”庭のイスを尿で汚される””唾を吐きかけられる” いやがらせの数々 「理想郷」特別映像

2023年11月3日より劇場公開される、2022年に開催された第35回東京国際映画祭で、最優秀作品賞にあたる東京グランプリ(東京都知事賞)のほか、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞の主要3部門を獲得したスペイン・フランス合作映画「理想郷」から、都会から移住してきた夫婦への村人による数々のいやがらせシーンを集めた特別映像が公開された。

特別映像では、映画本編の中から、スペインの山岳地帯ガリシア地方の小さな村に移住したフランス人夫婦の、おもにアントワーヌを襲う村の隣人兄弟によるいやがらせの数々をピックアップしている。村に住む男たちが集うバーで彼らを避けるアントワーヌがシャンからいやみの言葉をかけられる”移住先で洗礼を受ける”、車が故障し立往生していたアントワーヌにロレンソが車に乗るようと声をかけられるが、乗る前に何度も車を発車される”からかわれる”、庭に置いてあるイスに尿をかけられてしまう”庭のイスを汚される”、アントワーヌと妻のオルガが手塩にかけて育ててきた有機トマトに何かが混入され壊滅的なダメージを受ける”作物を台無しにされる”、そして車で逃げようとするアントワーヌにシャンから鬼のような形相でつかみかかられる”唾を吐きかけられる”という5つの衝撃シーンを紹介している。

この映像では嫌がらせの数々に見舞われるアントワーヌだが、劇中では相手を明らかに見くだすひとり言をつぶやいたり、移住者のエゴを押しつけようとしたり、カメラで隠し撮りをしたりと、眉をひそめずにはおれない言動が見られる。そして嫌がらせをするこの隣人兄弟にも事情はあり、この村で生きていくしかないという悲哀や移住者によって故郷が脅かされる恐怖なども見え隠れし、映画は後者だけをことさら悪者として描くことはしない。

脚本も務めたロドリゴ・ソロゴイェン監督は、「ヨーロッパの都会人と、スペインの田舎の人間というと、後者がより無知で迷信深く、都会人の方が優れていると考える人が多いかもしれません。でも、彼らの対立を浮き彫りにしていくためには、前者と後者では与えられる機会が不公平なほどに違うということや、人の視野が広がるためには、文化が不可欠であるということも表現したかったのです」と、対立を描き出す上での狙いを語っている。

「理想郷」は、都会を離れて田舎で過ごすスローライフに夢を抱き、スペインの山岳地帯ガリシア地方の小さな村に移住したフランス人夫婦ふたりが主人公の心理スリラー。スペインで起こった実際の事件をベースに映画化された。“田舎と都会の対立”を題材に、人間の暗部に潜む独りよがりな思考、憎悪、凶暴性に迫った作品となっている。監督・脚本を務めたのは、「おもかげ」などのロドリゴ・ソロゴイェン。夫のアントワーヌを演じるのは、「ジュリアン」などのドゥニ・メノーシェ。妻オルガ役を、「私は確信する」などのマリナ・フォイスが務めている。

一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。

【コメント】

■森達也(映画監督・作家)
不穏な光と音。そして複数の視線。中盤で定石を外すストーリー。そして女性の強さ。観終えて余韻に浸り続けている。

■斎藤工(俳優・映画監督)
去年の映画祭にて偶発的に出逢った本作は
あまりにも他を逸する圧巻な悪魔的なエネルギーを客席に放ち
それが未だに内臓に残り続け一年経った今なお消化出来ずにいる

スペイン北部ガリシアの山村を舞台に
個々の正義・集団心理・同調圧力・地域貧困・地方の過疎化…
人間と言う種族の根幹的な醜悪さや執着故のある種の美しさが何重層にもなって襲って来るが
それは果たして遠くの出来事・物語なのだろうか
混沌とした現代を生きる我々が最も対峙すべき作品の一つと言い切れる

■筒井真理子(俳優)
暴力と理性、移住者と地元住民、男性と女性、さまざまな対立の軋みから生まれる憎悪。
ロドリゴ・ソロゴイェン監督のまなざしは人間の深部を掘り、底知れぬ恐ろしさを浮かび上がらせる。技巧は微塵も感じさせないのに緻密で巧みに配置された脚本と演出、卓越した演技に満ちている。俳優たちの見事な演技に触れることができて幸せな時間だった。そして、そのすべてを凌駕するかのようなラスト。生きるということをもう一度考えさせられる傑作。

■黒沢あすか(俳優)
”よそ者”と言われ、苦渋の日々を送るアントワーヌ・オルガ夫妻。
都会からの新参者へ注がれる視線は粘り気があり執拗に絡みつく。
『住めば都』という言葉もあるが、それは交流が成立してこそ意味を成すもの。
『郷に入れば郷に従え』を暗に主張してくる者との対話は万策尽きる時を迎える。
人の思考も”発酵と熟成”を繰り返し育てていかなければならない。
ひと匙の愛、誰かが彼らの頭上に振りかけてくれていたらと思わずにはいられなかった。

■岩井志麻子(作家)
私は子どもの頃から、漠然と理想郷というのを怖い場所だと思っていた。私が私でなくなりそうだから。という理由が、この映画で初めてわかった。

■小島秀夫(ゲームクリエイター)
強烈なパンチと衝撃を喰らった。痛みとも、哀しみとも体感の違う、未体験のボディ・ブローを。このエンディングは、終演後も観客を映画からは逃してはくれない。ミステリーの“理想”からは大きく外れた結末に、取り返しのつかない“理想郷”の迷宮へと、いつまでも幽閉される。

■小川紗良(文筆家・映像作家・俳優)
自然を愛する夫婦の、夢のような移住生活。ただひとつ、最悪の隣人を除いては。圧倒的に分かり合えない!善意も正義も常識も、すべてが覆る虚しさ。分断が深まる現代社会の、縮図のような映画だった。共感や感動がもてはやされる世の中で、この不穏極まりない作品を作りきった人々の野心にグッと来た。

【作品情報】
理想郷
2023年11月3日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネマート新宿ほか全国順次公開
配給:アンプラグド
© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.

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