「手相記者」がお年寄り占う 10人の手のひら語る力強い半生 笑顔とぬくもり交わし合い

手のひらを見せる(左から)小川さん、安平さん、早田さん。生命力の強さがうかがえる=諫早市、ケアハウス椿寿荘

 私は趣味が高じ、手相占いの資格を持っている。占いは統計学とまでは呼べないが、データの長い蓄積があり、たびたび「当たる」という現象に出くわす。長崎県の高齢化率(65歳以上の割合)は33.61%。100歳以上も増加傾向にある。激動の昭和を生き抜き、本県の礎を築いてきた諸先輩の手から何か学べることはあるか。

◆次々当てる?
 敬老の日を前にした9月14日、諫早市栄田町のケアハウス椿寿荘を大石賢吾知事が訪れ、今年100歳になる入所者2人に祝い状を贈った。同席した84~94歳の施設利用者に私は声をかけた。
 「しわくちゃでごめんね」と優しく手を差し出してくれた川口トヨさん(88)は、指先や爪が少し横に広がった「個性型」(へら型)=図(1)=で器用な人に多い形。「勉強はできなかったが、着物を縫うのは得意だった」そうだ。生命線に鎖状の線=図(2)=があり、体調の優れない時期が見受けられる。聞くと、30代で目まいや吐き気が続く「メニエール病」になり2度入院したが、今は元気だという。
 NTTの事務員だった安平和枝さん(91)は、人さし指の付け根の下が少し膨らみ=図(3)=、人一倍向上心にあふれた手相をしている。「昔から何にでも首を突っ込むタイプ」。今は施設でいろんな人と話して友達がたくさんいる。金運を示す線が結婚線とつながっている=図(4)=ので聞いてみると、「結婚してからはお金には困らなかった」とにっこり。夫には先立たれたが、幸せだったのだろう。
 県庁で働きながら3人の子どもを育てた早田嘉和さん(91)は、生命線のそばから中指に向かう運命線=図(5)=がくっきりと伸びている。親族を大切にする人に多い相だ。それを裏付けるように、曽祖父の代から祭る仏壇が家にあり、守られて生きている気がする、と話す。
 田古里良子さん(94)は「義理の親に育てられた線が出てない?」と手のひらを見せた。だが早田さんと同じ線は見当たらず、乱れてもいなかったので、私が戸惑っていると「でも兄がよく面倒を見てくれて、不幸と思ったことはない」。胸を張ってくれたので、ほっとした。

◆共通点は生命力
 その人の過去や未来を手相だけで判断することはできない。細かい線は3カ月ほどで変化もする。しかし、一定の人生が刻まれている気はする。今回10人に見せてもらい、共通しているのは「生命力の強さ」だ。生命線は長さを気にする人が多いが、張りで見るのが基本。中指と薬指の間から手首の真ん中に線を降ろし、それより生命線が張り出して=図(6)=いれば力強いといえる。
 田中秀明さん(84)は横線が多く=図(7)=複雑だが、生命線から中指に延びる運命線=図(8)=が太く、長年の努力で頭角を出した人の相をしている。
 20歳頃に結核性の関節炎を患い、当時は病院に行けず、約10年間氷枕で患部を冷やしてしのいだ。今は左下半身がほとんど動かず、「今の医療技術なら、こうはならなかった」と悔しがる。時計・カメラ販売会社などを経て、べっ甲販売会社を起業し約110人の従業員を養った。「苦労の連続だったが振り返ると楽しいこともあった」
 「今日は話せて良かった」と田中さんは私と握手し、玄関まで見送りに来てくれた。皆さんも「ありがとう」「手を触ってもらって元気になった」と喜んでくれた。占いは人を導き、希望を与えるものだが、記者が何かを受け取った気分になれたのは、手にぬくもりが残ったからだろう。

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