日本を席巻『エアポート』シリーズ徹底解説! アラン・ドロン、バート・ランカスター、ジャック・レモンほか“グランド・ホテル形式”のパニック映画

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1970年代を象徴する大型パニック映画シリーズ

今からちょうど半世紀前の1970年代、“パニック映画”ブームが日本を席巻した。“パニック映画”とは、北米でいう “ディザスター映画”に、小さな規模の映画であっても登場人物たちが予期せぬ出来事によってパニック状態に陥る内容のものも含んだ、日本独自のカテゴリー。前者は『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)、『タワーリング・インフェルノ』(1974年)、『大地震』(1974年)のような作品群、後者だと『サブウェイ・パニック』(1974年)、『JAWS/ジョーズ』(1975年)などが“パニック映画”と呼ばれた。

それらの中で、最も成功してシリーズ化されたものに“エアポート”シリーズがある。アーサー・ヘイリーの大ベストセラーを映画化した『大空港』(1970年/原題:Airport)の大ヒットを起点に、『エアポート’75』(1974年)、『エアポート’77/バミューダからの脱出』(1977年)、『エアポート’80』(1979年)という三本の続編が作られた。

ちなみに、その後も『エアポート〇〇』というタイトルの作品が、筆者の知るだけでもDVDで19作品リリースされているが、それらは本家のシリーズとは何の関係もなく、単に邦題によって同一のシリーズのように偽装しているだけのB級映画。

“グランド・ホテル形式”とは何か?

エアポート・シリーズを始めとする“パニック映画”が人気を博した大きな要素は、それらが様々な世代のスターたちが大勢登場するオールスター映画だという点。つまり、それぞれのスターが好きな様々な世代の観客にアピールできるのだが、そういったスタイルの映画のことを“グランド・ホテル形式”という。

この言葉の由来は、MGMの古典的な映画『グランド・ホテル』(1932年)で、様々な人物が一つの舞台(ここではホテル)にそれぞれの理由で滞在し、それぞれの人生模様が並行して描かれる構成が評判を呼び、第5回アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた。

MGMといえば、米メジャー映画会社の中でも「星の数より多いスター」というキャッチフレーズで知られた会社で、そのMGM所属の様々な世代の大スターたちの競演によるオールスター映画『グランド・ホテル』の大成功により、その後、似たようなコンセプトのオールスター映画を“グランド・ホテル形式”と呼ぶようになった。

日本だと、『忠臣蔵』というジャンルがまさにそうで、今が旬のスターたち、年老いたかつての大スターたち、これからが期待される若手有望株、といった様々な世代の男優女優に見合う役柄があることで常にオールスター映画となり、人気を博し続けてきた。

群像劇の原点にして傑作! バート・ランカスター主演『大空港』

『大空港』では、大雪に見舞われたシカゴの国際空港と、同空港を飛び立ったボーイング707機を巡る様々な人物のドラマが複雑に交錯する。

――積雪に車輪を奪われて滑走路上に立ち往生した大型ジェット機を取り除くべく奮闘する空港責任者のバート・ランカスター、保安係のジョージ・ケネディ、そして出立したボーイング707機に爆弾魔が乗り込んだ情報をキャッチした航空会社旅客係ジーン・セバーグの地上組、そして地上からの連絡を受けて爆弾魔から爆弾の入ったアタッシュケースを奪取しようとする機長ディーン・マーティン、その恋人であるキャビンアテンダントのジャクリーン・ビセット、無賃搭乗を不問に付す代わりにアタッシュケース奪取に協力する老婦人ヘレン・ヘイズの機上組。世代は様々なれど、いずれも主演スターの名優ばかり。

爆弾魔の男ヴァン・ヘフリンから何とかアタッシュケース奪取に成功したものの、事情を知らない別の乗客が「何をするんだ!」とアタッシュケースを奪って再び爆弾魔に返してしまい、トイレに籠った爆弾魔はダイナマイトを爆破させ機体に大きな穴が開いてしまう。

急激な気圧減少で危機的状況となった機体は、すぐにシカゴに引き返して緊急着陸しなくてはならなくなるが、それまでに滑走路をふさぐ大型ジェット機を移動させることができるのか!? ……というサスペンス溢れる本作は、アメリカン・ニューシネマ全盛のハリウッドに大型映画復活の機運をもたらした。

なお無賃搭乗常習犯のおばあさんを演じた往年の大女優、ヘレン・ヘイズがアカデミー助演女優賞を受賞している。

CAがジャンボ機を操縦!?『エアポート’75』

前作の4年後に製作された『エアポート’75』は、当時の一般的なパニック映画(たとえば本作と同時期にチャールトン・ヘストンやジョージ・ケネディが出演した『大地震』)と比べて低予算の作品だが、結果的には、1970年代アメリカ映画全体を紹介したロン・ホーガンの著書「The Stewardess is Flying the Plane!」のタイトルと表紙に抜擢されるほどの、この時代を象徴するような映画になった。この本のタイトル、「キャビンアテンダント(Stewardess)が飛行機を操縦している!」というのが、つまりは本作の最大のポイント。

