米中関係はどうなるのか~トシ・ヨシハラ氏と語る その2 共産党の不器用なプロパガンダ

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・中国こそ汚染水放出的な環境破壊の措置をどれほど多くとっているか指摘すべき。

・日本は日ごろの環境保護施策の透明性や開放性を国際的に広く伝えるべき。

・中国の国策の根幹にはいまの日本の国家のあり方自体への否定がある。

古森義久 「確かにいまの日本ではこの中国の措置の非科学性や無法ぶりへの反発は官民一致という感じです。日ごろこの種の事例で中国側に奇妙な同調を示す政界やメディアの一部も今回は沈黙がちです。岸田政権でも年来の親中の林芳正前外相がいまさらながら日中関係の安定などを説き、抗議らしい言明もしませんでしたが、全体として強固です。政党では日本共産党だけが唯一、処理水を汚染水と呼び、中国の主張に傾く姿勢をみせましたが、孤立しています」

トシ・ヨシハラ日本はこの現状を効果的に利用すべきです。中国に対してこの日本非難がどれほど事実に反するか、そしてさらに中国こそが汚染水放出的な環境破壊の措置をどれほど多くとっているか、を指摘すべきだと思います。中国が日ごろ対外的な防火壁を設けて隠している環境破壊的なシステムの実態をあばくことも適切な対応です。

日本はさらにこの機会に処理水の扱いに象徴される自国の日ごろの環境保護施策の透明性や開放性を国際的に広く伝えるべきです。中国の施策とは対照的な実態を国際広報することです。日本こそが国際社会での模範市民なのだという強調です。それが中国へのパワフルな発信となります。現状は日本のこの対応をきわめて効果的にする条件を整えています。

日本はこの機会に中国のこの種の不当な日本断罪は逆に中国自身にとって不利になる、苦痛をももたらすことを思い知らせるべきです。同時に日本は国際舞台での活動を強め、名声を高める。中国共産党首脳部も日本に対して今回のような措置をとることには次回は慎重になるでしょう。だから中国の今回の対日非難は日本への贈り物だとあえて述べたのです」

古森 「しかし中国側ではいわゆる反日の無法な動きも起きて危険も予測されます。ただし私自身の中国駐在体験でも、この種のいわゆる『一般人民の反日の抗議』は政府が完全に管理しています。政府への民衆の不満をそらすためにも反日を利用するという側面があります」

ヨシハラ 「中国国民の政権への不満は明らかに高まっています。コロナ対策での大失態、経済運営の失態による若年層失業率の異様な高まり、不動産バブルの破裂による不況、さらには一部国民の発言への弾圧強化など習近平政権の懸念材料は増えています。それらの問題に対する一般国民の怒りを民族感情とともに日本という外部の標的に向けさせるというのは一面、便利な方法です。

ただしこの方法にも危険な側面があります。国民のナショナリスト的な日本非難が過熱して、習政権への抗議へとつながりかねない可能性です。外部の敵への国民の糾弾が自分の方に向かってくる危険です。この状況は虎の背に乗って目的地に進もうとするような行動ですね。

対外的にはいまの中国はアメリカとも西欧とも対立を険しくしています。そんな状況下では日本には一時的にせよ融和策をとって、日本の対中態度を和らげることが賢明なはずです。しかし中国政府は正反対の策をとった。日本を中国からさらに遠くへと押しやってしまった。共産党政権年来の硬直性の結果でしょう。不器用な政治プロパガンダともいいましょうか」

古森 「しかし中国は日本に対して究極的にはなにを求めているのか。私は中国の国策の根幹にはいまの日本の国家のあり方自体への否定があると思います。日本が求める国際秩序とは異なる秩序を求める。日本の国家安全保障のあり方にも反対する。そのうえに中国共産党には年来の『抗日』という名の下の反日基調があります。

中国人民を初めて外国の支配から解放し、とくに軍国主義の日本という最大の敵を倒して民族統一を果たしたのは中国共産党だとする宣言です。だから共産党は永遠に中国を統治する正統性がある。その敵の日本はまだ完全には反省も恭順もしていない。こんな反日思考ですね。だからいまの中国は日本にとって敵性国家といえると思います。だが日本の国政でも、学界でも、こうした中国認識は語られることは少ないです」

(その3につづく。その1

*この記事は雑誌「正論」2023年11月号に掲載されたトシ・ヨシハラ氏と古森義久氏の対談録「経済衰退しても中国は『軍事大国』」の転載です。

トップ写真:人民大会堂で開催された第14回全国人民代表大会(2023年3月5日 中国・北京)出典: Lintao Zhang/Getty Images

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