今どき女子が時空を超えて殺人鬼と対決! ブラムハウス製ホラコメ版”BTTF” 『ハロウィン・キラー!』

『ハロウィン・キラー!』 Prime Videoで独占配信中 ©Amazon Content Services LLC

飯塚克味のホラー道 第64回『ハロウィン・キラー!』

今年もやって来たハロウィンの季節。本来は子どもたちが仮装して、よその家を周っては「トリック・オア・トリート!」と言い、お菓子をねだるイベントのはずが、ここ日本では大人が仮装しては街を練り歩くものに様変わり。それはそれでいいのだが、やはりこの時期はハロウィンにまつわる映画でも観て、大いに気分を盛り上げてもらいたいのが、筆者のような映画ファンの本音である。そしてタイミングを合わせるように、またもやジェイソン・ブラムが小粋な一本を送り出してくれたのだ。

今月から配信が始まっている『ハロウィン・キラー!』はまさに今観るにはうってつけの作品。ハロウィンを舞台にしながら、ドキドキハラハラ、怖いところもあるけれど、ギャグ要素もふんだんに盛り込み、大笑いしながら楽しめるホラーコメディとなっている。

お話は何を隠そうタイムスリップもの。というか、堂々と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)をパロっている。町に伝わる35年前のスイート16キラーの伝説。3人の女子高生が何者かに殺され、犯人は分からずじまい。現在、その殺害現場は観光スポットになり、マニアたちが訪れるようになっていた。17歳のジェイミーは、いつかまたスイート16キラーがやってくるかもしれないと心配する母親をよそに、友人と遊ぶことばかり考えている。だが、ハロウィンの夜、ジェイミーが遊びに行っている間に、殺人鬼スイート16キラーが再び現れ、ジェイミーの母親は殺害されてしまう。悲しみに暮れるジェイミーも殺人鬼に狙われるが、その時、友人のアメリアが科学祭のために作っていたタイムマシンが動き出し、ジェイミーは35年前の1987年にタイムスリップしてしまう。そこで出会ったのは高校時代の母親。ジェイミーは殺人鬼を止め、母親を救うことができるのか?というもの。

話を聞いて、大体分かってもらえると思うが、非常に軽い、ライトなホラコメになっている。特に笑ってしまうのが、カルチャーギャップの数々。差別表現や個人情報の扱いが適当だったり、今とは価値観が異なる時代に、現代人のジェイミーが面喰らい続ける様がおかしくて仕方がない。ジェイミーが自身の状況を説明するのに「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を見てるでしょ?」とあちこちで言っては、それに対する反応も様々で、大爆笑間違いなしだ。

主演はキーナン・シプカ。顔が思い浮かばない人も多いだろうが、『MAD MEN マッドメン』(2007~2015)で主人公ドン・ドレイパーの娘役を長年務め、Netflixの『サブリナ:ダーク・アドベンチャー』(2018~2020)では主人公を演じていた。今回は超はまり役で、これを超える代表作はよほどのものでないと難しいと思えるほどだ。監督はテレビでの仕事を長年続け、キアヌ・リーヴスも出演していたNetflix映画『いつかはマイ・ベイビー』(2019)で長編デビューを果たしたナーナチカ・カーン。名前からは性別が分かりにくいが、女性監督である。抜群のギャグセンスと、ホラーシーンのバランスも良く、今後が楽しみな逸材と言えるだろう。こうした人材を発掘してくるのもブラムハウスの素晴らしいところだ。

笑って、ドキドキして、きれいに終わるホラーコメディ。以前は、2本立てでメインの大作の添え物的に上映されていたこうした作品がまだ生み続けられていることも嬉しく感じた。是非、ハロウィンイベントの中に組み込んで、楽しんでもらいたい。最後に、本作は日本語吹替版が出色の出来となっている。内容の軽さを理解した台詞と声優陣が非常に質の高い吹替を作り上げてくれている。今年のハロウィンに何かホラー映画を観るなら、絶対オススメの一本だ。


飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
『ハロウィン・キラー!』
Prime Videoで独占配信中
©Amazon Content Services LLC

© 合同会社シングルライン