コンビニ「値引き販売」は“ごみ削減”に貢献したのか? 「食品ロス削減推進法」施行5年目の“真実”

弁当などの値引き販売は “コンビニ経営”に対してネガティブな側面もあるが…(syogo / PIXTA)

2019年10月に施行された「食品ロス削減推進法(食品ロスの削減の推進に関する法律)」が5年目を迎え、かつて「食品ロス」の代名詞的存在だったコンビニでも改革が進んでいる。

その一つが「値引き販売」の実施だ――。

コンビニの値引き販売をめぐっては、本来販売期限の迫った商品等は加盟店の判断で値引きできるとされていたが、実態はコンビニ本部が事前申請などの手続きを課し、加盟店による値引き販売を煩雑にしていた。

そのため、公正取引委員会はコンビニ本部が加盟店の「自由な値引き」を妨げているとして、2020年に独占禁止法違反の可能性を指摘。コンビニ各社に改善を要請した。

各社は対策を講じ、2021年の時点でコンビニ大手3社の国内店舗約3万店(当時の3社合計店舗数の約6割)で値引き販売が実施されるようになった。

公取からの指摘を受けて3年、業界は「値引き販売」によって「食品ロス」をどれだけ減らすことができたのだろうか。

コンビニ各社の「値引き」導入率

弁護士JPがコンビニ大手3社へ行った取材によれば、各社2023年最新の「値引き販売」導入率は以下の通りだ。

・セブン―イレブン・ジャパン(以下、セブン―イレブン)
全国2万1431店舗(2023年9月末現在)の内、約2割の店舗が値引き販売「エシカルプロジェクト」を実施。

・ローソン(※ナチュラルローソン、ローソンストア100含む)
全国1万4612店舗(2023年9月末現在)の内、約9割の店舗で値引き販売を実施。

・ファミリーマート
全国1万6519店舗(2023年9月末現在)の内、約9割の店舗で値引き販売「ファミマのエコ割」を実施。

値引き販売導入のメリットについて各社は、「購入のきっかけを作ることができ、食品ロスの削減になります」(セブン―イレブン)、「食品ロス削減や売り上げ・利益の増加につながります」(ローソン)、「消費期限の迫った商品をお客さまに手に取っていただく機会が増え、食品ロス削減につながっています」(ファミリーマート)とそれぞれ回答した。

値引き販売は「食品ロス」の改善につながっているか

消費者の財布にも環境にも優しければ言うことはないが、実際のところ「値引き販売」によってコンビニの「食品ロス」はどれほど削減されたのだろうか。

セブン―イレブンを運営するセブン&アイ・ホールディングスの広報担当者は「ひとつの取り組みに特化した削減率の算出は難しい」と数字については非開示としたが、2021年の日本経済新聞報道によれば、毎月20~30万円かかっていた同社の廃棄費用は、値引き販売導入後10万円を下回った店舗もあったという。

ローソンでは「食品リサイクル実施状況」として、1店舗当たりの食品ロス削減率をホームページ上で公表している。それによれば、2022年度の1店舗当たりの食品ロス削減率(2018年対比)は23.1%だった。

ローソンホームページ「ESGデータ集」より(マーカー部は編集部による加工)

ファミリーマートの広報担当者は「店舗値下げ販売における廃棄量の削減率(2018年金額比)は、2割程度となっています」と回答した。

2社で東京タワー5基分のごみ削減

数値を公開していないセブン―イレブンを除き、ローソンもファミリーマートも現時点で値引き販売による食品ロス削減率は2割ほどとなっている。

各社の集計方法の違いや店舗数の増減、新型コロナウイルス感染症などの社会的な要因もあり単純計算は難しいが、ローソンが公表している「1店舗1日当たりの食品廃棄物量」(2022年度)およびファミリーマートが公表している「年間食品廃棄物量」(2022年度)を元に計算してみると、2022年度は2社合計で、年間約2万トンの食品ロスが削減されたことになる(2018年度比)。ちなみに2万トンとは東京タワー約5基分の重さに相当する。

この数字は2022年度の事業系ごみ排出量が2万1470トンだった愛知県春日井市に匹敵し、2社の「値引き販売」の取り組みによって、自治体ひとつ分の事業系ごみが削減されたとも言うことができそうだ。

ただし値引き販売には、コンビニ経営に対してネガティブな側面もあることは忘れてはならない。各社広報担当者は値引き販売のデメリットについて、オペレーション課題や心理的な問題など、加盟店の負担・不安もあると以下のように回答を寄せた。

「加盟店からの声として、適正な利益確保のための値引き価格決定の難しさ、『定価での購入』が減る事への懸念、作業面の負荷(値引きシールを貼る、レジ操作)および処理のミスが生じる可能性についても不安視する見方があると聞いております」(セブン-イレブン)

「値引きに関しては、店舗ごとの判断で値引き時間や値引き額、対象商品などを決定しており、経験に頼る部分が大きく、手間がかかる側面もありました」(ローソン)

「店舗において消費期限の迫った商品に割引シールを貼付する作業が発生する」(ファミリーマート)

その上で、ローソンの広報担当者は、こうした加盟店の「値引き」負担軽減のため、人工知能(AI)による値引き販売の実証実験を東北地区・都内店舗で行っているとし、2024年春から順次全国の店舗で導入される予定だと説明した。

1人当たり42キロの食品を捨てている

これまで述べてきたようなコンビニ各社など事業者の対策が功を奏しているのか、「食品ロス」量は全体で見ても削減傾向にある。

農林水産省「食品ロス量の推移(平成24~令和3年度)」より

しかし、農林水産省の「食品ロス量の推移(平成24年~令和3年度)」(上記図参照)によれば、いまだ国民1人当たり年間約42キロの食品を捨てている状況にあることが見て取れる。

将来の食糧危機、地球温暖化、経済的損失など多くの社会問題に関係すると言われる「食品ロス」を減らすためにひとりひとりの意識が問われている。

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