PGAツアーとLIV統合に暗雲か カネと世論と政治絡む国際ビジネス象徴/小林至博士のゴルフ余聞

LIVの今季最終戦はブライソン・デシャンボーらが団体戦を制した(Doug DeFelice/LIV Golf)

PGAツアーとLIVの統合の行方に、怪しい雲が立ち込めてきた。今年6月、PGAツアーとDPワールド(欧州)ツアーが、LIVゴルフを支えるサウジアラビアの政府系ファンドPIFと統合することが発表された。これに伴い、両陣営は訴訟を取り下げ、2年にわたる抗争に終止符を打ち、12月31日までに統合の詳細を発表することとしていた。

しかし、その後の展開は思わしくない。PGAツアーの選手からは不満の声が上がり、米議会もアメリカのスポーツ団体がサウジの傘下に入ることに強い懸念を示している。

この混沌とした状況を、フィル・ミケルソンの非公認伝記の作者であるゴルフ記者アラン・シップナック氏が自身のポッドキャストで最新著「LIV and Let Die」(米国で10月17日発刊)をフォローアップするカタチで詳細に解説している。

それによれば、新ツアーの運営には約3000億円の追加投資が必要で、PGAツアー側はPIF以外からも投資を募ろうとしているという。これに対しPIFは反対の立場を取っているが、6月の基本合意文書にはPIF以外の出資を認めないとは書かれていないのだ、と。

このあたりは、契約社会の米国でもまれているPGAツアーが一枚、上手だったということか。米国は140万人(日本の35倍!)の弁護士がしのぎを削る訴訟社会で、子どもが最初に憶えるフレーズが「I sue you(訴えてやる)」だというブラックジョークがあるほどだ。

また、米国人のサウジへのアレルギーは根強い。専制君主の政治体制、人権問題、そして王族が「9・11テロ」に関与した噂などが絡み合い、LIVゴルフに対しても、当初から批判の声が多かった。サウジのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子がイスラエルのガザ侵攻に対してパレスチナを支持したことも、米世論のサウジへの拒否感を強める要因となっている。

シップナック氏によれば、合意は白紙に戻される可能性もあるという。そうなるとどうなるか。サルマーン皇太子は先月、アメリカの大手メディアFOXの単独インタビューにこう答えている。

「スポーツへの投資は国家戦略で、観光業の発展や国民の健康と幸福の向上のために続ける。スポーツ・ウォッシングと言われようと気にしない」

PIFの資産は90兆円を超える。これは日本の国家予算に匹敵する額だ。傘下のLIVゴルフは、PGAツアーが空っぽになるまで選手の引き抜きを続けることが可能である。それが分かっているから、PGAツアーは6月に手打ちをしたが、内心は一緒にやりたくはない。

カネと世論と政治が複雑に絡み合う国際ビジネスの最前線を象徴する事例となっている本件、今後の展開から目が離せない。(小林至・桜美林大学教授)

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