【日本薬剤師会】「調剤基本料」の引き下げ論議には「反対」明確化/財政審分科会の議論を受けて

【2023.11.02配信】日本薬剤師会(日薬)は11月1日午後4時から会見を開いた。その中で財政制度審議会財政制度分科会「社会保障」の議論に対して反論した。日薬としては調剤基本料を下げるような主張には反対するとの姿勢を明確に示した。

山本会長「財源確保は至上命題」/薬局の厳しい経営状況訴える

財政制度審議会財政制度分科会の社会保障に関わる資料では、調剤報酬に関しては、調剤基本料と、調剤基本料に紐づく加算である地域支援体制加算のあり方の2つを論点としていた。調剤基本料については、「処方せん集中率が高い薬局であっても、集中率が低く小規模な薬局と同様に調剤基本料1が算定されている」ことを問題視し、「経営の実態も踏まえながら、処方せん集中率が高い薬局等における調剤基本料1の適用範囲等を見直す」べきと主張している。
地域支援体制加算については財政審は要件の厳格化を求めている。「調剤基本料1の薬局を対象とした地域支援体制加算1・2の要件について、地域医療に貢献する薬局を重点的に支援する観点から抜本的に見直す」としている。「見直しの例」としては、「処方せん集中率が高い薬局の後発品調剤割合要件の見直し、残薬への対応や減薬の提案に係る実績の必須化、 地域連携薬局の認定を受けていることを要件化」としている。

こうした議論に対し、山本会長は、日薬会見の直前まで財政制度審議会財政制度分科会が開かれていたことから、「資料を読みきれておらず全体のトーンまでは把握しきれていない」と前置きしつつ、「まず何がどうだろうと財源確保は至上命題だ」と断言した。
薬局の経営状況については、医療経済実態調査の結果などを基に日薬が分析した「改定影響調査」では、薬局の約3割が赤字経営となっている。最頻階級における損益差額については「年間マイナス163万円」となっている。これらは調剤報酬に占める薬剤費の比率が74%となっている薬局において、頻回・過度な薬価改定の影響はより色濃く出ているとの懸念があることに加え、昨今の医薬品供給の不安定化により薬局の業務負荷が増大しており、経営収支のさらなる悪化も懸念されるところだ。山本会長は「よそさまが言うほどに(薬局の経営は)楽な状況ではないことははっきりしている」と述べ、薬局の極めて厳しい経営状況を訴えるとともに、通常、秋以降に示される医療経済実態調査の最新結果についても、仮に単純な前年比が改善していたとしてもコロナ禍のマイナス分を考慮すべきとの懸念も示した。

山本会長「そもそも基本料を対象にするのか?」

財務省の案に対しては、調剤基本料を対象としていることに懸念を表明。「そもそも調剤基本料を引き下げの対象にするのか」(山本会長)と述べた。調剤基本料はその名称の通り、薬局の基本的な業務、運営コストに関わるもので、調剤基本料の引き下げは薬局全体へ影響する。裏を返すと、財政影響の大きな項目であり、それだけに日薬の警戒感と反発は強い。

山本会長は、今回の議論に対して、あくまで「“財政審としては方針を示した”ということ」との見方を示し、それに対し、「われわれとしては納得できないという立場」と言及。「やはり、“そうではないんだ”とわれわれは主張していく。医科でいえば医療提供体制、われわれでいえば医薬品提供体制がしっかり組まれなければ、どんなに(賃金が上がって国民の)収入が増えても、健康ではいられなくなってしまう。それは国民にとっても大きな課題であるはずだ。そこがしっかり担保できるような報酬体系を組めるよう、財源を確保いただきたいと主張する」(山本会長)。

その上で、山本会長は、今後の社会保障審議会(社保審)や中医協での議論を注視していく考えを表明。「財政審の言っていることはあくまで財政上のバランスをどうするか(が主眼)。“いつもの通りのやりとりだ”と言ってしまえばそれまでだが、そうとも言っていられず、緊張感は持っている」とした上で、「6月には骨太方針で予算を決め、社保審で全体の医療体制をどうするかの方針を議論し、中医協でも議論していく。その部分については十分に認識している。それ(社保審方針)は僕たち(日薬)が決めるものではなく、国の方針」と述べ、議論の場は社保審や中医協であるのが本筋との考えをにじませた。

集中率と経営実態、「医療リソースが豊富なところとそうでないところで全然違う」

具体的な財政審分科会の主張については、山本会長は、「財務省(の要求水準)については“高めのボール”とも言われているが、“小さい話だよね”というところも含めて彼ら(財務省)が投げている球は高い」と指摘。6月の予算執行調査における方針からは追記された部分があることについては、「書き振りが変わろうとも、うち(日薬)は反対だ」と明言した。

処方箋の受付医療機関の集中率に関して財政審分科会で「経営の実態も踏まえながら」、基本料を見直すべきとしていることについては、「医療リソースが豊富なところとそうでないところで全然違う。それが(財務省のいう)“経営実態”なのか。1病院や1診療所(の地域)であれば、極めて(そこの薬局の)経営効率はいいことになってしまう。それは違うのではないか。そういう意味ではうち(日薬)としては賛成しかねる。まだこの議論は早い」(山本会長)とした。

地域連携薬局、「いったい今、いくつあるのか。まだそこまでいっていない」

山本会長は続けて、地域支援体制加算の要件議論についても指摘。「地域支援体制加算に関していえば、地域医療を支える目的でつくられているものであり、それにかなった仕事をして算定できるものを算定することについては当然のこと」と前提について言及。地域連携薬局を要件化することについては、「地域連携薬局の認定を受けたからそれでいいのかというと、機能していなければ意味がない」とすることに加え、「いったい今、いくつあるのか」と述べ、財政バランスに重きを置いた議論には警戒感を示した。「地域連携薬局をどうするかは以前から言われていた(論点だ)。そう考えると、まだまだそこまでいっていない。それを育てるための点数というなら、また別の見方があるかもしれない。しかし(財務省案は)そういう意味合いでもなさそうだ。そこは冷静に見ていかなければいけない」と述べた。

地域支援体制加算の要件に関して、「処方せん集中率が高い薬局の後発品調剤割合要件の見直し」や「残薬への対応や減薬の提案に係る実績の必須化」などを求めていることに対しては、「いろいろなものをないまぜにして、議論することはどうなのか」と懸念を表明。調剤基本料に関しては薬局の根幹を支える項目であることを繰り返し強調していた。

同日の会見では10月30日の「自民党 予算・税制等に関する政策懇談会」や、10月19日「自民党 薬剤師問題議員懇談会」に提出した資料も記者に共有された。物価高騰については紙や電気代、ガソリン代などの物価高騰に対して、95%の薬局が負担増を感じているとの調査結果のほか、賃金上昇については全産業では4割でベースアップが実施されているが薬局では2割しか実施できていないことなどについても提示された。

【編集部より】
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