<レスリング>【特集】他に例を見ないキッズ~大学生の一貫強化体制、西日本の雄を目指す大阪体育大学(上)

2021年11月の西日本学生秋季リーグ戦・二部リーグで優勝し、翌2022年春季から37年ぶりに一部リーグで闘っている大阪体育大学(大体大)。大学の母体である学校法人浪商学園の「DASHプロジェクト」という構想のもと、学園とOB会が総力を挙げて勝ち取った昇格だ。

だが一部リーグの壁は厚く、リーグ戦の成績は5位、5位、7位で表彰台が遠い。もっとも、勝利の女神は、より大きなインパクトを残すため、優勝を「2025年秋季」まで待たせていて、今はそのための試練の時期と考えれば、気持ちは前を向くはず。

大体大が最後に一部リーグ優勝を遂げたのが1975年秋季。2025年に優勝を果たせば「50年ぶりの優勝」となる。2010年の東日本学生リーグ戦で復活優勝した早大の「64年ぶりの優勝」には及ばないものの、及ぶ必要はない。区切りの「50年」をひとつの目標に、着実な発展が望まれる。

▲2021年西日本学生秋季リーグ戦の二部リーグで全勝優勝、一部リーグ昇格を決めた大体大

同大学は、2017年には部員不足で西日本学生春季リーグ戦への出場も断念した。だが、2021年に創立100周年を迎える浪商学園が2016年、アスリートと指導者のパフォーマンス向上、質の高いスポーツ科学によるサポートをスタートさせ(前述)、スポーツ活動を全面支援。

ほぼ同じ時期に、神奈川県磯子工業高校で指導経験がある西尾直之さんが大体大浪商高校に赴任。これによって、1人での強化に限界を感じていた大体大・姫路文博監督の気持ちが上向いた。

「大阪で生まれた選手を大学まで一貫指導で育て、世界選手権やオリンピックに出場させたい」

キッズや中学生、高校生で才能のある選手がいても、府外に活路を求められてしまう状況を改善すべく、まず附属の浪商中学(2018年創部)と浪商高校を強化。附属小学校はないので、地元の泉南郡熊取町にあるNPO法人ゼッセル熊取アスレチッククラブにレスリングスクールを立ち上げてもらい、週1回、大学生に指導させることにした。

▲中学選手から大学選手が一緒に汗を流す大体大

附属の高校と中学の選手が一足先に世界へはばたく

こうして、キッズから大学生までが同じマットで汗を流す一環強化体制が出来上がり、世界で勝てる選手の育成が始まった。中学生から大学生までが合同で練習する状況は日本でここだけ。キッズ・クラブの高学年の選手で上を目指す選手は、中学から大学の練習に参加してくるケースもあるそうなので、キッズ~大学生の一貫クラブと言っても問題はない。

この一貫強化の成果は、早くも出ている。今年のU17アジア選手権・男子グレコローマン92kg級に松本彬夢、同フリースタイル65kg級に辻田陽咲の2人の高校生が出場。U17世界選手権・男子フリースタイル48kg級に古澤大和(昨年のU15アジア選手権優勝)、U15アジア選手権・男子フリースタイル75kg級に小林賢弥の2人の中学生が出場し、古澤が2位で小林が優勝。

中学の2選手は、鹿児島国体(少年)では高校選手に混じって参加し、ともに3位入賞。今後に大きな期待を抱かせる成績を残した。2人とも「ゼッセル熊取」の出身ではないが、いずれ同クラブ出身の選手が高校や大学に増えて行き、強固な一貫強化の結果を出してくれるだろう。

▲昨年U15アジア王者に輝き、今年はU17世界2位に駆け登った古澤大和(浪商中3年)

10月の某日。高校と中学の中間試験も終わり、3世代の選手が元気に汗を流していた。75kg級の小林は大学生に積極的に挑み、知らない人が見たら中学生とは分からない闘いを展開。国際大会での好成績は、中学生から大学生が一緒に練習することの効果であることは間違いない。

世界に飛び立っている中学・高校選手に刺激されている大学選手

姫路監督は「レスリングは個人競技ですが、一人では練習できないし、強くもなれません」と強調する。自身の現役時代は、単身で日体大等の練習に参加させてもらったことがあり、二部リーグの選手だったにもかかわらず、西日本学生選手権で優勝し、明治杯全日本選抜選手権で5位入賞を果たせるまでになった。「多くの強い選手と練習できたおかげ、またいろいろな先輩方にお世話になったおかげ」とも言う。

今の中学生や高校生が大学へ進むことで部内での競争が激しくなり、優勝を目指せるチームに育つことは、想像に難くない。中学選手や高校選手は「大学生と練習しているので、物おじしないですね。やられても向かっていく姿勢があります」とのこと。

▲技術指導をする姫路文博監督

大学選手は、世界に飛躍している中学・高校選手に刺激されている部分が多いと言う。10月初めの西日本学生選手権での成績がかんばしくなかったので、選手から「朝練習はマットでやっていいですか?」と言ってきたそうだ。自分たちから練習内容を提案してくる姿勢を見せたことに満足そう。

だが姫路監督は、「何が何でも一貫強化にこだわるつもりはない」とも言う。それぞれの選手には、それぞれの人生が待っている。ここで汗を流したからと言って、必ずしも大学まで選手を引きつけておくつもりは「毛頭ない」ときっぱり。

《続く》

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