レジ 「セルフ化」加速で懸念された “被害”やはり増加… ”万引き研究の第一人者”が提言する最大の予防策

精算を購入者に委ねるセルフレジ。不正や言い訳をしやすく、万引きを誘発しているという声も(maroke / PIXTA)

今やどこのスーパーや小売りでも見かけるセルフレジ。全国スーパーマーケット協会が公表している最新データ(2022年)では、セルフ精算レジの設置店舗は75.1%で年々増大している。背景には人手不足や経費削減があるが、皮肉にも万引き被害は増加の一途だ。

「精算」という、最大の関門を無人にすることで、万引きを誘発しているという指摘もある。当然対策は練られているものの、万引きを専門的に研究する香川大学准教授の大久保智生氏は、「予防の観点ではカメラなどハードによる対策は思っているよりも効果がない」と明言する。

精算を客に任せるリスクは甚大

セルフレジの設置と万引きの増減の因果関係を調べたデータこそないものの、「セルフレジの設置店舗の増加に比例して万引きが増えていることは間違いないです」と大久保氏は指摘する。

その理由として同氏は次のように解説する。「万引きする人は店内でも人目がないところを狙います。精算場所が無人になれば、『そこで万引きして』と言っているのに近いとも考えられます。さらに精算を自分でできるわけですから、いくらでもごまかしがきくんです」。

例えば、複数の商品を手に取ってひとつだけバーコードを読み込ませる。バーコードを読み込んで見せて実は指で隠したところをスキャンする。あるいは、カードの下段に高額商品を入れておいて、上段の商品だけをスキャンしてそ知らぬふりで退店する…。

「結局、精算が各自に任せられているので、万一、バレたとしても、『ちゃんとできていなかった』『忘れていました』などいくらでも言い訳が可能です。セルフレジ導入以前の通常の万引きなら、バレたときの言い訳は当然通りませんでした。しかし、セルフレジは言い訳が通りやすい。結果、万引きを誘発しているといわざるを得ません」と大久保氏は警鐘を鳴らす。

防犯カメラや顔認証システムの問題点

もちろん、各導入店舗も指をくわえて見ているわけではない。防犯カメラやモニターの設置、レジやその周辺の監視、専用のスタッフを配置したりするなどで、レジを無人にするリスクをなんとか埋めるべく、さまざまな策を講じている。

大手アパレルでは商品にタグを設置し、レジで自動精算するシステムを導入しているところもある。個々の購買者が手を動かすことがなくいため、バーコードの読み込み不正等の余地はなさそうだが、大久保氏によれば、「(タグ等は)簡単に壊せてしまうため、穴だらけですね」と不備も指摘する。

セルフレジ万引きを防止するのにソフトが重要な理由

これまでに数百の現場を回り、さまざまな対策をチェックしてきた大久保氏は、万引き対策に足りてないある重要な点について指摘する。

「予防という意味では、例えば防犯カメラも顔認証システムも残念ながら思っているよりも効果がありません。カメラは、犯人が捕まった後に強力な証拠になるのである程度の抑止力にはなっているともいえますが、カメラを随時見て対応できる人がいないかぎり、その場で万引きを防ぐのは難しい。

“万引きさせないための対策”というなら、大事なのはハードではなく、ソフト、つまり人なんです。海外も日本も、研究で最も効果があるのはソフト面の対策であることが示されています」(同前)。

では、人による万引き対策とはどんなものなのか。

具体的には、レジ周辺に店員を配置する。それも『できるだけ接客力の高い人材』が望ましいという。

「セルフレジのお客さんに積極的に声がけをし、目を合わせながらコミュニケーションをとるんです。その際に重要なのがホスピタリティ。顧客に見られている意識を植え付けることができますし、サービスとして声をかけることも重要です。また、接客力を高めるだけでなく、セルフレジ万引きの手口や挙動を教育することも重要です」と大久保氏は”人の力”を有効活用する重要性を説く。

実践の方法は大久保氏が万引きGメンらの協力を得ながら「セルフレジ不正防止マニュアル」としてまとめられ、セルフレジ導入店舗の万引き予防教育の教材として、実際に活用もされている。

データからも着実な成果が示されている。このマニュアルに沿った予防策を実践した店舗では、万引きが25%減少した例もあるという。4回に一度、「防止」していることになり、大きな成果といえるだろう。

自動化時代の健全な思考法

もっとも、セルフレジ導入の背景に人手不足があることを考えれば、人を軸に防止することは矛盾ともいえなくもない。

「きちんとマニュアル対応できる人材を育成できれば、セルフレジ導入による万引き被害増大以上の”利益”が得られます。なにより、セルフレジ万引きでは、”犯行場所”が一か所に集中します。対応できる人員を教育できれば、より効率的に予防策を実践できるわけですから、成果も大きくなります」と大久保氏はコスパ面の効能もアピールする。

高齢化による人口減少を背景に、小売り店舗は省人化・無人化も選択肢の一つとして考えざる得なくなっているのが実状。だからこそ、最小限の人力で最大限の効果をもたらすことがより強く求められる。省人化のためのセルフレジが万引きを誘発するならば、人が少なくても万引きしづらい店舗設計やシステムを考案するーー。

もはや不可避ともいえる無人化・自動化の流れは、従来のスタイルを変革するきっかけ。そう捉えるのが、徒に省人化による万引き増加に悩まされず、被害を減らすための健全な思考といえそうだ。

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