ごみ処理施設の火災で再稼働に数億円(静岡・湖西市) スマホなどに内蔵…危険な「リチウムイオン電池」沼津市でもごみ収集車が焼け

周りがかすむほど立ち込める“黒煙”。煙の中には炎も見えます。10月20日、静岡県沼津市で、ごみ収集車の荷台が燃える車両火災が発生しました。沼津南消防署によりますと、運転手から「走行中に荷台から煙が出ていた」と通報があり、火はおよそ2時間で消し止められたということです。

今回の車両火災。消防によると、火災の原因は「リチウムイオン電池の発火」と推測されるということです。スマートフォンやモバイルバッテリーなどの身近で使う電子機器に内蔵されている「リチウムイオン電池」。今回、なぜそこから発火したのでしょうか。

圧力をかけると…大きく変形し出火

これは東京消防庁による、リチウムイオン電池に圧力をかけた実験映像です。

リチウム電池は弾けた瞬間大きく変形し、大量の煙とともに勢いよく燃え始めました。東京消防庁によりますと、リチウムイオン電池は外から強い力を受けると熱が発生し、発火や爆発につながる危険性があるといいます。

ごみ収集車は修理に…

栗田麻理アナウンサー:「こちらが実際に火災があった車両です。後ろの部分は1mほど黒く焼け焦げてしまっていて、塗装もはがれています。そして4日経ったいまでも少し焦げた臭いがします」

荷台が黒く焼け焦げてしまった車両。現在は静岡市内で修理中です。

モリタエコノス静岡支店 島浩雅副工長
Q.(荷台部分は)もう動かない?

A.「動かない。前から操作するハーネスがあるが、それが全部燃えてしまっているので、あと油圧のホースも燃えてしまっているので、今はもう完全に動かない」

荷台の天井部分を見てみると完全に焦げてしまい、配線も溶けて使えなくなっていました。損傷は激しく、通常の車両と見比べてもその差は歴然です。

近年、こうしたリチウムイオン電池による車両火災は増えているといいます。

モリタエコノス静岡支店 島浩雅副工長:「前はガスライターの火事だったりとか、カセットコンロのガスボンベのガスが漏れて引火するような形だったが、最近はモバイルバッテリーだとか、リチウムイオン電池の火災がだんだん増えてきている」

環境省の調査ではごみ収集車などでの火災を含む、リチウムイオン電池が原因の出火は2021年度で1万2765件。前年度からおよそ3000件増加しています。

市民に火災の危険が認知されていない

ゴミ収集車を管理している施設側は…。

沼津市生活環境部クリーンセンター収集課 森剛彦課長:「いわゆるモバイル系の家電製品が普及されて、そういうものの駆動電源としてのバッテリーが非常に普及している。これだけ普及してくると、火災原因という大きなデメリットも考えていかなければいけないと感じている」

Q.(危険性の)認知度もあまりない?
A.「普及のわりには、危険性の認知度はまだまだ低いと思う」

こちらの施設では去年、リチウムイオン電池が原因の発煙が3件発生し、いずれもごみ収集車の中で起きました。

「収集袋に入っていると…」

リチウムイオン電池が発火する危険性は分かっているものの、対策するには難しさがあるといいます。

沼津市生活環境部クリーンセンター収集課 森剛彦課長:「バッテリーが外されているかどうかは、目視で確認するが、小型家電も非常に小さくなっていて、何か見えないような形で収集袋にいれてしまうと、限られた時間で回収しなければいけないため、なかなか見分けがつかない」

ごみを集める段階での分別は、目で確認するしか方法がないため、当然限界もあるといいます。こうした事態に施設では危機感を感じていました。

沼津市生活環境部クリーンセンター収集課 森剛彦課長:「たまたま今回車両火災だったが、施設で起きると、非常に大規模な被害になることも考えられるので、その辺りも十分注意していかなければいけない」

湖西市では施設に被害が

県内では実際に“大規模な被害”を受けた施設がありました。

湖西市廃棄物対策課 石田千博課長:「こちらが火災があった現場になります」

栗田アナ:「結構中真っ暗ですね」

石田課長:「こちらの黒い塊は、ベルトコンベアの燃え落ちたものになります」

栗田アナ:「これがまるごと落ちてきた?」

石田課長:「本来はこのローラーに巻き付いているものが焼け落ちてしまっている状態」

湖西市のゴミ処理施設、湖西市環境センターでは、月におよそ60トンの燃えないゴミを処理しています。そんな市民生活に欠かせないゴミ処理施設で今年5月、燃えないごみの中に混ざっていたリチウムイオン電池が原因とみられる火災が発生しました。現場にはその痕跡が今も残されています。

栗田アナ:「あと何よりもこの電話(コンベアのすぐ近くにある)、ぐにゃぐにゃですね。これはどうしてこうなった?」

石田課長:「本来だと、こちら扉が閉まっている状態なので火が外に出ることはないが、かなり中の熱でこの一帯が高熱にさらされて、こういった電話も変形してしまった状態」

その影響は、コンベアの上部にも。天井の鉄骨はぐにゃりと曲がり、近くのスイッチは配線がむき出しになっています。

湖西市では、ゴミ収集車から持ち込まれた燃えないごみは砕いてから可燃ゴミ、金属類などを取り除き処分されます。しかし、リチウムイオン電池は発火の危険があるため、この「燃えないごみ」には入らず、他の決められた曜日に出すか、特定の回収場所へ持って行く必要があります。

今回の火災は、その燃えないごみを運ぶコンベア付近で発生。2人の職員が煙を吸ってのどの痛みを訴え、救急搬送されています。

5カ月たっても稼働できず、再稼働に数億円

湖西市廃棄物対策課 石田千博課長
Q.消火設備はない?
A.「消火設備もあって、やはり火が出るのはわかっているので、初期消火はそこで行えるようになっている。一度、今回も消してはいるが、また何かのタイミングで燃えてしまった」

火災からおよそ5カ月たちますが、いまだに施設は稼働できていません。現在、湖西市の燃えないごみの処理をすることができず、他の自治体の施設に料金を払い対応してもらっています。

再稼働するにも数億円の費用がかかり、保険で賄えない部分は市の税金で支払うことになります。

湖西市廃棄物対策課 石田千博課長:「この改修工事に合わせて、散水装置を増設することを計画している。やはり小さなものでも、こういった大きな被害に繋がってしまいますので、捨てる前に充電式のものがないかということだけは、十分注意して捨てていただければと思う」

私たちの生活を豊かにしてきたリチウムイオン電池。一方で、処分の仕方を間違えると、大きな事故に繋がる危険性があるということを忘れてはいけません。

(10月31日放送)

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