前田敦子と高良健吾が見せた絶大なる信頼感。小津安二郎「非常線の女」リメーク版が東京国際映画祭で上映

WOWOWでは11月12日から、小津安二郎生誕120年記念作として「連続ドラマW OZU~小津安二郎が描いた物語~」(日曜午後10:00)を全6話で放送・配信。第3話「非常線の女」が第36回東京国際映画祭で上映され、主演を務める前田敦子と共演の高良健吾、監督の松本優作氏が舞台あいさつで登壇した。

「小津調」と称される独特かつ唯一無二の映像世界で、没後60年となる今もなお国内外を問わず高い評価を受け続ける映画監督・小津安二郎。生誕から120年を迎えた今年、若かりし頃に小津監督が手掛けた初期のサイレント映画群を、「連続ドラマW OZU~小津安二郎が描いた物語~」では、オムニバスドラマ形式でリメークする。

「非常線の女」は、33年に公開された同名映画。「朗かに歩め」「その夜の妻」に連なる小津監督ギャング3部作の一つで、田中絹代さんが演じた昼と夜の顔を持つ情婦が、不良なボクサーと暗黒街で生きる姿を描いた異色作だ。前田が、昼は歯科助手の仕事をする一方で、夜は恋人の拓実らと美人局(つつもたせ)などの悪事を働く謎めいた女性・時子を演じ、高良は、時子の恋人・拓実役として、挫折した元ボクサーで荒々しさと繊細さを合わせ持つ役柄に挑む。

昼と夜の顔を持つ情婦役で主演を務めた前田は、「現実世界ではなかなかない設定ではあったので、最初は自分が受けて大丈夫なのかという不安があったんですけど、台本を読ませてもらって、松本監督にお会いして、ご一緒してみたいと思いました」と振り返る。撮影に入ってからは「皆さんが、新しい『非常線の女』を真剣に作られているのがすぐに伝わってきたので、これはもう食らいついていくしかないなと思って…」と苦労をにじませつつ、「たぶん、全作品撮影期間は7日という決まりがあって、そんな濃密な中での撮影は幸福度はすごく高かったのですが、濃密であんまり覚えていないです」と言って笑った。

挫折した元ボクサー役に挑戦した高良も「とても濃密だったと感じています」と同調。「自分も松本監督とご一緒したかったですし、前田さんが主演ということもあったので、この作品に絶対出演したいと思いました」と述べ、実際に7日間ずっと撮影があったそうで、濃密すぎて記憶がないという高良だが「すごくタバコを吸ってたな、ということは覚えている」と明かした。

演じた拓実に関して聞かれると「役の性格的な部分は、台本に書いてある通り、自分もそこに忠実に向き合ったつもりではあるんですけど、ボクシング経験者ということがあったので、自分もプライベートでボクシングを3年間くらいやっていたので、やっと仕事に反映できたなと思いました」と喜び、「ボクシングシーンは短かったですけれども、すごく大事なシーンですし、皆さんにも楽しんでいただけたんじゃないかなと思います」と照れ笑いを浮かべた。

何度も共演経験のある前田と高良。あらためて互いの印象を問われると「共演者の皆さんが高良さんにどんどんほれていく姿をいつも現場で見ているんですけど、今回はまさに高良さんのカッコよさはピカイチの作品でした。それを間近で見つつ、先輩としてもちろん高良さんを尊敬しているんですけど、すごく仲良くもしていただけているので、恥ずかしい役ではあったかなと思います」(前田)、「前田さんに対して絶対な信頼感とか安心感があって、なんかふざけられるんですよね(笑)。前田さんといると、カメラが回っていない時はふざけた話ができるというか…。そのくらい心を許せる関係かと思います」(高良)と、それぞれ表した。

そして、30歳にして、映画「ぜんぶ、ボクのせい」(2022年)や「Winny」(23年)などの話題作で国内外から注目を集める松本監督は、オファーを受けて「最初は、自分なんかでいいのだろうかと思い、どうしようかなとかなり迷いました」と告白。しかし、「いろいろと調べてみると、当時の小津監督は29歳の頃で、僕もお話をいただいた時が当時の小津監督と同い年だったということもありまして、これはご縁なのかもと思ったのと、リメークをさせていただく機会は、なかなかないチャンスかもしれないと思いました」と快諾したことを伝えた。

演出する上で気を付けた点は「90年前の作品なので、現代にリメークしていくとなると、設定も大幅に変えないといけない部分があって、そういうのは、難しいなと思っていたんですけど、オリジナルで描かれているテーマ性みたいなものは、今ともつながる縁的なものかなと感じました。真っ当な世界で生きようとする男女のもがき苦しみというものは、今も通じるテーマだなと思たので、そこを大切にしながら作っていったわけです」と説明。撮影の7日間は「ずっとスクリーンで見てきた前田さんと高良さんだったので、その中で一緒に撮影をできるということが一番うれしかったですし、だからこそ責任を持っていいものを作ろうということで、みんなで一丸となってやっていたかなと思っています」と回顧した。

舞台あいさつはハロウィーン当日だったこともあり、3人それぞれがハロウィーンの思い出や理想の過ごし方をトーク。最後に、視聴者へのメッセージとして「これをきっかけに過去の小津作品に触れて、新しい作品も見てほしい」と3人が口をそろえた。

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