ブランドの姿勢を伝え、消費者を巻き込み行動変容に導くコミュニケーションとは:SB特別企画「BRANDS FOR GOOD+ SUMMIT 2023」(2)

9月27日に開催された「BRANDS FOR GOOD+ SUMMIT 2023」のセッションに、HPと日本航空、SB国際会議 アカデミック・プロデューサーの青木茂樹氏が登壇し、各社の事例をもとに、生活者とサス

日本航空は、飛行機を利用する際にできる“ちょっとした”サステナブルな行動を紹介する「#かくれナビリティ」で、生活者とコミュニケーションを図っている

テナビリティに関するコミュニケーションについて議論を深めた。ブランドの姿勢を伝え消費者を行動変容に導くコミュニケーションとして、HPは自社の印刷技術を使いメディア機能を付加した商品パッケージによる事例を紹介。またBrands for Goodが開発した「Pull Factor Workshop」を体験した日本航空は、生活者視点で発信する「#かくれナビリティ」の取り組みを発表した。(松島香織)

Session-2
デジタル印刷パッケージの戦略的活用によるブランドと消費者の新たな繋がり方

講演者:
仲田 周平・日本HP デジタルプレス事業本部 事業企画部カスタマーサクセス シニアスペシャリスト

生活者との共感を生み、行動変容を促すサステナブル・ブランディング

講演者:
鈴木 紳介・SB国際会議 カントリー・ディレクター

Brands for Goodは米国サステナブル・ブランドのタスクフォースとして2019年6月にスタートした。ネスレやP&G、ユニリーバなどの企業が参加し、ブランドの力で生活者の行動変容を促し、生活者のライフスタイルを持続可能にすることを目指している。日本で実装しているBrands for Goodのフレームワークには、「JSBI(Japan Sustainable Brands Index)」「Socio-Cultural Trends Research [^undefined]」、「Pull Factor Workshop」の3つがある。

(講演資料より)

Socio-Cultural Trends Research [^undefined]は、Brands for Good が設定した「9 SUSTAINABLE BEHAVIORS」のアンケート調査を実施。「気候変動への対応」など9つのサステナブルアクションについて、日本の生活者の約半数が「しなやかで多様な社会の促進」の3項目で「まったく行っていない」と回答した。その理由として、SB国際会議 カントリー・ディレクターの鈴木紳介は「情報不足がもっとも多い」と説明し、「ブランドとして、情報不足を補うようなコミュニケーションをとっていくことが重要」だと強調した。

HPの印刷技術で商品パッケージにメディア機能を付加

仲田氏

HPはBrands for Goodの主要メンバー企業で、「インディゴ」というプリンターの活用から取り組みを進めている。その背景として、日本HPの仲田周平氏は、「従来のマーケティング方法では、今の消費者に通用しない」と話し、同社では、国際的な広告アワードのカンヌライオンズに応募された過去9000件以上を分析。メディアとしてパッケージを活用することが有効だとわかったという。

パッケージを活用した事例として仲田氏は、LGBTQ+の多様性を支援する視点を表現した「スミノフウォッカ」、COVIT-19と戦う医療関係者の画像とストーリーを印刷した限定ボトルを販売したインドの消毒液のブランド「DETTOL」を紹介した。いずれもコミュニティとの共創や、パンデミック時に医療従事者を称えると同時に、国民に希望を持たせるストーリーの発信で消費者に支持され、売り上げ成長につながった。

またチョコレートメーカーのハーシーズは、自社の名前である「Her」「She」という言葉の言葉遊びを通じた女性の支援を、限定版のチョコレートパッケージで表現した。ブラジルのキャンペーンではSNSで5000万の表示回数を超え、600%もの売上成長率を記録した。このキャンペーンはその後、複数の国で展開され多くの広告賞を受賞したという。

(講演資料より)

最後に仲田氏はドイツの花王の取り組みを紹介した。同社は、カラフルなパラパラ漫画を使い子どもたちに手話を教え、言葉の壁のないコミュニケーションをサポートしているスタートアップ会社talking hands(トーキング・ハンド)の事業内容に感銘を受け、GUHL(グール)のシャンプーボトルのパッケージに起用した。パッケージには、シャンプーの使い心地を表現したドイツ語の手話のイラストが描かれている。

さらに限定版のボトルには1本につき1ユーロの寄付を付け、talking handsの活動支援金となる仕組みを設けた。結果、11%の売り上げの上昇が見られたという。仲田氏は、「こういったパッケージは、ブランドの姿勢を伝えて消費者を巻き込んで共創を促し、さらに行動変容に導くもの。非常に意義の高い成功した事例」だと話した。

仲田氏は、更なるHPの取り組みとして、Bコーポレーション認証を取得した英国のOneDrive社と、CO2削減に貢献する「ネットポジティブプリンティング」に基づいたサービスを開発中だと説明。パッケージ印刷を行う際にCO2の排出量を計算し、マイナスカーボンまで補正する場合は認定書を発行するという。

Session-3
Sustainable Marketing 3.0ー生活者のWell Beingをドライブする戦略展開へー

講演者:
青木 茂樹・SB国際会議 アカデミック・プロデューサー/駒澤大学 経営学部 市場戦略部 市場戦略学科 教授

青木茂樹氏はまず、「サステナブルマーケティング3.0」について説明。サステナブルマーケティング3.0とは、さまざまな企業やNGOなどと連携しながら、自社のコアバリュー、リソースを共有し社会問題を解決していく状態だという。

(講演資料より)

