消防遺族「どうか無事に」 茨城町で慰霊祭 職務の安全祈る

県消防殉職者慰霊祭で献花する消防関係者ら=茨城町長岡

茨城県立消防学校(同県茨城町長岡)に立つ慰霊碑に、消防・救助活動中に命を落とした殉職者79人が合祀(ごうし)されている。遺族は親から子、孫へ世代が代わっても故人をしのび、安全な地域社会の実現とともに、消防職員・団員たちに「無事に帰ってきて」と願い続けている。

茨城町の中村君江さん(77)は、大正時代に同町であった火事で、祖父の中村倉次さん(当時35歳)と叔父の勝次さん(当時24歳)を亡くした。

中村さんによると、電気が通り始めたばかりの商店街で火災が発生。消防団長だった倉次さんは放水中に焼け落ちた電線に接触し、後ろにいた勝次さんも感電した。中村さんの祖母は当時33歳で、5歳の長男と残された。祖母は苦労して長男を育て上げたという。

祖母は、事故のことを話さなかったが、幼いころから自宅には若い2人の遺影があり、中村さんも祖母に連れられて小学校入学前から慰霊祭に参加。「子ども心に聞いてはいけないと思っていた」。殉職のことを知ったのは大人になってからだ。

祖母が亡くなると父が欠かさず出席していたが、25年前に他界。以来、ほぼ毎年足を運んでいる。「ここに来ると、心の整理が付くから」。来年も出席するつもりだ。

自宅近くには消防団詰め所。中村さんは、サイレンの音を聞くたびに「どうか家族の元へ無事に帰ってきてほしい」と懸命に活動する職員・団員の安全を願っている。

■殉職79人を追悼

県消防殉職者慰霊祭が2日、同学校で開かれ、遺族や消防関係者ら約300人が参列し、消火や救助活動中などに命を落とした消防職員・団員79人を悼んだ。

慰霊祭では、参列者全員が黙とう。県消防協会の葉梨衛会長は「懸命に消防任務を遂行中、尊くもその職に殉じられた御霊(みたま)に、深く哀悼の誠をささげる」と述べ、遺族代表とともに慰霊碑に花輪をささげた。

大井川和彦知事は、県内に甚大な被害をもたらした6月の台風2号や9月の同13号に伴う大雨を挙げ、「これらを乗り越えられたのも、殉職者の崇高な使命感と献身的な思いやり、卓越した行動が受け継がれているから」と追悼し、安全な地域社会の実現に向けて誓いを新たにした。

参列者たちは慰霊碑前で献花を行い、殉職者を悼んだ。終了後は、県と同協会主催の県消防大会が開かれ、功労者らが表彰された。

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