秋は、渡り鳥がたくさん飛来し始める季節です。
カモ類は9月ごろから飛来し始め、10月ごろに一気に数が増えるのだとか。
身近なところにいる鳥たちも、実は遠く北方からやって来たのかもしれません。
この記事では、秋に飛来し始める「渡り鳥」についてご紹介。
渡り鳥の特徴や、気になるあれこれについてチェックしてみましょう。
渡り鳥とは?
世界に生息する鳥のうち、約1/5は渡り鳥なのだとか。
日本で見られる野鳥の多くも、季節によって住処(すみか)を変えています。
そもそも渡り鳥とは、どのような鳥なのでしょうか?
季節によって日本と海外とを移動する鳥
渡り鳥とは、日本と海外とを行き来する鳥を指すのが一般的です。
春頃から飛来して日本で夏を過ごす鳥は「夏鳥」、秋頃から飛来して日本で冬を過ごす鳥は「冬鳥」と呼ばれます。
10月は冬鳥の飛来が増え始める時期のため、海外からやって来たばかりの野鳥を目にすることもあるかもしれません。
▼夏鳥
ウグイス
カッコウ
ヒバリ
ホオジロ
ツバメ など
夏鳥は、冬を南の国で、夏を日本で過ごす鳥です。
例えば夏鳥の代表格であるツバメは、冬を温暖なタイやフィリピンで過ごし、春になると日本にやって来ます。
日本の冬は寒く、鳥のエサとなる昆虫などを十分に確保できません。
食べ物がたくさんある南国に行き、飢えないように過ごすのです。
「そんなに南国が快適なら、そのまま南にいればいいのでは?」と思いますよね。
しかしエサが豊富だということは、ライバルも多いということ。
卵を産んでもエサの確保や子育てに不安があるため、夏鳥は日本にやってきて産卵・子育てをするのです。
▼冬鳥
マガン
オオハクチョウ
ツグミ
ナベヅル
コガモ など
冬鳥とは、夏を北の国(主にシベリア)で過ごし、冬になると日本にやってくる鳥です。
9~10月ごろから飛来し始め、翌年の3~4月ごろに北に帰っていきます。
冬鳥が日本に飛来するのは、食べ物を確保するためです。
冬鳥が暮らす北の国は、冬になると雪と氷に覆われます。
より温暖な日本に飛び、エサを確保しようとしているのですね。
冬鳥についても「日本が快適なら、ずっと日本にいればいいのに」と思ってしまいます。
しかし春夏の日本は危険な敵も増え、冬鳥にとっては産卵・子育てに適した土地ではありません。
敵が少なく、安心して暮らせる北の国に帰ってしまいます。
▼旅鳥
イソシギ
チュウシャクシギ
コチドリ
タゲリ
ハシボソミズナギドリ など
旅鳥とは、日本を中継して日本より北や南に飛んでいく鳥です。
夏は日本より気温の低い北の国で、冬は日本よりさらに暖かい南の国で過ごします。
日本列島を縦断していくわけですから、飛行距離は当然長くなります。
例えばハシボソミズナギドリは、タスマニアやオーストラリア南部から、ロシアのカムチャッカやアラスカのアリューシャン列島などまで飛ぶといわれています。
「日本でちょっとひと休み……」と考えてもおかしくはありません。
ところでスズメやカラス、ハトなどの鳥は、一年中見かけますよね。
これらの鳥は、日本を出ていくことはなく一年中ほぼ一定の地域で過ごします。
このような鳥は「留鳥(りゅうちょう)」と呼ばれ、渡り鳥とは区別されます。
移動距離は数万キロに及ぶことも
渡り鳥の移動距離は、鳥によって異なります。
特に旅鳥と呼ばれる鳥は、移動距離が長い傾向です。
中でも「キョクアジサシ」は、世界で最も移動距離が長い渡り鳥として知られています。
キョクアジサシに発信器を付けて観察したところ、グリーンランド(北極)と南極の間を往復していたことが明らかになりました。
個体の一年の移動距離は、80,000kmにも及ぶのだそうです。
キョクアジサシの寿命を30年と考えると、一生のうちの総移動距離は240万km。
これは地球を60周できる距離だといいますから、すごいですよね。
上述したハシボソミズナギドリも、その飛行距離は30,000kmといわれています。
渡り鳥についての疑問
小さな渡り鳥が海を越えて飛び続ける……と聞くと、「どうしてそんなに飛べるの?」と疑問が湧いてくる人も多いのではないでしょうか。
ここからは、渡り鳥について気になるあれこれをご紹介します。
なぜ長距離を飛べるの?
渡り鳥が長距離を飛べるのは、長距離飛行用の体を持っているためです。
渡り鳥の多くは、長距離飛行に備えて体にたくさんの脂肪を蓄えられます。
渡りの直前になると、通常サイズの2~3倍に肥え太る鳥も少なくないのだとか!
