動機は自己都合! 岸田首相“増税メガネ払拭減税”に「効果は少ない」と専門家

「増税メガネ」が嫌すぎる岸田首相(写真:時事通信)

来年6月ごろの実施に向けて、岸田首相が検討している1人あたり所得税3万円、住民税1万円の「定額減税」。この減税の効果を疑問視しているのは、経済評論家の加谷珪一さんだ。

「年収500万円のサラリーマン世帯(専業主婦1人を扶養)で、所得税は月約8100円。ここから月5千円の減税があったとして、“すごい還付を受けた”という感覚になるでしょうか? この規模では、経済に大きな効果があるかというと、“ない”と言わざるをえません」

さらに、減税の目的のひとつは、物価高対策のはずだが……。

「来年の6月の実施では遅すぎます。制度設計が複雑だと企業や自治体の対応も煩雑になり、家計に恩恵が及ぶのが遅くなる可能性が高まります。物価高のなかにあって、スピード感がないとの批判も生じるでしょう」(星野さん)

10月に読売新聞が行った世論調査によると、86%もの人が物価高による家計への負担を感じているという。にもかかわらず、その対策は半年以上も先になるのだ。さらに、減税の実施期間についても加谷さんは懸念を示す。

「自民党の税制調査会の宮沢洋一会長が、減税は『1年が常識的だ』と早々にくぎを刺しました。岸田首相としては減税で消費を刺激して景気の押し上げを期待しているのかもしれません。しかし、個人の消費は“今、いくらもらったか”で決まるのではなく、将来的、少なくとも複数年にわたって収入がどれだけ増えるか見通しがあってはじめて決まるもの。1年間限定では、減税された分は消費ではなく貯蓄にまわり、経済全体への波及効果も少ないでしょう」

■“増税メガネ”を払拭するためだけの減税

さらに岸田首相が“減税”にこだわる理由について、加谷さんはこう指摘をする。

「景気対策と言うならば、減税よりも口座に直接振り込まれ“使えるお金が増えた”という実感が高い現金給付のほうがスピーディで、なおかつ消費にまわる割合は高くなるでしょう。ところが岸田首相は、給付は低所得者だけに絞り、効果が薄い減税を打ち出しました。“増税”というイメージを払拭し支持率を上げるため、つまり選挙対策として“減税”という言葉を使いたかっただけだと言われても仕方がないでしょう」

昨年11月、岸田首相は防衛費などの関連予算を今後5年間で倍増させるため、所得税、法人税、たばこ税などを増税する方針を打ち出した。さらに、それ以外の負担増も予定されている(表参照)。岸田首相が“増税メガネ”と言われるゆえんだ。

「岸田首相は防衛増税について『もちろん、来年(2024年)にはしません』と語りましたが、いつまでも先送りにはできません。再来年以降、増税すると表明しているようなもの。 減税は1年間の時限措置です。減税が終わったタイミングに増税が重なれば、負担感はすさまじく大きくなるでしょう」(全国紙記者)

減税のあとに、“大増税”が待ち構えていることは、しっかり心に留めておきたい。最後に加谷さんが語る。

「防衛費の増額に加えて、子育て支援の『異次元の少子化対策』に向けても大幅に拡充すると岸田首相は決めています。この支出増に対して大増税をするか国債で対応するしかありません。かりに日本銀行が大量の国債を発行すれば物価が上がり続けるインフレが起こります。

たとえば100万円の貯金があったとしても、インフレが起こればモノの値段が上がり、それまで100万円で買えたものが買えなくなる、つまり100万円の貯金そのものの実質価値が目減りします。これを経済学では“インフレ課税”と呼んでいます。国民の預金に税金を課す、事実上、増税することと同じことなのです」

岸田首相が“減税パフォーマンス”をしても、増税メガネとやゆされ続けることになりそうだ。

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