パレスチナ自治区ガザへの軍事行動を進めるイスラエルと長年、深い関係を築いてきた米国の世論に”地殻変動”の兆しが指摘されている。Z世代と呼ばれる1997~2012年生まれの若者や非白人層の間ではパレスチナへの共感が目立つ。米首都ワシントンでは、米国に住むユダヤ人たちが連邦議会で停戦を訴える抗議活動を行い、数百人が逮捕される事態も起こった。(共同通信ワシントン支局 金友久美子)
▽ワシントンの大学生、次期大統領選では「イスラエル重視のバイデン氏支持しない」
「パレスチナの子どもたちやその両親が日々殺され、住宅がじゅうたん爆撃を受けているのを見るのは本当につらい。ガザの人々は声を上げることもできず、私たちが代弁者にならなければいけないと思った」。ワシントンの名門黒人大学、ハワード大に通うレベッカ・アベラさん(20)とラマトウ・ンジョヤさん(18)は、ホワイトハウス近くで10月下旬に開かれたパレスチナ系団体による抗議デモに参加した理由をこう語った。
アベラさんはエチオピア、ンジョヤさんはカメルーンにルーツを持つアフリカ系米国人女性。中東と個人的な縁はないが「声を上げるのにパレスチナ人である必要はないと思う。アフリカの困難の中にも共通点があるし、例えば日本で何かが起こったときに私たちが日本人でなければ反対できない、ということはないはずだ」と話す。
米大統領選では、18歳以上で有権者登録をした米国民に選挙権が与えられる。2024年11月の次期大統領選で初めて一票を投じるンジョヤさんは「イスラエルを重視するバイデン大統領への失望が、大統領選の影響としてきっと現れるだろう」と指摘する。アベラさんは「バイデン氏はパレスチナの解放を望む米国内の意見をくみとれていない」と語気を強めた。
▽米国の世論調査、全体ではイスラエル支持が根強いが…
米ABCニュースによると、イスラム組織ハマスがイスラエルに攻撃した10月7日の後に実施された五つの世論調査では、イスラエルに共感するとの回答が、パレスチナに共感するとの回答よりも3~5倍多かった。米国内でのイスラエル支持が根強いことに変わりはない。バイデン氏もいち早く「テロは決して正当化できない」と、イスラエル支持を打ち出した。
歴代の米政権は中東での戦略的利益からイスラエルとの強固な関係を構築してきた。巨額の軍事支援を長年続け、国連安全保障理事会ではイスラエルの武力行使やパレスチナへの入植地建設を非難する決議案などにたびたび拒否権を行使してきた。
国内政治の観点からも、イスラエル支持が欠かせない構図がある。米調査機関ピュー・リサーチ・センターによるとユダヤ系米国人の人口は子どもを含めて推計約750万人(2020年)。その7割超が民主党を支持する。資産家が多く、ロビイスト団体は強力な資金力を誇る。他方、米国の人口の4分の1を占めるとされるキリスト教右派・福音派は信仰上の理由からイスラエルを強く支援。こちらは共和党の大票田で、トランプ前大統領の有力支持基盤としても知られる。
▽若者、非白人、民主党支持者はパレスチナに共感する傾向
一方で、世論調査の全体数よりも、年齢層や人種などによる傾向に注目すべきとの指摘も多い。
米キニピアック大学の世論調査では、全体で61%がイスラエルに共感すると回答(パレスチナに共感するとの回答は13%)したが、共和党支持者では86%(パレスチナへの共感は3%)、民主党は48%(同22%)と、党派による差が出た。
年齢別でみると、65歳以上はイスラエルに72%が共感する(パレスチナへの共感は9%)と答えたのに対し、18~34歳では41%(同26%)と違いが浮き彫りになった。Z世代(1997~2012年生まれ)とその上のミレニアル世代(1981~1996年生まれ)の多くがこの層に重なる。
白人は69%がイスラエルに共感(パレスチナに共感は10%)すると回答したが、黒人はイスラエルへの共感が36%(同23%)、ヒスパニック系は52%(21%)だった。将来的に現在の若い世代が有権者の中核を占め、白人層の人口比率が過半数を割っていけばイスラエル支持の米世論が地殻変動を起こすと言われるゆえんだ。
▽SNS普及で情報入手、人権に強い関心
ミレニアル世代は2016年の大統領選に向けた民主党候補指名争いで、格差是正を訴える左派サンダース上院議員の躍進を後押しし注目された。プログレッシブ(進歩派)と呼ばれる急進左派グループが米国で台頭し、2020年大統領選ではサンダース氏の支持を受けたバイデン氏が、トランプ氏との接戦を制した要因となった。その下のZ世代はさらに人種的、民族的に多様で進歩的とされる。交流サイト(SNS)など情報発信ツールの使い方もたくみだ。
象徴的なのが今回、X(旧ツイッター)などを通じて停戦要求行動に多くの若者を動員している米ユダヤ系左派団体「JEWISH VOICE FOR PEACE(JVP、平和のためのユダヤ人の声)」らの活動だ。もともとは1996年に米西部にあるカリフォルニア大学バークリー校の学生3人がイスラエルとパレスチナの平和グループとして設立した団体だ。イスラエルによるガザへの軍事行動を受けて10月18日にはワシントンの米連邦議会周辺で大規模集会を開催。禁止されている議会建物内での座り込み抗議活動も展開し、数百人が逮捕された。10月27日にもニューヨーク・マンハッタンにある主要駅のグランドセントラル駅を占拠。大勢が集まり駅構内は一時封鎖された。
「アメリカに住むユダヤ人の多くの家庭では、私たちの安全のためにイスラエルは不可欠だと言われて育てられてきた。でも、SNSが普及してガザなどの情報が直接入ってくるようになり、疑問を持つ人が増えた」。JVPの活動に参加したワシントン在住の20代大学生は「若いアメリカ人は人権や正義に強い関心がある。政治的変化を起こす力も持っていると思う」と話した。