米プロバスケットボールNBAレーカーズの八村塁は、ベナン出身の父と日本人の母の間に生まれた。2013~15年のバスケットボール全国高校選手権で宮城・明成高(現仙台大明成高)を3連覇に導いた後に渡米した。強豪ゴンザガ大で看板選手に成長して日本選手初のドラフト1巡目指名を受けてNBA入りした。
昨季はシーズン途中で移籍した名門レーカーズの西カンファレンス決勝進出に貢献。オフにはレーカーズと複数年の契約を結んだ。八村が2016年に渡米して7年。同様に外国出身の親を持つ後輩たちがその背中を追い、本場米国で戦っている。(共同通信ロサンゼルス通信員・山脇明子)
▽テレビで八村に魅了され「明成に行きたい」
全米大学体育協会(NCAA)1部ラドフォード大2年の山崎一渉は、ギニア人の父と日本人の母を持つ。高校時代の八村に魅了され、同じ高校に進んだ1人だ。
その当時、山崎は小学生。「ミニバスケットをしていて、テレビで高校選手権を見た時に塁さんのことを初めて知った」と言う。目を引いたのは、自分と同じような色の肌をした選手。「最初は『この人もハーフなんだ』という目でしか見ていなかった」が、卓越した能力で試合を支配する姿にあっという間に夢中になった。「プレーを見るうちに、すごく引かれて。その場でお母さんに『明成に行きたい』と言ったのを覚えている」。
千葉県松戸市出身だが、初志貫徹で仙台大明成高に進学。2年時にはテレビで見た八村と同じ舞台の決勝戦に出場し、決勝点となるシュートを決めて優勝に導いた。
▽「NBAに来たいならコートの上では日本人でいては駄目」
NCAAの男子バスケは1~3部に分かれ、大学最高峰リーグとなる1部校だけで全米350校以上が名を連ねる。NCAAによると全米の高校選手で1部校に入れるのは約1%とほんの一握り。さらに世界中から才能豊かな選手が加わる。そんな精鋭たちが集まって競い、その中のトップクラスの選手だけがNBAへと飛躍していく。とてつもなく厳しい競争社会だ。
山崎のラドフォード大はNCAAの1部に所属し、米バージニア州にある。八村が昨季途中まで所属していたウィザーズの本拠地ワシントンに隣接する州で、1年生のシーズン開始前、コーチの計らいでウィザーズの練習を見学した。八村は「アグレッシブにいくことが大事だと言った。大学からが一番激しくなってくるので、そういう中で周りのチームメートにも、相手チームと戦う時にも、自分を出していくことを忘れないようにと伝えた」と述懐する。
山崎自身、渡米後、米国人選手が強い気持ちでプレーする姿や、練習でも厳しく言い合ってお互いを高め合う姿に驚いていた。山崎は「日本にいた時は自分もそうやろうと意識していたが、こっちに来ると気持ちで引いてしまう部分があった」と言う。それだけに「塁さんにここ(NBA)まで来たいならコートの上では日本人でいては駄目だと言われて、それが心に響いた。日本人らしさを持ちながら、コートの中ではもっとガツガツやろう」と思いを新たにした。
山崎は高校入学時から「八村2世」と呼ばれている。本人は「塁さんに少し失礼だなと思って申し訳ない」と謙遜しつつ「そう言われるからには、追いつけるように頑張りたい」と力に込めた。
▽「人に見られるのが嫌だった」から「ハーフで良かった」へ
山崎とともに2019年に仙台大明成高に入学したのが菅野ブルースだ。明成高を卒業後、米アイオワ州のエルズワース短大でプレーした1年目に複数のNCAA1部の大学から勧誘され、フロリダ州のステットソン大への編入を決断。今秋から大学バスケの最高峰で戦う。
菅野も八村に憧れた。「高校選手権で3連覇するのを見て、自分もいつか塁さんのようになりたいと思い、明成に入りたいと思った」と話す。「NBAでの活躍はもちろん、日本でも象徴となるような素晴らしい選手」と思いを語る菅野は、米国人の父と日本人の母の間に生まれ、米国で育ったが、祖父の病気や東日本大震災の影響で小学2年生の時に母の故郷、岩手県陸前高田市に移った。
だが最初は「環境や文化の違いですごく困って大変な思いをした。自分の肌が日本では目立つし、いろんな人に見られるのが最初は嫌で、人が多いところに行きたくなかった」と話す。そんな中、高校選手権で見た八村は輝いていた。
菅野が仙台明成高への進学を志望したもう一つの理由は、6月に亡くなった佐藤久夫監督の指導を受けることだった。佐藤監督は八村を「ハーフの大将」と評していた。
菅野は「同じハーフで今までたくさん苦労をし、高校でも苦労して、米国で活躍している。日本を引っ張っている存在でもあり、本当にハーフの大将だと思う。自分もああいうふうになりたい。すごく尊敬している」と率直な思いを口にする。「今は日本にいても『ハーフで良かった』と、すごく思えるようになった。最初は大変な思いをしたけれど、今は大丈夫」と笑顔を見せた。
▽「NBAにつなげ、八村を超えたい」
日本のBリーグを経由し、昨季NCAA1部の大学に進学したのが山ノ内勇登だ。1年時はラマー大で活躍し、2年生の今季からはゴンザガ大と同じカンファレンスに属するポートランド大でプレーする。新天地でのスタートに「(八村)塁もそうだし、多くのNBA選手を輩出したカンファレンス。僕に何ができるかを見せるチャンス。次の目標であるNBAにつなげたい」と意気込む。
米国人の父と日本人の母を持つ山ノ内は福島県会津若松市出身の20歳。13歳まで日本で育ち、身長は208cmと八村よりも高い。「塁は素晴らしい選手。でも彼よりもいい選手になりたい。彼を超えたい」と頼もしい。
▽SNSで八村の動画を投稿する後輩たち
昨季、八村がNBAプレーオフ最初の試合で29得点してレーカーズを勝利に導くと、八村を追う後輩たちは誇らしげにSNSで八村の写真や動画を投稿した。八村の活躍が、これから世界最高峰を目指す選手にどれほど影響力を与えているか、よく示す出来事だった。
八村は「ハーフの子が米国に来るのは僕もすごくうれしいし、どんどん増えていってほしい」と願いを語る。先駆者の背中は後進の道しるべとなり、切り開いた道は後進へとつながっている。