「お見送り会」「いにしえのルール」…CD初動売り上げ450万枚!大バブルのK-POP・韓国版AKB商法

10月21日、ソウル高尺スカイドームで開催されたStray Kids公演でのアリーナ席の様子(一部、保護加工あり)

“セブチ”ことSEVENTEENや、“スキズ”ことStray Kidsなど、K-POPアーティストが今夏にリリースしたCDの初動売り上げが各450万枚超と、異常ともいえるセールスを記録している。

楽曲やパフォーマンスのクオリティはもちろんハイレベルなのだが、どうしてK-POPだけがこんなにも売れるのか――それは「ケーポヲタ(K-POPヲタクの略)」が特典券欲しさに大量買いしているから。

かつて、アイドルというのは雲の上の存在で、テレビやコンサートなどのイベント会場で応援するのが常。CDの購入も「視聴用」「保存用」「布教用」と多くても3枚程度だったが、2010年頃からAKB48をはじめとする「48グループ」が握手券を封入したCDを販売。

ファンは大好きなアイドルと接触するために同じCDを大量に購入。これに端を発し、商法は一気に過熱。アイドルは「会いに行ける存在」となった。

韓国では、アーティストがカムバックする(新曲をリリースすること)とサイン会が開催される。これに参加するには、公式サイト等で指定されたショップでCDを購入し、参加権を得なければならない。

CD1枚の購入ごとに応募券が1枚配布され、当選者は1回のサイン会につき100名程度とされている。中には1枚で当選するラッキーな人も稀にいるが、購入枚数が多ければ多いほど、当然確率は高くなるとされるので、10枚、100枚と大量買いするのが常識となっている。一部には、100枚入りのCD箱を何箱も買うツワモノも。中に入っている特典のトレーディングカードや抽選カードだけ抜き出し転売するのを目的とし、購入資金を取り戻す人もいるという。

なぜ大金をつぎ込んでまで参加したいのか……。

「わずか数分の間だけでも、大好きなアイドルを独占できるから」とファンは目を輝かせて語る。

サイン会では壇上にメンバーが並んで着席。ファンも順番にメンバーの前に長机をはさんで座り、わずかな“逢瀬”を楽しむ。韓国のCDはブックレット状になっているものが多く、好きなページに自分の名前や質問を書いた付箋を貼り、メンバーに提示。

その間、自由に会話を交わすことができ、ファンは「1分間だけ彼氏になって」や「元気が出るメッセージをちょうだい」「ニックネームをつけて」などリクエスト。

アイドルもプロなので、ファンと指をからませたり、頭をポンポンしたりなど、日本では考えられないようなファンサービスで応えてくれる。

さらに、日本ではイベントなどでアイドルを撮影することは完全NG。

「日本と違って、韓国のサイン会だと、自分がサインをしてもらっている時間以外は動画も静止画も撮影OKなんです」(女性ファンSさん)

アイドルも撮られることを意識して、次々とキュートなポーズをとってくれる。

また、あるファンは、「推しの姿を思い出として残すために、そして、どうせ記録するなら高画質なものを残したいので、思い切って高価なカメラを購入しました」と熱く語る。アイドルのイベントに似つかわしくないバズーカのような望遠レンズを持った女性たちがひたすらシャッターをきる不思議な光景が見られる。

この旨味を知ったファンは、もう一度あの夢のようなひと時を体験したいと、より応援(購買)に熱が入るといったシステムだ。

しかし、コロナ禍でこのようなイベントが一切できなくなってしまい、そこにヨントンと呼ばれる特典会が登場。ヨントンとは「ヨンサントンファ」の略で、映像通話を意味するもの。直接会わなくても、PCやスマホを通してアイドルと会話を楽しむことができる。

そんなイベントがいつの間にか日本でも行われるようになり、また、BTSがワールドスターとなったことからファン層が拡大。100枚単位でCDを購入しないとイベントに参加できない事態が発生し、令和の世に“AKB商法再び”の風潮となっている。

最近ではイベントの終演後に会場の出口や指定された場所でアイドルがファンを送り出す「お見送り会」なるものが頻繁に開催されており、これもCD購入でもらえるスクラッチカードや1枚600円程度のファンクラブ限定くじで特典券をゲットしたラッキーな人しか参加できない。その場から動かず笑顔を浮かべるアイドルの前を、行列をなしたファンが通過していく光景は、まるで上野動物園のパンダの展示スペースのごとく。

はたから見ると異様に感じるかもしれないが、それでもファンにとっては至近距離で憧れのアイドルと対面できる貴重な機会だ。

しかし、ファンは若い世代の女性が中心。経済的に限度がある人がほとんどなので、バイトを掛け持ちする人、さらには夜職をしてまで資金を調達する女性が増えているという。

「チェキ撮影会」や「サイン会」に参加すると、同じ人が何度も並んでいる様子が見られる。これを「ループ」と呼ぶのだが、ただ大好きなアイドルとの交流を楽しみたいという人から、中には「私の推しは行列が途切れないほど人気がある」と、周囲にアピールするために複数回並ぶ人もいる。

このように健気なサポートで成り立つアイドルとファンの関係だが、ファン心理とは複雑なもので、「推しに人気が出るのは嬉しいけれど、手が届かなくなるようなスターになると、接触できる機会が減ってしまって寂しい」と途端に熱が冷めてしまうという人も少なくない。

そういう人たちはまだ世間に見つかっていない金の卵を発掘し、人気者に押し上げるべく、そして、接触の時間を楽しむべく、また新たな“推し活”へ移行。彼女たちはこれまでの経験と知識をもっているので、新規ファンに現場での立ち振る舞い方など「古(いにしえ)のルール」を伝授していく。

もっとも新規ファンにとっては、これをありがたいと受け取る人もいれば、「小姑の戯言」と受け取る人もいるらしい。

●桁枚を買ってやっと当選という人も多い中、なんと一回で当選したという幸運過ぎるファンもいた。

「同行の友人に連れられ、会場ブースでCDを5枚だけ購入。公演帰宅後に指定のサイトへシリアルナンバーを入力し、結果が出る抽選方法でした。

なんと1枚目で推しメンバーのサイン会が当選! 3桁、4桁レベル枚数のCDを購入しないと当選しないのでは? と噂では聞いていたので、本当に幸運でした」(女性ファンAさん)

ただ、イベントに参加するためのボーダー(CDを何枚購入すれば当選するかなど)を教えることだけは暗黙の了解でNGとされている。

さらに、ここへきて、日本で長きにわたって男性アイドル界を牛耳ってきたジャニーズ事務所が、創業者である故・ジャニー喜多川氏の性加害問題により崩壊。その他、オーディション番組出身のボーイズグループが雨後の筍のごとく誕生し、幾度目かの男性アイドル戦国時代に突入したことから、マーケットはさらに過熱することが予想される。

この戦国の世をはたしてどのグループが制するのか、そして、大量購入されたCDの行方は…。そんな世情を書き連ねながら、筆者宅にも同じCDが多数眠っていることを思い出してしまった。同じようにすべてのヲタ宅に眠っているCDたちが、せめてCDとしての役割をはたし、運命を全うすることができますように。

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