坊主頭も悪くないかなって。 42歳グルメブロガー、がんになる。 毎日ビール.jp ユッキー

 

 沖縄タイムス+プラスをご覧のみなさん、こんにちは。毎日ビールのユッキーです。スキルス胃がんと診断され胃全摘の手術を受けた後、わたしは術後の補助化学療法を通じて、再発予防に取り組んでいます。

 がんの種類とステージの状況から、現在最も効果があると言われている術後補助化学療法を開始したのですが、この抗がん剤の副作用が想像以上にキツくって… がんの治療といえば手術を思い浮かべる方が多いかもしれません。わたし自身、手術も抗がん剤治療も体験したことで、初めて「手術なんかより、抗がん剤治療の副作用の方が、よっぽど負担が大きい」とわかりました。これ、経験してみないことには、なかなか理解してもらうのが難しいことかもしれません。

 さて、今回は抗がん剤治療の副作用のひとつ、脱毛について触れてみます。全身のあらゆる毛が抜けるのですが、中でも見た目に影響するのが頭髪です。いま、わたしは人生初の坊主頭ですけれど、バリカンでガーッと刈り上げてもらった時には、複雑な気持ちになりました。

■泣きながら「やっぱり嫌だ」

 6月中旬、わたしはドセタキセルの点滴とTS-1の服薬を始めました。私のケースはステージ3Aのスキルス胃がん。この2種類の抗がん剤の組み合わせは、全身に散らばる可能性のあるがん細胞の増殖を防ぐとともに、細胞の死滅を促し、根治の確率を上げるとされています。

 抗がん剤の種類によっては、細胞分裂が盛んな毛を作る細胞にまで影響し、ダメージを受けて毛が抜けてしまうそう。悪いがん細胞だけでなく、全身のあらゆる健康な細胞までも、抗がん剤に攻撃されて弱ってしまうのです。短期で回復を期待できる手術よりも、この先しばらく続く抗がん剤治療の副作用の方がよっぽどツラいというのは、そういうところにあります。

美容室「JAG STANG」のRIDOさんにハサミを入れてもらう。本音は切りたくなかった

 術後の補助化学療法の方針が決まり、ドセタキセルの点滴治療を受けることになったので、一時的に長い髪とサヨナラすることに決めました。ドセタキセルの副作用はさまざまありますが、その中のひとつが全身の脱毛です。頭髪、まつ毛、眉毛、鼻毛、アンダーヘアなど、いろんな毛が自然と抜けていきます。

 いつもの美容室に到着した時は決心できていませんでしたが、「やっぱり嫌だなぁ」と泣きつつもハサミを入れてもらいました。この時点はまだ点滴前でしたから、脱毛は始まっていません。ですが、先駆けて動くことで「自分で選択し、抜け毛対策した」とポジティブに捉えたかったんですよね。

■長髪デンジャーにサヨナラ!

 髪の毛を切った理由はもうひとつあります。それは、長い髪の毛を好んでいた息子への最大限の配慮でした 。切る前に、「カーチャンは薬の影響で髪の毛が抜けてしまうんだ。その前に、一度短くするからね」と何度か伝えてから、美容室へ向かいました。

副作用がなければ、一生長髪でいたかった

 担当の美容師さんに病気や抜け毛になることを話し、「毛が生えてきたら、ベリーショートやカラーをお願いしにきますね〜!」と伝えて帰宅しました。ですが、やっぱり短くカットするのは患者本人の意思に反していて、心が重かったです。こんな短いと、長髪デンジャーとは言えないじゃん… ちなみに現在はもっと坊主なので、まったくデンジャーではありません…。(補足:「長髪デンジャー」とはわたしの推しバンドの専門用語です)