そのなかで重要なテーマが、サーキュラーエコノミーだ。また脱炭素の取り組みも重要であり、青木氏は「スコープ1、2には多くの企業が取り組み、数量化もできる。だが問題はスコープ3で、2050年にカーボンニュートラルを達成するために、生活者を巻き込んだ取り組みが必要」だと話した。「まさに今日のテーマである、生活者をウェルビーイングに導くような商品開発、プロモーション、コミュニケーションが重要になってくる」と続けた。

また青木氏は、取り組み方法には、「サステナブルエンジニアリング(SE)」と「サステナブルブリコラージュ(SB)」があると説明した。SEは自社のGHG排出量データを積み上げていくことなどだ。一方、今ある資源を有効活用し、創造的なプロセスで推進する手法がSBだ。例えばフランスには駅舎の復興を利用したカフェや、敷地内で有機農業をするなどした複合施設があり、市民を対象にワークショップを開催している。

(講演資料より)

「生活者が経験を通じ『こういった社会を実現していきたい』という行動につながることが、ウェルビーイングでありサステナビリティ」だと青木氏はいう。またデンマークの町中に建設されたスキー場でもあるゴミ焼却場・コペンヒルを例に挙げ、「私達が生活で捨てたものをあえて視覚化し、循環型社会を改めて認識してもらう。こうした大胆な取り組みが必要ではないか」と青木氏は強調した。

最後に青木氏は、「サステナブルマーケティング3.0における5P」として、「社会課題に対しパーパスを掲げ、市場競争では差別化し、取り組み目的に合意し役割分担したパートナーシップを組み、その事業活動がステークホルダーから称賛され社会的なムーブメントを起こすものであること。その結果として、社会の繁栄につながっていることが大事」と結んだ。

Session-4
PULL FACTOR WORKSHOP:社内変革をもたらす新たなコミュニケーションアプローチ

講演者:
石川 恭子・日本航空 CX戦略部 主任
西岡 桃子・日本航空 ESG推進部 主任

Facilitator:
Brands for Good コミュニケーション・プロデューサー/一般社団法人 NEWHERO 代表理事
高島 太士

Pull Factor Workshopは、ターゲットである生活者“ペルソナ”の思考を徹底的に考え、「7 NEED STATES」」「9 SUSTAINABLE BEHAVIORS」を掛け合わせ、生活者をグッドライフに導くアイデアを引き出すワークショップだ。

今年の1月にPull Factor Workshopを体験した日本航空の西岡桃子氏は、「さまざまな部署から合計20人が参加した。通常業務ではベクトルが違うことがあるが、一つのことにフラットになって取り組み、お互いを知ることができた」と振り返った。さらに西岡氏は「サステナビリティ=我慢というイメージが、社内外であると感じているが、実は“ちょっとした”気づきや行動がサステナブルにつながっている」と続けた。

Pull Factor Workshopを経て、同社は社会に向けたコミュニケーションを考えるチームを発足。利用者が増えるゴールデンウィークに、顧客との接点を意識したコミュニケーション、「#かくれナビリティ」をローンチした。「搭乗前にトイレに行くこと」など、飛行機を利用する際にできる“ちょっとした”サステナブルな行動を紹介している。

(講演資料より)かくれナビリティ https://www.jal.com/ja/sustainability/kakure/

「飛行機は機体が重いほどCO2の排出量が増えてしまう。“塵も積もれば山となる”だが、利用者が搭乗前にトイレに行って軽くなるとCO2が減らせる」と同社の石川恭子氏は説明した。利用客からは「こんなことがサステナビリティになるのか」といった声が寄せられたという。「逆に航空業界では当たり前だと思っていたことが、社外の方からみると面白いことなのだと気づきを得ることができた」と話す。

石川氏
西岡氏

社内にはそれまで、利用者にサステナビリティをどう説明したらいいかわからないという課題があったという。だが、生活に密接した、誰でもできる内容の「#かくれナビリティ」は理解しやすく、取り組みの一助となっている。また同社としては、ゆるいキャラクターやポップなデザインを用いることは、新しい取り組みだった。結果、社内外から良い反響があり、今後も旅行シーズンや年末年始などの繁忙期に向けて展開していく予定だ。

最後にファシリテーターの高島太士氏は「生活者視点で考え、事業に結び付くプロジェクトを考えたりすることで、自分も心が豊かになれたか」と質問。石川氏は「CX戦略部は将来的なことを考える部署で、他部署と話すと『理想論だ』と言われていた。なかなか理解してもらうことが難しかったが、最近は『#かくれナビリティ』が浸透してきて対応がしやすくなった」と笑顔で答えた。

西岡氏は「航空会社なので、CO2排出量削減など大規模な取り組みをしているが、事業の最前線の部署はどうしてもベクトルが少し違う場合がある。私達の言いたいことを一方的に押し付けるのではなく、お客さまがどう思うかという生活者視点に立つと、みんなが共通認識を持てる」と、「#かくれナビリティ」をきっかけにした明るい展望を話した。

Pull Factor Workshop
生活者の持続可能なライフスタイルを促すコミュニケーションを構築するためのワークショップです。マーケッターやブランドリーダーをはじめ、あらゆるセクションが結束し、新たなアクションを創出するためにBrands for Goodsが開発したプログラムです。

【2023年12月まで期間限定トライアルを実施中】
詳細はこちら
サステナビリティ視点でブランド×生活者のコミュニケーション開発を支援するサービス「SB Pull Factor Workshop」の提供開始
https://www.sustainablebrands.jp/community/column/detail/1216450_2557.html

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