【今週のサンモニ】不公正、理不尽、不誠実なダブル・スタンダード報道|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。相も変らぬ「ダブル・スタンダード」連発です。

公共の電波でダブル・スタンダード

2023年11月5日の『サンデーモーニング』は、相も変わらず【ダブル・スタンダード=二重基準 double standard】を連発しました。

自分のことを棚に上げて攻めやすいスケープゴートを叩くのは、テレビ番組が持つ生存本能です。誰かを叩かなければ視聴率が上がらないという情報番組の宿命(サガ)は、ダブル・スタンダードよりも優先するということです。

ダブル・スタンダードとは、特定の論者が複数の言説の真偽を異なる基準で判断することです。言説の真偽が異なる基準で判断されることは非合理です。これを許容すれば、論者の意図が言説の真偽に介入できることになり、社会はいくらでも【不公正 unfair】になります。公共の電波を独占利用するテレビが、判断の基準を事案によって変えることは公共性に反する行為です。

なお、注意する必要があるのは、論者のダブル・スタンダードを根拠にその言説を否定するのは【お前だって論証 Tu quoque / You also】と呼ばれる論点相違の誤謬です。論者が過去に行なった判断は言説の真偽とは無関係です。私たちは常に「言説が前提から妥当に導かれているか否か」にのみに着目しなければなりません。

日本大学とテレビ局の対応の違い

さて、今週は、放送中に特に酷いダブル・スタンダードを認識した3つの事例について、順に紹介していきたいと思います。

関口宏氏:日大アメフト部の薬物事件、この日、外部の弁護士による第三者委員会が調査結果を公表。「事実を矮小化、時に無いものとする不適切な姿勢があった」と厳しく批判しました。その一つが事件を担当している澤田副学長の対応。アメフト部の寮で見つかった大麻とみられる植物片を警視庁に報告せず大学で12日間保管していました。そして…

日本大学・林真理子理事長(VTR):違法な薬物が見つかったとかそういうことは一切ございません。

関口宏氏:当初、疑惑を否定していた林理事長のこの発言、「失言に近い」と評され、「正しく事実を伝えようとする姿勢に欠けていた」と指摘されました。

浜田敬子氏:報告書を読むと「不都合の情報に目を瞑り、自己正当化した」という件(くだり)が何度も出てくるが、こういうのは日大に限らず、最近不祥事を起こした企業に共通している。例えば、ビッグモーターもそうだし、ジャニーズ事務証もそうだった。なぜそんなことが起きるかというと、自分たちの組織の中だけの常識にとらわれていて、外部環境がどれだけ変化しているか、外部の常識とかけ離れた判断をしてしまう。今回「組織の体をなしていない」とまで言われて、これだけの事件を起こしてガヴァナンス改革と言って理事会のメンバーを入れ替えたにもかかわらず、結局同じような体質が残っていたということだ。

浜田氏の厳しいコメントは至極妥当です。ただし、この番組を放送するテレビ局は恥を知る必要があります。それは、自らの不祥事に対して外部の専門家からなる第三者委員会に自らの行動を検証させた日本大学の方が、「メディアの沈黙」について自己検証で済ませているテレビ局よりはよっぽどマシであるからです。

公共の電波を独占利用するテレビが、自分のことを棚に上げて攻めやすいスケープゴートを厳しく叩くのは極めて不公正であり、放送の私物化です。

日本大学とテレビ局の対応を比較してみましょう。

まず日本大学は、7月6日に植物片を発見、12日後の7月18日に警察に届け出、8月3日の部員逮捕から20日後の8月24日に外部の弁護士による第三者委員会を設置して同部を無期限の活動停止処分にしました。

一方テレビ局は2004年ジャニー喜多川氏による性加害の最高裁確定の事実を約20年が経過した2023年4月にはじめて報道、8月4日に国連人権理事会による「メディアの沈黙」の指摘があったものの、10月になって一部テレビ局が自己検証番組を行なったのみで、いまだに第三者委員会を設置するという正式な発表はありません。不祥事を起こしたジャニーズ事務所に対しては「タレントに罪はない」という詭弁で取引を継続しています。

これはまさに「事実を矮小化、時に無いものとする不適切な姿勢」であると言えます。

事実を認めても責任を認めない

日本大学の林理事長は事実が確定する前日に行なわれた8月2日に囲み取材で「違法な薬物が見つかったとかそういうことは一切ない」と発言しましたが、例えばTBS社長も7月の定例会見で「報道に関しては、事務所への忖度はない」と発言しています。これはTBS『報道特集』の自己検証と矛盾しています。

各局の自己検証番組も「男性の性加害に意識が低かった」という通り一遍の弁解に終始する内容であり、まさに不都合の情報に目を瞑り、自己正当化しています。結局、自分たちの組織の中だけの常識にとらわれていて、外部環境がどれだけ変化しているか、外部の常識とかけ離れた判断をしています。