 わたしはこの20年、ほとんどロングヘアでした。これは趣味の推し活に影響を受けています。ライブ会場で、ロングヘアをファサファサとなびかせるヘッドバンギングをするため、ロン毛を続けました。曲に合わせ、ロン毛で8の字ヘドバン・V字ヘドバン・回転ヘドバンしたいのです。わたしが生きる上で絶対に必要な推し活。それに影響してしまう頭髪の脱毛… 他の副作用は身体的にしんどいものですが、脱毛は特に精神的にキツかったです。

ドライヤーでゴッソリ抜ける。ショックを通り越して、笑った

■猛烈に切ない息子の言葉

 ドセタキセル点滴後は、ベッドに横たわる時間が長かったです。体の正常な細胞すら攻撃する抗がん剤ですから、体の中から影響を受けました。点滴から1週間後、わたしはこれ以上ないほどのヘロヘロ状態で経過観察の外来に向かいました。血液検査の結果、免疫機能(白血球など)に大ダメージを受けていて、別の病気にかかることを恐れて、全ての投薬が一時中止に。

 抗がん剤の種類や患者によって、副作用はさまざまです。一般的には、点滴直後から吐き気・嘔吐、食欲不振、手足の痺れが起こるそうです。他にもむくみや口内炎、爪の変形・変色、味覚の変化、涙目などが出ると主治医と薬剤師から説明を受けました。

 わたしのケースでは、点滴から1時間ほどで水下痢になったり、吐き気や食欲不振、血液の免疫機能数値が悪化して説明しがたい体調不良となり、そして点滴からぴったり2週間後に脱毛し始めました。軽く手ぐしやドライヤーをするだけでゴッソリ抜けていき、頭頂部はスッカスカ… 自撮り写真を眺めながら「抗がん剤に攻撃された毛根は、髪の毛をホールドする任務を手放すしかなかったんだな」と悲しくなりました。

AGA治療サイトにありそうな薄毛写真

 いつかは副作用から解放されるはずですが、またロングヘアに戻れるのは、おそらく数年後でしょう。その頃わたしは40代中盤で、白髪も増えているはずです。毛量も減るんだろうなぁ。AGA治療しようかなぁ。そもそも、治療が終わったら無事に毛が生えてくるんでしょうか… こういった不安や悲しみは、経験者にしか想像できない部分だと思います。「カーチャン、髪の毛が長くてかわいいね」と褒めてくれた息子の言葉を思い出すと、猛烈に切ない気持ちになります。

 この脱毛の副作用と引き換えに、ドセタキセルでがんをやっつけるのだと覚悟していたのに、わたしの体に合わず、まさか中止になるなんて。治療薬の合う・合わないはやってみないとわからないのですが、ドセタキセルはわたしに合わないと判断されました。副作用で脱毛し、坊主頭になったわたしとしては、「髪の毛を失い、寝込むほどツラい副作用も耐えたのに、なんで合わないんだよ!」となんとも言えない気持ちになりました。がん治療というのは、先読みできないところも含めて難しいなぁと感じています。

 ちなみに、なくなっても困らない口や鼻周りの毛・指毛・腕毛・脇毛・すね毛などは、しぶとく残っています。そこは一生なくてもいいのに、どうして抜けてくれないの?笑

坊主頭なのにわたしだと気付いてくれたBremenの店員さん、ありがとう!

■頭の保護用グッズをそろえてみた

 脱毛を伴うドセタキセルで治療するとわかってから、さまざまなグッズを用意しました。

 まずは抜け毛防止キャップです。家の中に抜け毛が散乱するのを防ごうと100個入りを買ったのですが、大量脱毛が始まってすぐに坊主頭にしたため、そんなに使いませんでした。これは不要だったかも。

抜け毛防止キャップをかぶりながら、ビールを嗜んだ夜

 帽子も購入しました。ネット通販で入手できる医療用帽子はフリルやリボンがついて、とにかくデザイン性に長けていて、わたしにはオシャレすぎて買えませんでした。ふだんアメカジ風・アウトドア風・バンドTシャツな服装には、不釣り合いなのです。結局、シンプルなワッチキャップやワークキャップを購入しました。