飛行中の渡り鳥は脂肪を消費しながら飛ぶため、長期間飲まず食わずで飛び続けても平気なのです。
例えばハジロカイツブリという鳥は、消化器官を大きくしたり小さくしたりできることが分かっています。
渡りの直前には消化器官を大きくして、体をたっぷりと太らせます。
そして渡りの直前になると消化器官や脚筋を通常より小さくし、胸筋を増やし、長距離飛行に備えるのです。
食べる量が調整できたり、指定の筋肉を増減させたりできるのはちょっとうらやましいですね。
寝なくても平気なの?
渡り鳥の中には、数カ月飛び続ける鳥もいます。
「寝ないで飛ぶの……?」と気になるところですが、渡り鳥は「半球睡眠(はんきゅうすいみん)」が可能なのではと考えられています。
半球睡眠とは、片目を閉じて眠ることです。
右目を閉じているときは左脳が、左目を閉じているときは右脳が眠っています。
飛行中どれほど眠くても、完全に寝てしまうわけにはいきませんよね。
渡り鳥は半分ずつ脳を休ませながら、止まることなく目的地まで飛び続けます。
ちなみに半球睡眠は、イルカやクジラなどでも見られるのだそう。
人間も片目だけつぶると、両目を開いているときよりは脳の働きを抑制できるといわれています。
道に迷わないの?
渡り鳥は、「太陽」「星」「地球の磁気」をヒントに渡りを行っています。
渡り鳥が位置を確認する上で、重要な役割を果たしているのが「太陽コンパス」です。
飛行中の渡り鳥は、「日の出からの時間」「太陽の位置」で正確な位置を割り出します。
地球が南北方向に発する「磁気」を感じる力もあり、決して道に迷うことはありません。
また夜間飛行中は、夜空の星が目安です。
鳥は星の位置を確認しながら、飛行を続けます。
このほか「風向き」「地形」「仲間の気配」なども、渡り鳥にとっては有力な手掛かりとなるそうです。
ただし現在のところ、渡り鳥の詳細については分からないことがたくさんあります。
渡りの詳しいメカニズムについては、今後の調査を待たなければなりません。
そろそろ日本にやってくる!冬を代表する渡り鳥
日本で見られる野鳥はほぼ渡り鳥で、たくさんの種類がいます。
ここからは、これから日本にやってくる「冬鳥」をピックアップしてご紹介します。
ユリカモメ
東京都の鳥に指定されているのが、「ユリカモメ」です。
全長は40cmほどで、赤いくちばしと足がチャームポイント。
その昔は「都鳥(みやこどり)」とも呼ばれ、在原業平や和泉式部の和歌にも登場しました。
日本のユリカモメは、主にカムチャッカ半島から渡ってくることが分かっています。
海岸、河口に多く見られ、鳴き声は「ギィー」「ガッガッ」などです。
日本には9月ごろから飛来し始め、5月ごろには北に渡ってしまいます。
冬は同様にカモメも飛来します。
カモメはくちばしや足が黄色です。
夏に見かけるのはその多くがウミネコです。
ウミネコは留鳥ですので、夏も日本で過ごします。
ウミネコは黄色いくちばしで先端が黒っぽくなっており、さらに尾羽に黒い帯があります。
カモメにはその帯がありませんので、飛んでいるときにも見分けやすいです。
オオハクチョウ
シベリアからやってくる、日本を代表する冬鳥です。
白く大きな体をしており、全長は140cm、羽を広げると200cm以上になります。
黄色と黒のくちばしが目印で、「コォーコォー」という優しい鳴き声が特徴です。
日本に飛来した際は、湖や沼・大きな川・河口・湾などに生息します。
家族の絆が強いことで知られており、行動するときは数羽の子どもと夫婦がみな一緒。
家族の集団がいくつも集まって、数百羽・数千羽にも上る群れを形成することもあります。
飛来地は、主に北日本や日本海側の地方です。
毎年10月上旬ごろに飛来が始まり、3月下旬くらいまで姿が見られます。
ナベヅル・マナヅル
冬を日本で過ごす鳥といえば、ツルを外すわけにはいきません。
日本最大規模のツルの越冬地・鹿児島県出水市には、毎年10月中旬から12月ごろにかけて、シベリアから7種類ものツルがやってきます。
世界のツルは15種類といわれますから、約半分の種類が一同に介している状態ですね。
このような光景が見られるのは、出水市以外にはありません。
最も多いのはナベヅルで約9,000 羽、次いでマナヅルの約3,000 羽です。
ナベヅル(下記画像)は、焦がしたナベのススのような黒っぽいカラーが特徴。
一方マナヅル(下記画像)は、灰褐色と白色が融合したグラデーションのきれいな色味です。
体長は、ナベヅルが全長約96cm、マナヅルが約127cm。マナヅルの方がだいぶ大きいですね。
このほか出水市には「クロヅル」「カナダヅル」「ソデグロヅル」なども飛来します。
まとめ
日本の野鳥のほとんどが、季節によって住処を変える渡り鳥です。 小さな鳥が海を越えて飛んでいく……と考えると、どこにそのようなパワーがあるのか不思議に感じますよね。 9月から12月にかけて、日本にはさまざまな鳥が飛来してきます。 「見たことのない鳥だな……」と感じたら、図鑑やスマホなどでぜひチェックしてみましょう。 もしかすると、ものすごく遠くからやってきた渡り鳥かもしれません。 文/カワサキカオリ