テレビ局は自己検証で「メディアの沈黙」の事実を認めても責任を認めないのです。これでは、組織の体をなしていません。薬物事件とは比較にならないこれだけの性加害事件を沈黙してガヴァナンス改革も発表しないのでは、結局同じような体質が残っているということです。

自分に優しく他人に厳しい日本のテレビ局の最大の問題は、自分にできないことを他人に求めていることです。これでは、視聴者が事案の軽重を判断することが困難です。

青木理氏:法務副大臣が選挙買収、しかも現金をばら撒いたという疑惑まで出てきている。文科政務官が女性との不適切な関係で辞める。それぞれ職務に密接した不祥事で辞めるのはブラックジョークだ。適材適所のインチキ性が露わになっている。岸田政権のダメージも大きい。

ブラックジョークそのもの。

青木氏のコメントは至極妥当です。職務に密接した不祥事で副大臣・政務官が辞任するのは、「適材適所」を疑うのが妥当です。ただし、職務に密接した不祥事というのであれば、『サンデーモーニング』の生放送で「汚染水放出デマ」をまき散らすなど、不適切なコメントを乱発している青木氏もコメンテーターとしては不適です。

それでも番組が青木氏を起用し続けることで、左翼に偏向した番組のインチキ・キャスティングが露わになっています。青木氏が、職務に密接した自分の不祥事を不祥事とは思わずに、職務に密接した他人の不祥事を非難しているのは、よりブラックなブラックジョークです(笑)

草津の件は男性に対する逆差別報道

関口宏氏:海上自衛隊・呉地区の部隊で男性隊員が女性隊員に対して背後から抱きついたり、卑猥な言葉を投げかけていたことがわかりました。部隊の幹部は女性が拒否していたにもかかわらず、男性隊員と面会させ、謝罪を受けさせたといいます。女性隊員は今年退職しています。被害者が声を上げにくい性被害、専門家は女性差別を禁止する法整備の必要性を訴えています。

浜田敬子氏:被害者の人権を無視した対応。被害者なのに退職に追い込まれた。最悪の結末だ。自衛隊は組織内での人権意識が本当に薄い。だからこれほどのハラスメントが次々と起こる。もう一つが、男性中心の組織で男性がかばい合う組織なのでセクハラが横行している。被害者は「自衛隊からセクハラがなくなることは絶対にない」と。組織風土を根本からどうやって変えていくのか非常に重い課題だ。

セクハラは挙証責任が困難であるため、しばしば被害者が泣き寝入りする事例が報告されています。女性にとってこのことは大きな問題ですが、逆に女性であることを悪用して無実の男性にセクハラの罪を着せた冤罪事件も報告されています。

「元草津町議が初めて虚偽認める」がトレンド入り 大田区議「酷いことを言っていた連中」に疑問/デイリースポーツ online

極めて悪質なことに、『AERA』やハフポストなど一部のメディアは、女性であることだけを根拠に、この女性を無批判に支援する偏向報道を行ったのです。

まるで現代の魔女狩り? 性被害を訴えた草津町議会女性議員へのリコール | AERA dot. (アエラドット) 性被害を告訴した元草津町議の女性が会見 会場の関心と#MeTooのズレに衝撃を受けた | AERA dot. (アエラドット) 日本は「性差別や不平等が蔓延」。草津町議リコールで、海外メディアの報道続く。

これは男性に対する明らかな逆差別報道であり、男性に対する合理的根拠を欠いた非難は厳に慎む必要があります。

テレビ業界のホラーなセクハラ

さて、浜田氏は、自衛隊をセクハラの温床となっている男性社会として徹底的に非難しましたが、世間と比較して女性が異様にセクハラを受けている組織として挙げられるのが、テレビ局です。

例えば、テレビ朝日の労働組合の調査結果(2018年)によれば、女性社員の56.3%が社内関係者からセクハラ被害に遭っていることが判明しました。これは、確かに女性隊員の86.5%がセクハラ及びマタハラを受けたとされる自衛隊よりは低いものの、日本企業の平均値の約2倍という衝撃の値です(ちなみに34%が社外関係者からセクハラ被害に遭っています)。

テレビ朝日内部資料「女性社員の56%がセクハラ被害」の衝撃

また、元TBS記者の清水沙矢香氏は次のように証言しています。

・テレビ業界でウケたセクハラは、もはやホラーの領域だった。
・テレビ業界は長らく「男社会」だった。
・強制的にキスをされる。体を好き放題触られる。etc.

テレビは、自衛隊のセクハラを繰り返し非難するのであれば、テレビ局自身のセクハラについても調査して公表するのがフェアと考えます。

いずれにしても、公平・公正・正確な情報の発信に努め、報道機関としての使命を果たす行動を目指すはずのテレビが、自分にとって好ましくない情報を同様に扱わないダブル・スタンダードを展開しているのは、不公正であり、理不尽であり、不誠実です。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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