【コラム細田悦弘の新スクール】 第2回 これまでとこれからの「企業と社会との関わり」

企業が存続発展するためには、変化への対応が不可欠といわれます。今や経営者やビジネスパーソンの共通認識ともいえる「変化への対応」。これを具体的に実現するために、サステナビリティの『絶対音感』で捉えてみましょう。

企業の存在意義は、その時々の『社会』が決める

「大きいことは、いいことだ♪」。1960年代後半に森永製菓が発売したエールチョコレートのCMソングの歌詞の一節です。いま50代半ばの経営層が生まれた頃です。いざなぎ景気(昭和40~45年)のもと、時代は高度経済成長の真っただ中で、「重厚長大 [^undefined]」への経済発展に突き進んでいくパワーと豊かさの象徴として見事に世相とマッチし、瞬く間に流行語になりました。大量生産・大量消費を基調とする世の中で、循環型社会とはかけ離れた『使い捨て』を容認する風潮もありました。

あれから50有余年を経て、『社会』は激しく変容し、企業の立ち位置も大きく変わりました。昔も今も、企業は『社会における存在意義』を発揮してこそ、存続発展がかないます。ただし、時代が変われば、『社会』も変化します。企業はその時々の『社会』から認めてもらえてこそ、存在意義が発揮できるのです。

これまでの半世紀の社会の変化を表にまとめてみました。

経済成長が中心で『環境・社会』は与件として捉えられていた高度成長期から、『経済と環境・社会とのバランス』を求められた80年代・90年代を経て、2000年代に至っています。現代の企業が拠って立つのは、『経済は、環境・社会の中で成り立つ』という認識です。すなわち、経済をすくすくとやっていきたければ、健全な社会や盤石な地球があってこそだと強く認識して、経営の舵取りをせよということです。

今日まで営々と発展してきた企業は、こうした時代の波を乗り超え、むしろ時代を味方につけて、現在の姿があるといえましょう。これまでもこれからも、「(社会の)変化への対応」こそが企業の存続発展の決め手となります。

「要請」と「期待」に応える

いつの時代にも、確固たる経営基盤を確保しつつ、あらゆる変化に柔軟に「対応」していくことこそが、企業経営の基本であり核心です。ではどう対応するかといえば、社会から企業に向けられる、次の2つの視点がポイントです。

◎要請…やってもらっては困る、やってもらわないと困る
◎期待…やってもらえると、うれしい

まずは、現代社会の「要請」に対応することです。要請とは、「ハードロー(hard law)」と「ソフトロー(soft law)」を意味します。前者は、社会的規範として法的拘束力のある法律・条例等のことです。これに対して後者は、法的な強制力を伴わないものの、現実の社会において何らかの拘束感をもつ規範を指します。公的なガイドライン、イニシアチブ、業界団体や企業の自主ルール、さらには世間常識や倫理観をも包含します。

ハードローを遵守するのは当然のことですが、とりわけ時代とともに変化し強化されるソフトローには要注意です。この対応を怠ると、経済的・道義的に不利をもたらす規範となります。社会(ステークホルダー)から、「今どき、そんなことをやっているのか」「今どき、そんなこともやっていないのか」という烙印を押され、規模の大小・業種業態に関わらず、企業存亡の危機を招きかねません。言ってみれば、「法廷で裁かれなくても、社会に裁かれる」ということです。社会に裁かれれば、ブランドは失墜し企業価値を毀損(きそん)します。したがって、現代社会の「要請」に対応することは、「リスク回避」のための鉄則となります。

その上で、後者の社会からの「期待」に応えることです。近年では、「事業による社会課題解決」という概念で広く定着してきています。ここに、米国経営学者であるマイケル・ポーター教授らが提唱する「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」と称されるコンセプトがあります。経済的価値を創出しながら、社会的ニーズに対応することで社会的価値も生み出すというアプローチです。

ビジネスは企業本位で独善的に行えるはずがなく、さまざまな関係者の協力と自発的な交換に基づいて成り立っています。関わる人々(ステークホルダー)は、互いのメリットのために自発的に取引をするのであって、企業から強制されて物を買ったり売ったり、役務を提供したりはしません。お客様はどこから買うか、社員はどこで働くか、サプライヤーは自社の製品やサービスをどの企業に提供するか、そして投資家は自らの資金をどの企業に投資するのかを、それぞれ多くの選択肢から自由に選べるというわけです。

企業は、こうした欠くべからざる人々(ステークホルダー)から信頼してもらって、持続的な成長が図れます。信頼されたければ、時代にふさわしくステークホルダーからの「要請や期待」に応えることです。結果として、確かな経営基盤のもと、時代にふさわしい新しい価値創出・新しい市場開発が実現できます。

次代を担う経営者が『サステナビリティの絶対音感』を身に付ける手がかりは、刻々と変化する社会からの「要請と期待」に応えることです。『要請』に対応してリスクを回避し、『期待』にビジネスで応え、新しい成長の機会(opportunity)とするということです。それがゴーイングコンサーン(Going Concern:企業の存続可能性)を担保し、持続的成長・中長期の企業価値向上を目指す経営の王道です。

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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