【連載コラム】第36回:過去2年間で総額8億ドル以上の大補強 レンジャーズが初の世界一まであと1勝

写真:WS第4戦では5打点の活躍をみせたセミエン

日本時間11月1日、レンジャーズは敵地チェイス・フィールドで行われたダイヤモンドバックスとのワールドシリーズ第4戦に11対7で勝利し、球団史上初となるワールドシリーズ制覇に王手をかけました。ワイルドカード・シリーズ2試合、地区シリーズ2試合、リーグ優勝決定シリーズ4試合、ワールドシリーズ2試合と敵地ではなんと10戦全勝。ポストシーズンでの敵地10連勝は史上初の快挙です。

レンジャーズは2年前に102敗を喫しましたが、悲願の初優勝は目前。アドリス・ガルシア、デーン・ダニング、ナサニエル・ロウ、ジョシュ・ハイム、ミッチ・ガーバーらトレード加入組の活躍や、ジョシュ・ヤング、エバン・カーター、レオディ・タベラスといった自前の若手選手の貢献も見逃せませんが、やはり躍進の最大の要因は過去2年間で総額8億ドル以上を投じたFA市場での大補強でしょう。

テキサスに移転してチーム名がレンジャーズに変わった1972年以降では2番目に多い102敗を喫した直後のオフシーズン。レンジャーズは周囲を驚かせる大補強を見せました。現地時間2021年12月1日、ジョン・グレイ、コリー・シーガー、マーカス・セミエンの3選手と契約したことを発表。グレイは4年5600万ドル、シーガーは10年3億2500万ドル、セミエンは7年1億7500万ドルの契約を結びました。

2021年のオフシーズンは、カルロス・コレア、シーガー、セミエン(2021年はブルージェイズで二塁手としてプレーしたが、本来は遊撃手)、トレバー・ストーリー、ハビアー・バイエズと5人の大物遊撃手がFAになり、その動向が注目されていましたが、レンジャーズはセミエンを遊撃手ではなく、引き続き二塁手として起用することを選択し、総額5億ドルを投じてシーガーとセミエンのダブル獲得に成功。この当時は「まだ勝負に出られるタイミングではないのだから補強を焦りすぎ」と否定的な意見もあり、実際、2022年のレンジャーズは68勝94敗と結果を残すことができませんでした。

2022年のオフシーズン、レンジャーズはさらなる補強に動きます。サイ・ヤング賞2度の「球界最強投手」ジェイコブ・デグロムを5年1億8500万ドルで手に入れると、アンドリュー・ヒーニーと2年2500万ドル(2年目は選手オプション)、ネイサン・イオバルディとも2年3400万ドル(3年目はべスティングオプション)で契約。大きな弱点だった投手陣の強化に成功し、豪華な先発ローテーションが完成しました。

なお、2022年のオフシーズンも再びFA市場で大物遊撃手が注目され、ザンダー・ボガーツ、トレイ・ターナー、ダンズビー・スワンソン、そしてオプトアウトの権利を行使したコレアがFA市場に出てきました。しかし、今季に限って言えば、このなかにセミエンとシーガーを上回る成績を残した選手は一人もいません。レンジャーズがこの展開を予想していたかどうかはわかりませんが、「コンテンドのタイミングと微妙にズレていたとしても、優秀な選手やほしい選手が市場に出てきたら獲りにいく」というレンジャーズの姿勢が見事にハマったと言えます。

プレーオフのロースターに登録されたFA加入選手の人数(9人)はフィリーズと並んで最多タイ。FA補強に成功し、戦力を大きく向上させることに成功したレンジャーズは12年前に惜しくも逃したワールドシリーズ制覇を成し遂げようとしています。あと1勝。歓喜の瞬間は目前です。

文=MLB.jp 編集長 村田洋輔

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