高円寺の人気喫茶『七つ森』で、ザ・レトロなプリンと身体に優しいカレーを味わう

JR高円寺駅から徒歩で7分程度。下町情緒あふれる商店街の途中にある人気喫茶『七つ森』。現在では見ることの少なくなった瓦屋根と、店名が入った大きな看板が目印の老舗喫茶店です。

昭和53年にオープンして以来、こだわりの食材で作る食事とスイーツが自慢。店内は店主の趣味がとことん反映されたアンティークの家具や雑貨で満たされています。

今回は店主に取材し45年の歴史を振り返りながら、愛され続けるちょっと大きめのプリンと身体に沁みる人気カレーについてお伝えします。

モノ、もの、物。見ているだけで楽しい、昭和時代にタイムスリップしたかのような店内

“まるで家のリビングのように人が集まる居心地の良い、都会のオアシスを作りたい“という店主の思いから出来た『七つ森』。

店内に入ると、そこはまるで昭和の世界。うっすらとくすんだ白壁の色が長い年月を感じさせます。店内が奥に長いのは元々自宅兼お茶屋だったという長屋をリノベーションしたからで、天井を見るとその痕跡が。天井からはがっしりとした梁が顔を出し、建物をしっかりと支えています。

店で使用されている家具や雑貨は全て、店主が少しずつ集めたアンティークや骨董品なんだとか。天井に吊るされたシャンデリアはイタリア、席によって異なる椅子は京都から。世界中から集められたモノが混在し、『七つ森』ならではの雰囲気を作り出しています。

“ちょっと大きめ”が愛の証。ザ・レトロな固めプリンを味わう

『七つ森』では、提供される全てのメニューが安全安心と環境に配慮した手作りのみ。中でも定番の「カスタードプリン」は創業当時からある人気スイーツなんだとか。

こだわりの卵を使っているため、濃厚でスプーンのひらをポンっと落とすと跳ね返るほどしっかり固め。食べ応えのある食感ながら、滑らかな印象も残すなんとも絶妙な味わいです。

そしてガラスのカップにたっぷりと入ったカラメルは、「カスタードプリン」と一緒に食べることで程よい苦みが加わり、素朴ながら記憶に残る味わいです。

“喫茶店の定番であり、身近に贅沢を感じられるプリンは外せない”と、店主が創業当時考えた商品のひとつだそうで、他の店との差別化と一皿でしっかりと満足してもらいたいという思いからサイズを大きくし、「ジャンボプリン」という名で販売していたそう。現在は「カスタードプリン」と名前は変わりましたが、サイズは当初のまま。

食べた人が思わず笑顔になる姿も、今も昔も変わらないプリンの魔法です。

『七つ森』に来たら食べたい。身体に沁みる「野菜カレー」

最初はコーヒーと軽食のみのメニューだったという『七つ森』。しかし、時代の変化と共に食事も提供するように。80年代ごろには「自家製のカレー」や「オムごはん」をメニューに追加。現在のような多種多様な品揃えになりました。

自家製カレーは「野菜カレー」、「キーマカレー」、「ココナッツカレー」の3種類で、どれも本格派。複数のスパイスを使い味に深みを加えるだけでなく、食材にこだわった『七つ森』のカレー。使用する野菜は学生時代からの縁で、無農薬の野菜のみを栽培する農家から送ってもらっているそう。

「野菜カレー」は季節の野菜が使われ、きりっと辛口。食べると野菜の歯ごたえがあり、素材本来の優しい甘さを感じられます。また『七つ森』の個性を感じられるのが、材料に大根が入っているところ。気付かずに食べると一瞬、これはなんだろう?となりますが、噛めば噛むほど出汁が感じられて、どこか懐かしい味わいです。

『七つ森』っていったい?描かれたフクロウは何者?

気になるのが『七つ森』という店名と、看板にも描かれているフクロウについて。

伺うと、『七つ森』とは店主が愛読する宮沢賢治の詩集の中に登場する土地の名前なんだとか。実際に“七つ森”は岩手県・盛岡市にあり、秋田街道沿いにポコポコと顔をだす7つの山からその名が付いたそう。

そしてフクロウは、店主が偶然手に入れたアメリカの童話『Owl at Home』の主人公であるフクロウから着想を得たものとのこと。著者は、国語の教科書にも起用された『ふたりはともだち(原題:Frog and Toad Are Friends)』で知られるロサンゼルスの作家アーノルド・ローベル。ちょっとおとぼけな主人公・フクロウの日常が描かれた本作品。物語に漂う居心地の良さは、喫茶『七つ森』で過ごす時間に似ています。

大学は立命館大学に通い、学生運動にも積極的に参加していたという店主。この時の経験が自分の基盤になっていると、取材の最後に語ってくれました。

店主「学生運動をしていたときは、高速回転する日本の開発状況に疑念を抱き、早くから健康被害やフードロスなどの環境問題に深い関心がありました。そんな思いが、『七つ森』をオープンするきっかけになったと思います。現在も初心を大切に、美味しくて、当たり前に安心安全であるものを提供し続けたいと思っています」

番外編|『七つ森』店主とゆっくり読書

『七つ森』の店内には至る所に本があります。これは学生時代、文学サークルだった店主のコレクション。

かなりの愛読家である店主のお気に入りは、高橋和巳の『悲の器』。彼の作品は全集を揃えるほどで、考え方や思想に多大な影響を受けたと言います。

みなさんもぜひ、お気に入りの本を片手に『七つ森』を訪れてはいかがでしょうか。

About Shop
七つ森
東京都杉並区高円寺南2丁目20−20
営業時間:10:00~23:00
定休日:なし

園果わたげ

ウフ。編集スタッフ

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ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。

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