル8以上が長時間にわたって発令され、新たな客足が途絶えるかたちとなり、大きな機会損失につながったとみられる。

マカオは地理的に台風の影響を受けやすい位置にあり、例年6~9月頃が台風シーズンとなる。台風がマカオを直撃することはそれほど多くないが、シグナル発令に至るものは5~8個程度。上述の通り、シグナル8が発令されるとインバウンド旅客の動向に影響が生じるため、カジノ全閉鎖に至らずとも、台風がマカオのツーリズム市場に与える影響は無視できない。

実現に向けて本格的に動き出した日本版IRについても、台風のみならず、ゲリラ豪雨など極端な天候の変化が増える中、マカオの例は参考になるはずだ。大阪のIR候補地は臨海埋立地に位置することから、台風の影響を受けやすいと想像できる。近年、日本では鉄道会社が計画運休を実施するようになったが、これと同様、事前に悪天候が予想される際にIRとしてどのような対応をするかが気がかりだ。大阪のIRはマカオで事業経験を有するMGMとのことで、知見を活かした対応が期待される。

なお、マカオの今年1~9月累計のカジノ売上は1289.47億パタカ(約2.38兆円)で、コロナ前2019年同時期の約58.5%に相当するが、年初からインバウンド旅客数が順調に戻る中、カジノ売上の回復率も上昇傾向を維持している。直近の9月単月では67.7%。すでに今年のカジノ売上は4月終了時点で前年通期の実績を上回っており、政府が今年度財政予算で設定した年間カジノ売上の1300億パタカ(約2.4兆億円)の達成も目前。台風シーズンもようやく終わりを迎え、第4四半期にかけてカジノ売上の回復が進むものと予想されている。

超大型台風襲来に伴う台風警報シグナル発令で無人となったマカオ市街地の様子=2023年9月筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

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