全国でも初めてとなる「国立自然史博物館」を沖縄に誘致しようとの動きが活発化している。
10月に名護市で開かれたシンポジウムで、同博物館設立準備委員会代表理事の岸本健雄・お茶の水女子大客員教授は、復帰60年となる2032年の開館を目指すとの目標を示した。
岸本氏は「生物多様性が高く、自然豊かな沖縄は最適な立地」だと太鼓判を押す。
県は「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」の中に国立沖縄自然史博物館の設置促進を盛り込み、PRに乗り出している。
なぜ沖縄なのか。最大の理由は、琉球列島が世界的に見ても生物多様性の高い地域であること、アジアにおける自然史研究の拠点になり得る地理的優位性を備えていることだ。
この構想にもろ手を挙げて賛同したい。
はるか昔、大陸と地続きだった琉球列島は、地殻変動によって大陸から切り離された。
島々に閉じ込められた生き物は、島ごとに独自の進化を遂げた。琉球列島に数多くの固有種・希少種が生息するのはそのためだ。
「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の4地域が世界自然遺産に登録されたのは、21年7月のことである。
アジア初の本格的自然史博物館が設置されれば、世界自然遺産との相乗効果によって沖縄そのものが世界から注目されるのは間違いない。沖縄が進むべき方向性を指し示すものになるだろう。
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そのような将来像を実現するためには、多くの課題に向き合わなければならない。
観光客増に対処するオーバーツーリズム対策や輪禍を防ぐロードキル対策、河川の再生に森林の管理-世界自然遺産を保全・管理するための課題は山積している。
やんばるの森は、国内最大級の亜熱帯照葉樹林が広がり、そこでしか見られない貴重な動植物が生息・生育している。カルスト地形やマングローブ林など自然景観も多様である。
北部訓練場のうち約4千ヘクタールは16年に返還され、やんばる国立公園に編入された。
大きな難点は、同訓練場跡地から今も米軍廃棄物が見つかるなど原状回復が完了していないこと、米軍北部訓練場として使われている一部区域が自然遺産登録区域と隣接していることである。
実効性のある対策が必要だ。
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国際的な海洋生物学者として名高いレイチェル・カーソンは、森や海辺や空などの自然に触れたときの喜びや、驚きに満ちた生命の輝きを書きつづった。
彼女の死の翌年に出版されたこの本は「センス・オブ・ワンダー」というタイトルが付いている。
世界中の子どもに「神秘さや不思議さに目を見張る感性」を授けてほしい、との願いが込められているという。
世界自然遺産や自然史博物館に私たちが期待するのも「センス・オブ・ワンダー」を育むことである。