 ウィッグにも手を出しました。人毛を使った高級ウィッグ一択と思っていましたが、がんサバイバーの先輩から「沖縄は暑くて汗もかきやすい。ウィッグの手入れも大変だから、安いファッションウィッグを買い替えるのもよいよ!」と教えてもらい、なるほど!と思いました。そうして人工毛の4000円前後のウィッグをひとつ試してみることに。人工毛でも意外とナチュラルに見えて驚きました。ただ、装着や手入れに時間がかかるので、一度使ったきりです。

 結局のところ、サッとかぶれる帽子が一番手っ取り早いんですよね。最初は襟足やもみあげ付近までしっかり隠れる帽子を愛用していましたが、最近はキャップの後ろの穴から短髪が見えても、それほど気にしなくなりました。世の中の大半がわたしの短髪なんて気にしていないだろうし、ベリーショートだと思えばいいんじゃないかという開き直りです。

帽子&マスク姿で飲み屋街に出没しています

 坊主頭になった後、友人や関係者に「ちょっと見て」と言って、新しい姿を見せることが多いです。一度隠したらずっと隠し続けることになるかもしれませんから、自分自身を慣れさせる一種のメンタルトレーニングです。加えて、若い世代に「ステージ2なら髪が抜けなかったけど、ステージ3では抗がん剤が変わり、副作用も強くなる。早期発見・早期治療が重要!」と訴えることができればと思っていたりします。

 ただ、これはわたしの押し付けでもありますから、坊主頭を晒すか否かは、場の雰囲気や相手を見て決めています。

■坊主頭で街を歩けたらいいのにな

 初めて坊主頭になり、わかったことがいくつかあります。このヘアスタイル、意外とラクなんですよね。

 たとえば、顔を洗ったフェイスソープの泡を、そのまま頭に持っていって洗ったり。長髪時代と違い、「ちょっと汗かいたし、洗っとくかー」とカジュアルにジャバジャバ洗えるのもよいですよね。シャンプーの使用量が大幅に減り、コンディショナーやヘアケア用品の必要もないため、経済的にも助かります。洗髪後はタオルドライで十分だから、ドライヤー時間は不要で、暑くもありません。

 もちろんデメリットもあります。

 沖縄の強い紫外線下で頭皮をさらすわけにはいきません。これまで隠してきたのに、いまさら日焼けだなんて。後日、絶対大変な目にあうと決まってます。そして毛根からまた毛が生えてくるのかも気になるし、髪質も変化している可能性もあるだろうなぁ。さらにヘドバンしやすい長髪に戻るまで、推し活中にわたしは何をしていればよいのかも想像できません。坊主頭でライブハウスを訪れるなんてこれまで未経験ですから、ファサファサと髪をなびかせられない今、一体どう楽しめばよいのでしょう。

息子の行事でビーチへ。頭皮をしっかり守った

 坊主頭になり、まるっと3カ月が経過しました。そんな生活の中で思うのは、ありのままの坊主頭で飲み屋街を闊歩したい、ということ。わたしの場合、帽子のせいで開放感が感じられなかったりするんです。けれども坊主頭の女性は珍しいでしょう。すれ違いざまに「えっ?」と二度見しちゃったり、遠巻きにもなんとなく目が行っちゃうものではありませんか。そんな気がして、まだ脱帽して久茂地や栄町を飲み歩く勇気はありません。

 余談ですが、休薬期間中はよく飲みに出ています。主治医からも「休薬期間ならお酒を飲める」「楽しみを見つけましょう」とアドバイスをいただきましたし、闘病の息抜きにも、食べ飲みの趣味をほどよく継続しながら、闘病の煩わしさを発散しようと考えています。

昼飲みの聖地・らう次郎のポテサラ。ボリューム満点でした!

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