来年のヒット予想

 戦後の高度成長期が始まった1955年、こんなテレビの広告コピーがあったという。〈一生に一度のお買い物です…十二分にご吟味下さい〉。14インチの白黒テレビが12万5千円で、サラリーマンの初任給をはるかに上回った▲技術革命で生み出された新製品には「高根の花」も多かったらしい。それでも、人々の暮らしを夢で彩ったのだろう▲それから半世紀がたったころ、〈モノより思い出〉という乗用車の広告コピーが注目される。物欲を満たすよりも心に残る何かの方が大切-という意味だろうか▲そうした向きは、ますます強まっているらしい。博報堂生活総合研究所は先ごろ、千人に聞いた「2024年ヒット予想」の結果を発表した。3位は「夏祭り/盆踊り/花火大会」、2位は「国内旅行」だった▲コロナ禍で控えてきた体験を改めて心に刻みたい。そんな思いの表れだろう。気軽に祭りや旅行を楽しめる意味を皆がかみしめる…。今よりも少し穏やかで、優しい社会になるといい▲1位は「物」でも「体験」でもなく「QRコード決済」。模様のようなコードをスマートフォンで読み取り、決済することだが、できる人には便利でも、できない人には無用の長物だろう。ヒットの陰で、分からない人は放っておかれる。そんな社会は優しいとは言い難い。(徹)

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