大女優グロリア・スワンソン(本人役)、腎臓手術を受けにLAの病院へ行く少女リンダ・ブレア、アル中の老婦人マーナ・ロイといった様々な乗客を乗せたボーイング747機がワシントンDCからLAへ向けて飛行中に、濃霧のためやむなくソルトレイクシティに進路変更し降下し始めたところへ、小型機を操縦する実業家ダナ・アンドリュースが心臓マヒを起こして絶命、ボーイング機のコックピットに激突する。機長エフレム・ジンバリスト・Jrは重傷を負い、副機長は機外へ放り出され、機関士も死亡。

そこでチーフ・キャビンアテンダントのカレン・ブラックが管制塔からの指示でジャンボ機の操縦桿を握ることに! 彼女の恋人で、地上勤務の元パイロット=チャールトン・ヘストンが空軍のジェットヘリコプターで空中からジャンボ機に近づき、コックピットに開いた穴から操縦席に乗り込もうとするが……という手に汗握る展開。

前作との唯一の共通点はジョージ・ケネディ扮するジョー・パトローニの存在で、同一人物ではあるが、本作では航空会社の社長としてヘストンと共にジェットヘリコプターに乗り込む。特筆すべきはグロリア・スワンソンの出演で、実は彼女は『グランド・ホテル』にも出演した伝説の大女優だから、本作が“グランド・ホテル形式”ですよ、というイメージを前面に押し出した形だ。

バミューダ“魔の三角地帯”にジャンボ機沈没!『エアポート’77』

第3作『エアポート’77/バミューダからの脱出』は、『スミス都へ行く』(1939年)のジェームズ・スチュワート扮する億万長者で美術愛好家の自家用ジャンボ・ジェット=ボーイング747機が、美術関係の出資者である老婦人オリヴィア・デ・ハヴィランド(1939年『風と共に去りぬ』が有名)、美術品収集家ジョゼフ・コットン(1949年『第三の男』が有名)、海洋学者クリストファー・リー(言わずと知れた『ドラキュラ』役者)ら招待客を乗せてワシントンDCからフロリダへ向けて飛び立つが、キャビンアテンダントを装っていたテロリストが乗客を麻酔ガスで眠らせてハイジャック。カリブ海の孤島へと進路を変えて低空飛行していたところ、操縦を誤ってバミューダの“魔の三角地帯”で海面に接触して海中に沈んでしまう。

地上ではレーダーから消えたジェット機の機体を製造した会社の責任者ジョージ・ケネディが、海軍・沿岸警備隊の協力で捜索を開始。一方で、意識の戻った機長ジャック・レモン(!)は救命信号を発するために何とか機外への脱出に成功する。水圧でいつ機体が押し潰されるか判らない恐怖に怯える乗客を乗せた機体を無事に海上に引っ張り上げることはできるのか? という変化球的航空パニック映画だが、キャストの豪華さでは随一だろう。

主役はエールフランスの最新鋭機コンコルド!『エアポート’80』

第4作『エアポート’80』は、仏英で共同開発され1976年からエールフランスで営業開始した、超音速旅客機コンコルドを前面に押し出した。そのため、ハリウッド映画ながら、機長役はアラン・ドロン、キャビンアテンダント役には当時『エマニエル夫人』(1974年)で一世を風靡したシルヴィア・クリステルというフランス映画界のスターが起用されている。

いつもの通り、乗客には『ローマの休日』(1953年)のカメラマン役で知られる往年の名脇役エディ・アルバート、1930年代からのヴェテラン女優マーサ・レイ、イングマール・ベルイマン監督作品で知られるスウェーデン女優ビビ・アンデショーンといったヴァラエティに富んだ顔ぶれが揃い、自らの悪事の発覚を恐れてコンコルドを撃墜しようとする科学者役にハリウッドの往年の二枚目ロバート・ワグナーが扮しているのが、アラン・ドロンと好対照をなしている。実は彼は、ドロン主演の『山猫』(1963年)の主演候補だったのだ!

さて、ジョージ・ケネディ扮するジョー・パトローニは、今回は何とドロンと共にコンコルドを操縦するパイロット役での登場だ。シリーズ全作を通じて同じ役で出演しつつ、毎回その職業が違うのは何とも不思議(空港保安係が航空会社社長、ジェット機製造会社重役を経てパイロットになるというキャリアはどう考えてもあり得ない!)で、ある意味でハリウッド映画でも滅多にない珍記録だろう。

またタイトルが、1979年夏に公開された海外では『The Concorde…Airport 1979』なのに、12月公開の日本では『エアポート’80』に代えられたのも変と言えば変だ(笑)。

文:谷川建司

『大空港』『エアポート’75』『エアポート’77/バミューダからの脱出』『エアポート’80』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「黄金のベスト・ムービー」で2023年11月放送

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